すずき・たかこ/1986年北海道帯広生まれ。NHK長野放送局を経て2012年に衆院選北海道7区に出馬し落選。2013年に石川知裕氏の辞職に伴い比例ブロック北海道で繰り上げ当選。4期目。防衛大臣政務官、外務副大臣などを歴任し3月12日から党青年局長(記者撮影)

2023年11月に自民党青年局近畿ブロックの懇親会で過激なダンスショーが催された問題により、出席した藤原崇・自民党青年局長らが辞任した。

国会議員や地方議員を含むおおむね45歳以下の青年党員22万人の代表であり、「総理への登竜門」と言われる青年局長。だが、歴代54人の局長の中で女性は第51代局長の牧島かれん氏(2020年に就任)のみ。

3月12日に第55代局長に就任した鈴木貴子氏に、いま自民党で何が起きているのか、青年局を今後どう立て直すのか聞いた。

大きなプレッシャーを感じる

――「過激ダンス」の問題はなぜ起きたのでしょうか。

自民党青年局という公的組織の懇親会は、メンバーの横のつながりを再確認して結束を図る場であって、ダンスショーがその目的に則っているかと言えば到底あり得ないことは明白だ。

サプライズ企画といっても常識でわかること。社会通念上、理解を得ることは不可能ではないか。各種懇親会の企画が党や青年局の活動方針に即しているか、意思決定のプロセスを複数人が協議して決定をするようにして再発防止に努めたい。

――自民党には国民の厳しい目が向けられています。その中での局長就任で、大きな責任を負うことになります。

自民党青年局長は党内外で「総理への登竜門」の1つであると言われている。大変重く意義あるポストだと認識している。普段の青年局長の仕事に加えて、信頼回復、立て直しという職責もある。

大きなプレッシャーを感じるし、実際に就任してみて想像以上に自分の言動の影響の大きさを感じる。9月に総裁選を控えたタイミングでの就任でもあり、状況は複雑だ。

われわれ青年局は「政治的立場」という矩をこえて動きたい。にもかかわらず、見えないけれど間違いなくそこにあるプレッシャーに阻まれることがある。グロテスクな難敵だが、その圧力との戦いが権力闘争であり、政治でもある。

――自民党青年局69年の歴史の中で、2人目の女性の局長となります。

そもそも女性議員が少ないことが異常で青年局に女性局長が珍しいのは当たり前だ。あるメディアが「2児の母である鈴木貴子衆議院議員が青年局長に就任」と書いたが、前局長が就任したときは「2児の父である藤原崇衆議院議員」とはたぶんどこも書いていない。

「不祥事を受けて女性局長を置くのは安易だ」とする記事もあったが、これまでほとんど男性だけのポストにし続けてきたことは安易ではないのか。

(2023年9月の)岸田政権の第2次改造内閣で人事を決定したとき、マスコミは女性の副大臣、政務官がゼロと騒いだ。だが、私が外務副大臣に就任(2021年10月)した際、女性は1人なのにこのときは騒がなかった。ゼロだと騒ぐ。ジェンダーに対するマスコミのリテラシーの欠如も感じる。


3月16日、自民党の「青年部・青年局、女性局合同全国大会」で話す鈴木貴子青年局長(左)。右手前は岸田文雄首相(写真:時事)

自分の立場や次の選挙のためになっていないか

――青年局をどう立て直しますか。

まず青年局とはなんぞやという原点を見つめ直す。歴代局長にそれぞれの思いはあっても、ゆるがない青年局の背骨があるはず。

青年局が党執行部に物申す集団であることは間違いのないアイデンティティだが、その根源には党への忠誠と愛党心、日本の行く末を思う愛国心が前提にあるはず。だからこそ、執行部も聞く耳を持つ。

しかし今、若い議員の発信は、自分の立場や次の選挙をにらんだショーアップ、批判のための批判になってはいないか。青年局は本来、自己研鑽の場であり行動する組織だ。自民党を通じて日本を良くしたい、自民党が変われば日本が良くなるという思いを持って行動するべきだ。

――鈴木さんは具体的にどう行動しますか。

党改革から能登半島地震の被災地支援、各レベルの選挙で仲間を当選させるための活動など、行動すべきことはたくさんある。何を言うかではなく、まず行動したいと思っている。

藤原前局長時代に(裏金問題で批判を集めている)安部派5人衆に直接、事実関係を明らかにするよう促しに行くことも議論したが、自分が今、やりたいのはそういうことではない。執行部などは対峙する相手であって意見具申もするが、マスコミの論調に引っ張られてただ執行部を突き上げるだけが青年局ではない。

自分の職責として、まず変えなければならないのは青年局のほうだ。青年局のメンバー1人ひとりの自覚を促したい。

娘から「お母さんのお腹に帰りたい」と言われた

――自覚とはどういうことですか。

愛党心、愛国心については述べたが、それに加えて青年局の議員としての誇り、組織への愛情を持つということだ。

余談だが、わたしが外務副大臣のとき、駐日ウクライナ大使と林芳正外相(現官房長官)との面会を阻止したと事実無根の話で週刊誌にたたかれた。

そのとき、家庭に帰ってもあちこちに電話せざるを得ず、当時4歳の娘に「お母さんのお腹に帰りたい」と言われてしまった。ショックだった。そこで母親として何があっても絶対に娘を守っていくと、改めて自覚した。自覚とはそういうことだ。

自分が何者でどう行動するべきなのか、自覚があれば行動は変わる。自民党の青年局の一員としてどう行動するべきなのかは、青年局の一員としての自覚にかかっている。その自覚があれば、ダンスショーの問題も起こらなかったと思う。

――最近の青年局は元気がないとも聞きます。

38歳の自分が言うのもなんだが、いまの若い議員は洗練されている。自民党は世襲議員ばかりと思われがちだが、民間出身や各界の専門家、知事経験者など、経歴は意外と多様だ。ただ、政局や政治的バランスに敏(さと)く、妙に賢い人が多くなっている。

わたしは青年局の最大の強みである「青二才」を前面に出していきたい。執行部に言いたいことは山ほどあるし、不条理を感じることもたくさんある。行動するエネルギーもある。でもお金がない、経験がない、人脈もまだまだ。だからこそ理想を語れる強みがある。

問題の根を本当に断とうとしているのか

――裏金問題の再発防止策の一環で自民党は「派閥解消」を決めました。しかし、鈴木さんはかねて派閥解消には否定的ですね。

派閥解消は裏金問題の根源的解決にならない。あくまで政治資金の透明性をどう担保するかが本質であって、派閥解消は論点のはぐらかしだ。国民に対してずるくないかと申し上げている。

結局、今になっても事実関係すら出てこない。これでは一層の政治不信につながる。問題の根を本当に断とうとしているのか、気構えが見えないことが非常に歯がゆい。

――派閥は必要ですか。

もちろん金権体質の旧態依然とした派閥に固執するつもりはない。「政策集団」への脱皮を否定するものでもない。だけど、一回派閥に足を突っ込んだら「解消」などと安易には言えない。政治は権力闘争であり、権力闘争をともに勝ち抜いてくために仲間は集結する。

だから派閥が選挙で一定の役割を果たしたり、その結果、人事に影響力を持ったりすることは不可避だ。それが日本の民主主義でもある。

(森 創一郎 : 東洋経済 記者)