オリックス「西川龍馬は5番がいい」と星野伸之が野手陣を分析 今季の打順やポジションはより「変幻自在」
星野伸之が分析する2024年のオリックス
野手編
(投手編:山本由伸や山粼福也が抜けたオリックス投手陣 「大黒柱」候補の山下舜平大は「15勝は狙える」>>)
オリックスの春季キャンプを視察した星野伸之氏に聞く2024年のチーム分析。後編では、西川龍馬らが新加入して注目が集まる野手陣の起用法、各選手の状態などを聞いた。
広島からオリックスに加入した西川 photo by Sankei Visual
――春季キャンプを経て、現在はオープン戦が続いていますが、野手陣をどう見ていますか?
星野伸之(以下:星野) 多くの選手が、さまざまなポジションを守っていますね。新加入の西川龍馬がレフトで出た試合があったのですが、2打席立った後に福田周平がレフトに入り、最後は池田陵真がレフトを守った。渡部遼人はセンター、レフト、センターとポジションを変えていましたし、相変わらずポジションチェンジが目まぐるしいなと。
ほかにも、野口智哉はショートを守った後にライト、センターと移って、最後にはショートを守っていましたし、廣岡大志も内外野を守る。昨年にも増して多くの選手が複数ポジションを守れるように準備しているので、「この選手がいなくなったらまずい」と戦力ダウンするリスクを減らすことができますね。
――新外国人のコーディ・トーマス選手は外野手ですね。
星野 昨年は杉本裕太郎があまりよくなかったので、ライトはトーマスと競わせるのかもしれません。西川も入りましたし、外野のポジション争いは激しくなりそうです。基本的にはセンターが中川圭太、レフトが西川だと思いますが、渡部あたりが成長してきてくれるといいなと。
渡部は阪神の近本光司のバッティングを参考にして取り組んでいるようですが、彼は足が使えるので、課題の打撃が向上すれば攻めのバリエーションが増えます。"守りのスペシャリスト"どまりで終わらないようにアピールしてほしいです。
――新加入の西川選手は、オープン戦で1番、3番、4番などいろいろな打順で出場していますね。
星野 そうですね。これはシーズンに入ってからの話ですが、個人的に西川は5番がいいのかなと思っています。パ・リーグは知らないピッチャーばかりでしょうが、前のバッターの打席を見ることでどんなピッチャーかがある程度わかるはず。それで慣れてきたら、1番や3番を任せるのもアリかなと。広島時代もいろいろな打順を経験していますし、日替わりオーダーのオリックスにフィットしそうですね。
――森友哉選手や頓宮裕真選手ら、首位打者になった経験があってバットコントロールのうまい打者が上位打線に並び、同じくバットコントロールが巧みな西川選手が加わる。相手バッテリーは頭を悩ませそうです。
星野 頓宮は昨年に首位打者を獲りましたが、掴んだ感覚を忘れずに今年も結果を出すことができるか。大事な年になると思います。打順に関しては、4番は森でも頓宮でも西川でもいいんじゃないかと。相手のブルペンに左ピッチャーがいれば左右ジグザグに組んでもいいでしょうし、左がいなければそうしなくてもいいのかと思います。
あとは、ピッチャーとの相性も考慮して決めるでしょう。昨年は135通りのオーダーを組んだわけですから、今年もいかに繋げていくかを重視して打順を柔軟に変えていくんじゃないでしょうか。
【あらゆる面で「嫌な打線」】――昨年の打線はつながりのよさだけではなく、一発もありました。
星野 そこも強みですよね。本塁打王がいるわけではないのですが、昨年のチーム本塁打(109本塁打)や長打率(.369)はリーグトップでした。森や頓宮には一発がありますし、杉本や(レアンドロ・)セデーニョが下位打線に入ったりもするので相手は怖いですよね。
選手も打順も自在に変わるので、相手は「今日のオリックスは何番に誰が入るのか」といったミーティングがおそらくできない。全員で戦っているので「誰かをマークすればいい」という打線ではないですし、右バッターと左バッターの人数のバランスもよく変幻自在です。
――ここ数年、オリックスには勝負強いバッターが多い印象です。それほどアベレージは高くなくても、大事な場面で打つシーンをよく目にします。
星野 ほかのチームも同じかもしれませんが、キャンプではみんなが逆方向に打つ練習を徹底していましたし、センターを中心に打ち返す練習をしていました。当たり前のことを練習で徹底しているからこそ、試合の"いざ"という場面で打線がつながるんだと思います。頓宮も「センター返しを徹底したことが結果につながった」と言っていましたしね。
それと、ボールゾーンの球は、全員が自信を持って見逃がしますよね。選球眼の部分でも練習から徹底している。昨年までのリーグ3連覇はピッチャー陣の頑張りが注目されがちですが、勝負強い打線があったからこそだと思っています。
――簡単に打席を終わらせない、粘り強いバッターが多いですね。
星野 3連覇の最初の年(2021年)は、主に1番を任されていた福田周平が中嶋聡監督から出塁率についてよく言われていましたが、特に交流戦で出塁率5割と見事に期待に応えました(シーズンの出塁率は.354)。どの打席でもよく粘っていましたし、トップバッターの役割を果たしていましたね。シーズンが終わった時は「すごく大変でした」と言っていましたが。
ベテランのピッチャーになるほど、粘るバッターは嫌なんです。若いピッチャーは粘られても一生懸命投げますけど、ベテランは早く打ち取ってベンチへ戻りたいものです(笑)。オリックスは打てない時でも、打てないなりに粘れるので本当に嫌な打線だと思いますよ。
――とはいえ、1番にはさまざまなタイプのバッターを起用していますよね。
星野 そうですね。福田みたいに粘れるバッターのほかにも、打線に活気がない時などは積極的に打っていくバッターを1番に入れることもあります。2022年の日本シリーズで、太田椋を2試合連続で1番スタメンで起用したことがありましたが、その第7戦でプレーボール直後の初球を打って先頭打者本塁打を放つなど、"起爆剤"としての役割を見事に果たしてくれました。
今年もオープン戦で、西川を1番に起用した次の日に福田を起用したりしていて、いろいろな含みを持たせていますよね。複数のポジションや打順で選手が力を発揮してくれるのは、常日頃の練習からその準備をしているからです。今回キャンプを視察して、そのことをあらためて感じました。
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。