解像度の高い人は、単なる情報や感想だけではない意見を述べられるという特徴があります(写真:nonpii/PIXTA)

近年、「解像度」という言葉がビジネスシーンで使われるようになりました。「解像度が高い人」の1つの特徴は、周りが「ハッ」とするような意見が言えてしまうことです。その理由について、『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』から一部抜粋・再構成のうえお届けします。

誰でも言える「安易な意見」しか言えない…

「解像度が低い人」の特徴として「誰でも言える『安易な意見』しか言えない……」という点が挙げられます。こちらを見ていきましょう。

【SCENE2 会議】
・登場人物:上司(商品企画部長)、あなた含め5名(商品企画部メンバー)
・会議名:商品企画部の会議
・内容:最近の商品の流行について

あなたは中小企業に勤めるビジネスパーソン。しかし、今回は商品企画部の所属です。会社の売り上げの基となる商品やサービスを企画する重要な役割です。

「売れるもの」にははやり廃りがありますから、商品企画部の会議で「流行」の話になるのは日常茶飯事。今回は「レトロブーム」が話題に上りました。

Aさん:「最近、いろんなところでレトロブームが起きていますよね」

企画部長:「そうなんだね。例えば、どんなところで?」

Aさん:「代表的なのが『レトロ喫茶』です。昔ながらの雰囲気の喫茶店に行列ができているそうですよ」

Bさん:「たしかに、この間も韓国のアイドルグループのPVでみんな昭和っぽい服を着ていました」

Cさん:「そういえば、西武園ゆうえんちが『昭和の商店街』をコンセプトにして人気を取り戻したことも話題になっていました」

企画部長:「そうなんだね。Cさん、なんで『レトロ』がブームなのだと思う?」

Cさん:「いやぁ、単にブームだからかと……」

企画部長:「……。ええっと……、Bさんはどう思うかな?」

Bさん:「ええっと……、人は古いものに惹かれるからですかね……」

企画部長:「……。Dさんはどう思うかな?」

Dさん:「――レトロブームが起きているのは、喫茶店、洋服、遊園地ですよね。この3つの共通点って、『日常』ではないですかね。おそらく、人はレトロなものに『癒やし』を感じる。今って世の中がめまぐるしく動いている時代ですよね。おそらく、人はそれに疲れているんじゃないでしょうか。だからこそ、仕事以外のプライベートでは、その疲れを癒やしてほしい。その『癒やし』の役割をレトロが担っているんじゃないかと」

企画部長:「おぉ……」

Dさん:「うちの会社は雑貨のメーカーですよね。雑貨って、まさに人の日常のそばにあるものなので、雑貨に『レトロ』を組み合わせるのは、一つの解決策になるのではないかなと」

さて、いかがでしたか。あなたも、Dさんの話に思わず「ハッ」とさせられたのではないでしょうか。

商品企画部であるからには、商品がより売れるようになるためのアイデア、すなわち「解決策」を提案できないといけません。しかし、反応を見ているとBさん・Cさんにはそれは難しそうです。

なぜなら、Bさん・Cさんはたまたま「情報」を知っていたというだけで、意見そのものはほかの誰にでも言えそうな意見で、思考の幅広さがありません。

Dさんとほかの人との違いは「抽象化思考力」

一方、Dさんの意見はどうでしょうか。ほかの誰もがなかなか至らない、「自分なりの気づき」を持っています。おそらく、ここまでの意見が言える人はそうそういないでしょう。これはまさしく「解像度が高い人」の2つ目の特徴である「ユニークで鋭い洞察を得ている」状態です。

この「誰にでも言える『安易な意見』しか言えない」悩みは「具体化思考力」では解決できません。なぜなら、「具体化」は既存のものを細かく見ることであり、そこから「新たな気づき」にはなかなか至らないからです。

では、どうしたらこの悩みを解決できるのでしょうか。それが「抽象化思考力」です。

抽象化とは「共通点から成功法則を導き出す力」です。

この「抽象化思考」から生み出される成功法則はまさに「物事の本質」ですので、だからこそ新しくかつ納得感のある「鋭い洞察」となり、人を魅了するのです。この「抽象化思考力」はあなたの思考の「画像幅」を広げ、幅広い多様な考えを持つことができるようになります。

「話がいまいち、ピンとこない」と言われる…

そして、「解像度が低い人」の困りごとはもう一つあります。それが「『話がいまいち、ピンとこない』と言われる……」です。こちらも、見ていきましょう。

今回はあなたではなく、第三者の目線から登場人物のやり取りを見てみましょう。

【SCENE3 商談】
・登場人物:クライアント(部長クラス)、Aさん(営業)
・内容:新商品開発の提案

Aさんは営業パーソン。今日はクライアントに新商品開発の提案にやってきました。

顧客:「今日は何か、面白い提案をお持ちいただいたそうですが……」

Aさん:「はい。御社の商品開発の在り方を一変させる提案になると自負しております。一言で申し上げれば、“ストーリー”を売る、ということです」

顧客:「ストーリー?」

Aさん:「はい。御社のユーザーはこれまで、御社の商品“だけ”をご覧になって購入を決められていたと思います。その結果、商品の単価や品質を競合他社と比較検討し、他社商品のほうが優れていればそちらを選ぶことも多かったのではないかと……」

顧客:「それはそうでしょうね。残念ながら、あらゆる点で競合に勝るという商品を作ることはなかなかできませんから」

Aさん:「ですから、商品“だけ”の魅力でなく、商品に付随する“ストーリー”に魅力を持たせることが重要なのです」

顧客:「なるほど……?」

Aさんは流暢なセールストークを続けますが、クライアントは何やら釈然としない様子です。

Aさん:「単品の商品それ自体を売ろう、買ってもらおうと考えるのではなく、その商品を買うことでどんな“ストーリー”が生まれるのか?ということに着目することがポイントです」

顧客:「……?」

Aさん:「その商品は、日常生活やビジネスのどんな場面で使われているのか? そこでは日々、どんな“ストーリー”が生まれているのか? それをイメージすることから、商品開発をスタートさせるわけです」

顧客:「???」

さて、このシーンを読んだあなたは、

「具体化思考が足りないだけなんじゃ?」

そう思ったでしょうか。しかし、実は少し違う問題なのです。軽快なセールストークからもわかるようにAさんはとても聡明な人で、おそらく「具体化はできている人」だと考えられます。

では、今回は何が問題かと言うと、「相手の『具体度(抽象度)』に合わせようとしていない」という点にあります。

人には立場や知識、状況に応じて、「抽象的な話のほうが理解しやすい人」と「具体的な話のほうが理解しやすい人」とがいます。

先ほどのAさんの話は、相手によってはむしろ理解しやすいかもしれません。例えば、企業の社長や役員など、比較的「大きな目」で物事を見ている立場の人の場合は、むしろ抽象的な話のほうが理解がしやすい。

ただ、今回のシーンの相手は部長クラスとはいえ、あくまで現場の人です。また、少し反応を見ていれば、少なくとも「抽象的な話のほうが理解しやすい人」ではないと判断でき、具体的な話にシフトすることもできます。

「解像度が高い人」がなぜ「物事をわかりやすく伝えられる」かというと、ただ「具体化思考」や「抽象化思考」ができるだけではなく、「具体(的)」と「抽象(的)」を自由に行き来しながら、相手が一番理解しやすいあんばいで話すことができる思考の調整力があるからです。

世の中にコミュニケーションの本がたくさん並ぶのに、なかなか解決しない原因はここにあります。コミュニケーション・ギャップが起きてしまう本質は、実はこの「相手の『具体度(抽象度)』に合わせようとしていない」ということなのです。

ただ、ここで一つ強調しておきたいのは、「『具体的』がよくて、『抽象的』がダメ」という単純な話ではないという点です。

「具体化」も「抽象化」も等しく重要です。両者は役割が違うというだけで、「解像度が高い人」になるには両方が欠かせません。あくまで、ここでの問題は「相手に合わせていない」という点です。

「具体」と「抽象」の調整力

今回のようなシーン、本当に優秀な人であれば、相手の反応を見て具体的な「たとえ話」などを使うでしょう。

例えば、“ストーリー”を売る、ということであれば、実際にその商品を購入した人が、日常生活の中でその商品をどんなふうに使い、どんな暮らしを体現しているのか?


「クルマのテレビCMなどでは、そのクルマを購入したある一家が休日にピクニックに出かけたり、仕事で帰りが遅くなった夫を妻が駅まで迎えに来たり、息子を送り届けたり……といった日常風景をドラマ仕立ての短編ストーリーにしたものをよく見かけますよね? 要するに、あれと同じことです。そのような、消費者が買いたくなる体験ストーリーを想起してもらうことが大事なのです」

そんなふうに「たとえ話」をするのもいいでしょう。それで、話はぐっと「具体(的)」になり、今回の「具体的な話のほうが理解しやすい人」には理解がしやすいものとなります。

「『話がいまいち、ピンとこない』と言われる……」という悩みを解決するには、このような「具体」と「抽象」を自由に行き来する「具体⇄抽象思考力」を鍛え、「思考の画像内での調整力」を身に付ける必要があるのです。

(権藤 悠 : 株式会社キーメッセージ代表取締役社長)