AIをはじめとする技術の進化に伴い、「上司の役割」を考え直す必要があります(写真:buritora/PIXTA)

「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」

ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。

本記事では、AIをはじめとする技術の進化に伴って、若者がついていきたいと思う上司像が変化していることを書籍の内容に沿って解説する。

上辺だけ優しい上司には部下はついてこない


新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』の反響がとても大きい。出版以来、多くの企業から問い合わせがきている。ほとんどが経営者、幹部からだ。

「若い人にも問題があるが、上司にも問題がある」

「中間管理職への教育を考え直したい」

という声が多数だ。部下が成長しないのは部下本人の問題だと決めつけていることに、企業のトップたちはずっと違和感を覚えていたのだ。だから本書が発売されると、堰を切ったように「やはりそうか!」「そうだと思った」と声が上がっているのである。

残念なことに、現在の若い人はホワイト「すぎる」職場に魅力を覚えない。とくに上辺だけ「優しすぎる上司」はリスペクトされなくなっている。リスペクトされないどころか、ヒドイときは失望されるケースもある。

若者が上司に失望する2つの原因とは?

若者が上司に失望する原因は、以下の2つだ。

(1)ムダが多すぎること

(2)昔のやり方を変えないこと

デジタルで武装し、タイパ(タイムパフォーマンス)を強く重んじる若者たちに、

「なんでそんなムダなことをしているんだろう?」

と思われたら、失望されるのも仕方がない。

実務に関しては大丈夫だろう。ムダなことは、ほとんどないはずだ。これ以上、作業現場で「ムリ・ムダ・ムラ」をなくそうとしても難しいほど、日本は改善活動が徹底されている。

しかし職場内のコミュニケーションに関しては、どうか? たとえば、リアルで集まって「進捗報告」をさせる会議で考えてみよう。

メンバー10人を集めて、1人ひとりに

「今月はどう? 今の進捗を教えて」

とマネジャーが声をかけていく。それに対してメンバーは、

「今月の売上は670万円程度で着地しそうです。さらに上積みを狙っていきますが、けっこう難しいかもしれません」

「800万円の目標に対して、全然達成してないじゃないか」

「来月以降も厳しいです。値上げの影響が響いてまして」

「その話は先月も聞いたよ」

「申し訳ございません」

こんなやり取りが、2時間近く続く。同席した若者は、きっとこう思うだろう。

「1日の勤務時間が7.5時間なのに、2時間もこんな会議に費やすなんて、信じられない!」

手元の資料をめくりながら、

「進捗管理資料を見ればわかること」

「わざわざ集まって報告させる意味がわからない」

と呆れるはずだ。しかも会議がはじまってもムダ話が多かったり、成果が出ていない人の言い訳を聞かされたりしていると、

「大事な時間を返してほしい」

と誰だって思う(若者だけではない)。

ある25歳の営業が、このような不満を口にしていた。

「ある日、突然ミーティングルームに集められて、他社の成功事例を聞かされたんです。そんなことに30分もかけるなんて意味がわからない」

「配布された資料を読めばわかることだし、いきなりその場で意見を求められても、何を言ったらいいかわかりませんでした」

課長の呼びかけで、中堅から若い営業までの8人が集められ、30分近く拘束されたという。しかも一度や二度ではない。こういった日々の出来事に、強い不満を感じるようだ。

「あれで、お客様のところへ行く時間が大幅に遅れました。あんなことやっておいて、生産性を上げろ。残業はダメと言われても、できません」

「私が参加しているオンラインサロンではSlackを使っています。Slackを使えば、サクッと情報共有できるし、活発に議論もできる。職場でもそうしてほしい」

こう訴える。

繰り返すが、実務に関する上司のアドバイスは心強い。そこに不満はない。

しかし実務以外で学ぶことがない上司への失望感は、大きい。その実務でさえもAIやロボットに置換される可能性があると確信したら、

「上司から教わることはない」

「この職場では成長できない」

と烙印を押されてしまう。

AIに淘汰されていくマネジャーの特徴

そもそもの問題は、ほとんどのマネジャーが自分の役割をわかっていないことだ。マネジャーの仕事は目標管理である。どのように目標を達成させるのか。そのための管理がマネジメントである。

おそらく組織が小さなころは、マネジャーも本来のマネジメントの仕事を果たすことができたであろう。

しかし組織が大きくなると、いつの間にかそれができなくなる。

組織の規模に伴って、階層が深くなるからだ。本部長がいて、部長がいて、課長がいる。経営陣の下に3階層も組織マネジャーがいると、上からの情報を下へ伝達すること、下からの情報を吸い上げて上に伝達することが、マネジャーの仕事だと思うようになる。

つまり、いつの間にかマネジャーの仕事が「目標管理」から「情報管理」に変わってしまうのだ。

そう勘違いすると、マネジャーも都合がいい。自分の存在意義を肯定できるからだ。会議で報告させたり、情報共有することで仕事をした気分になれる。

しかし、デジタル技術の発達とともに、その役割はほとんど不要になった。

世の中には、便利なITツールが星の数ほどある。しかるべきタイミングで、しかるべき情報を入力することで、情報資産が蓄積され、それが組織の問題を解決する重要な手掛かりを見つけてくれたりする。

25年以上前のこと。私が日立製作所にいたころに、営業活動を見える化する「SFA/CRM」の設計開発に携わった。このシステムがあることで、営業マネジャーが、

「現状どう?」

「今期の数字はいきそう?」

と部下の営業たちにヒアリングする必要がなくなるのだ。

日々の営業活動で知り得た情報を正しく蓄積することで、商談のどこに問題があるのか? どのようなお客様に何を提案すれば受注する確率が高まるのか? システムが教えてくれるようになる。

上司の仕事は「情報管理」ではなく「目標管理」

昨今は、進化したAIを実装しているため、これらのシステムは精度の高い売上予測までできるようになった。「目標管理」こそがマネジャーの仕事だと理解している人は、このようなシステムを導入したいと思うし、部下に活用させる「権限」がある。

しかし、これまでやってきた「情報管理」が自分の仕事であり、「情報管理」することで「責任」をまっとうできると誤解しているマネジャーは、このような便利なシステムを使いたがらない。

自分の仕事がなくなるからだ。

これまでは、

「現状どう?」

「今期の数字はいきそう?」

と会議でヒアリングしていればよかった。しかしシステムが導入されると、現状のデータに基づいて、どこに問題があり、どのように問題解決すべきか。「コンセプチュアル」を使って仮説を立てなければならない。

アナログに固執するマネジャーは失望される

部下にとっては、そのほうが断然ありがたいはずだ。とくに、デジタルネイティブの若者は「タイパ」を重んじる。はやく成果を出したいし、はやく成長したいのだ。

だからこそ、便利なデジタル技術を使わず、データを分析することもなく、口頭で確認しようとする上司に対し、強い違和感を覚えるのだ。

「一見ムダのように見えて、実は意味のあること」

などと到底思えず、

「本当にムダなこと」

と、若者の目には映るだろう。

・ムダが多すぎること

・昔のやり方を変えないこと

この2点が部下を失望させる。どこでデジタル技術を使い、どこでアナログのコミュニケーションをするのか。そのメリハリがないマネジャーは、AIによって淘汰されていくに違いない。

新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール 』では、現代の若者にどのように接したらいいのか? ちょうどいいマネジメントのルールを11のテーマに沿って解説した。

ぜひ本書を参考に、若者を正しく導いてもらいたい。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)