【オープン戦は少し苦戦も、高い評価は変わらず】

「速球の制球が最も印象的だ。速球をどの位置にも投げられるのであれば、ほかの球種を投げるのもより簡単になる。制球のよさという点で、全盛期のザック・グレインキーを思い出させる。(当時の)ザックは球速と制球を兼ね備えていた」

 デイブ・ロバーツ監督は2009年のサイ・ヤング賞投手を引き合いに出したが、ロサンゼルス・ドジャースの新戦力は"球威と制球力の融合"が話題となっている。今オフに12年3億2500万ドル(約487億円)の契約を結び、メジャー屈指の名門チームへの入団を果たした山本由伸のことだ。


3月21日のパドレスとの開幕シリーズ第2戦に先発予定の山本由伸photo by Getty Images

「NPB最高の投手」という鳴り物入りでアメリカに降り立った右腕は、オープン戦に3度登板して防御率8.38。数字は物足りないかもしれないが、それでも最高級の先発ピッチャーという評価はほとんど変わらない。

「今の彼は環境が変わり、適応しなければならないことがたくさんあるだけ。まだ春季キャンプの途中で、アイディアを持って取り組んでいる。もっと向上するはずだし、私としては全体の進歩には好印象を持っている」

 ドジャースのマーク・プライアー投手コーチがそう述べたとおり、さまざまな面で試行錯誤を続けた春の投球に関しては、必要以上に取り上げるべきではないのだろう。

 期待度が極めて高いことは、大方の予想どおり、山本が3月21日に韓国で開催されるサンディエゴ・パドレスとの開幕シリーズ第2戦の先発を任されたことからも見て取れる。

「山本はサイ・ヤング賞候補になるとずっと考えていた」

"ピッチングニンジャ"の愛称でも知られるベースボール・アナリスト、ロブ・フリードマンはそう評していたが、開幕後も山本はしばらくメジャー最大級の注目選手のひとりであり続けるだろう。

 身長178cmとメジャーリーガーとしては小柄な身体から、95マイル以上の快速球とキレのいい変化球を投げ込む。持ち球はすべて一級品で、それらをいつでもどんなコースにも投げられるのも魅力。また、左足をほとんど上げず、タメを作らないすり足のようなフォームから、抜群の球威を誇る球を投げられるのもユニークだ。やり投げのような器具を投げる「ジャベリックスロー」など独特の調整法も含め、現地ではまだミステリアスな存在と見られている印象もある。

【"ザ・フリーク(怪物)"との共通点】

 そんな背番号18とよく似たメジャーリーガーがいるとしたら......それは誰なのか。

 冒頭のロバーツ監督のコメントに出てきたグレインキーは、確かに面白い比較対象と言えよう。メジャーを代表する右腕のひとりであるグレインキーは、昨季まで20シーズンをメジャーで過ごし、通算225勝、オールスター選出6回、サイ・ヤング賞受賞1回。速球の速度や勢いは山本に劣るものの、7色の変化球とコントロールのよさを兼備している点では共通点がある。

 個人的には、初めて山本をフィールドで見た際、ニューヨーク・ヤンキースのマーカス・ストローマンに似ていると思った。身長は170cmだが、ストローマンは最速96マイルの速球を武器に"ケレン味のない"投球を得意とする。ただ、近年はツーシームを軸にゴロを打たせるピッチングが持ち味になった感があり、カーブやスプリットも駆使する本格派の山本と今のストローマンは、サイズ以外はそれほど似ているとは言えないのかもしれない

 そのほかの山本の比較対象として、ドジャースの右腕ウォーカー・ビューラーは少し懐かしい名前を挙げた。

「これまでにも小柄な投手はいて、真っ先に浮かぶのはティム・リンスカムだ。リンスカムと同じように、ボールが山本の手から勢いよく飛び出してくる」

 リンスカムという珍しいラストネームを聞き、その全盛期に想いを馳せたファンも少なくないだろう。"ザ・フリーク(怪物)"と呼ばれ、センセーショナルな存在になったリンスカムは2008、09年に2年連続でサイ・ヤング賞を受賞。2008〜10年は3年連続で最多奪三振のタイトルを獲得している。

 公称180cmよりも実際の身長はかなり低く、童顔も印象的だった。一見頼りなさげな細身の右腕が、並いるメジャーの強打者たちを撫で斬りにする姿は爽快感があった。

「同じ体型というわけではないし投げ方も違うが、背丈は私が一緒にプレーしたリンスカムに似ている。ティミーはすばらしいキャリアを過ごした。彼の身体の使い方はすべてが調和しており、制球のよさが印象的だった」

 ロバーツ監督もそのように山本とリンスカムの共通点を指摘し、『MLB.com』のデビッド・アドラー記者も「適切な比較だ」と話した。

 全盛期のリンスカムは"大黒柱"と呼ぶに相応しいエースであり、所属したサンフランシスコ・ジャイアンツの世界一にも貢献している。小さな身体への負担が大きかったのか、ピークが長くなかったのは事実だが、それでも2008年〜2014年まで7年連続ふた桁勝利をマークした。

 今季からメジャーに加わった山本が、リンスカムのような実績を残してくれればドジャースの上層部は万々歳だろう。いずれにしても、グレインキー、リンスカムといったサイ・ヤング賞を受賞した経験がある投手の名前が引き合いに出てくることは、山本のポテンシャルが高く評価されていることの証明である。

 その期待に応えるべく、1年目にどんな働きを見せ、どれだけのピッチングで魅せてくれるか。これから始まる山本の新章が楽しみだ。