春の「最強スプリンター決定戦」となるGI高松宮記念(3月24日/中京・1200m)には、昨秋に行なわれた秋のスプリントGI、スプリンターズS(中山・芝1200m)の上位3頭がそろって出走する。

 その意味では、出走メンバーのレベルは高水準にあると言える。

 しかしそれでもなお、現在のスプリント路線における大方の見方は「混戦」。今回の高松宮記念にしても、それなりのメンバーがそろっているとはいえ、ここ数年と同じく「これといって抜けた存在がいない」という評価にある。

 まさに日本のスプリント界は、久しく"スター"がおらず、"絶対王者"の座が空席のままなのだ。

 そんななか、スプリンターズSのトップ3を差し置いて、「次代のスター候補」と熱い視線を注がれている存在が、東西それぞれのトレセンにいる。


高松宮記念でスプリント界の絶対王者となる存在は出てくるか。photo by Eiichi Yamane/AFLO

 1頭は、美浦トレセンの高柳瑞樹厩舎が管理するトウシンマカオ(牡5歳)。同馬は前々走のGIII京阪杯(11月26日/京都・芝1200m)、前走のGIIIオーシャンS(3月2日/中山・芝1200m)と、いずれも強い競馬を見せて完勝した。

 もう1頭は、栗東トレセンの杉山晴紀厩舎に所属するルガル(牡4歳)。同馬は、前走のGIIIシルクロードS(1月28日/京都・芝1200m)で2着に3馬身差をつける圧勝劇を演じた。

 この2頭に共通するのは"勢い"だ。

 トウシンマカオは、3歳春頃までは1400m〜1600m戦を使われてきたが、3歳夏からスプリント路線にシフト。そこから、徐々に頭角を現して、3歳秋にはGIII京阪杯を勝って、重賞ウイナーの仲間入りを果たした。

 しかしながら、以降は重賞戦線で善戦はするものの、勝ちきれないレースが続いた。昨年の高松宮記念でも穴人気しながら15着と惨敗を喫して、いわゆる"脇役"といったポジションに収まりかけていた。

 ところが、その矢先に重賞2連勝。その結果について、競馬専門紙記者はこう評価する。

「2戦とも、いい内容でしたね。道中は先行勢か、そのあとくらいに待機して、直線で一気に差しきる競馬。そうした形が安定していて、京阪杯ではラスト3ハロンで32秒台をマークする鋭い末脚も見せました。

 しかも、どちらのレースもメンバーがそろっているなかで、京阪杯では2着に2馬身差、オーシャンSでは同1馬身4分の1差をつけて勝っています。差がつきにくいスプリント重賞において、2戦続けての完勝。この勢いは本物でしょう。厩舎関係者の間でも『覚醒した』と評判です」

 加えて今回の高松宮記念では、鞍上が名手クリストフ・ルメール騎手に替わる。強力なパートナーを得て、GIの舞台でも過去2戦のような結果を出せれば、スプリント界の王者の座も見えてくるに違いない。

 一方、ルガルの評価も相当高い。前々走の京阪杯ではトウシンマカオに屈したものの、本番との関連性が深い前哨戦のシルクロードSを圧勝し、トレセン内では「トウシンマカオ以上の器」といった声もあるほどだ。

 とはいえ、ルガルは前走が初の重賞制覇。その次戦が初のGI挑戦となると、さすがにその壁は高いように思える。ただ、こうした"飛び級"はスプリント路線ではさほど珍しいことではない。

 実際、昨秋のスプリンターズSを勝ったママコチャ(牝5歳)は重賞未勝利でありながら、初のGI挑戦で頂点に立っている。それに比べれば、今のルガルのほうが"勢い"はある。

 実は、ルガルもトウシンマカオと同様、最初からスプリンターとして育てられてきたわけではない。同馬のこれまでの経緯について、先の専門紙記者が説明する。

「ルガルは、もともと『いい馬だ』と言われていましたが、デビュー戦はダートの1800m戦。その後も、距離は短縮されましたが、3戦続けてダート戦を使われてきました。その理由は、素質は高いものの、馬の完成度がそれに追いついていなかったからです。

 そこから、芝を使えるようになったのは、3歳の春。以降、だんだんと成績も上がっていきました」

 そして、周囲が「馬が変わってきた」と感じ始めたのが、昨年の秋頃。古馬相手のオープン、重賞で健闘を重ね、暮れの京阪杯で2着と奮闘。そこで、陣営はこの馬の能力の高さを再認識したという。

 そのうえで、その認識が「正しかった」と証明されたのが、前走のシルクロードS。スプリント路線のトップクラスをまったく寄せつけなかった走りは、多くのファン、関係者の度肝を抜いた。専門紙記者が言う。

「(シルクロードSでは)2番手から直線でいち早く先頭に立って、そのまま押しきった。あのレースは強かった。もともと『走る』と言われていた馬が、ようやく本領を発揮した、という感じでしたね。

 未完成だった馬が完成期に入った。おそらく、今がひとつのピーク。前走後の調教を見ても、迫力満点の動きを披露し、さらに一段階、馬がよくなった印象があります。この勢いは、他の実績馬にも、トウシンマカオにとっても、脅威だと思います」

 振り返れば過去2年、高松宮記念は馬場悪化によって、大波乱の結果に終わっている。それはつまり、雨が降りやすいこの時期の天候や、開催最終週であることによる、ひと筋縄ではいかない荒れ馬場を味方につけなければ、勝てないレース、ということだ。

 だが、"王者"として君臨するような名馬は元来、荒れ馬場も、トラックバイアスも、モノともしない。

 トウシンマカオとルガル――。はたして、この2頭は中京の荒れた馬場も難なくこなし、屈強なライバルたちをねじ伏せることができるのか。

 長く続く群雄割拠の様相に終始を打ち、スプリント界に新たなスターが誕生することを期待したい。