「雑炊×雑談×俳優」というかつてない企画で、発表当初ファンをざわつかせた雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載企画「中村倫也のやんごとなき雑炊」が『THE やんごとなき雑炊』とタイトルを変え、ついに書籍化! 発売の翌日、3月15日には都内で約70名のファンを集めてトークイベントも開催。ここでは、そこで語られた連載時の制作秘話をはじめ、早くもアイデアが浮かんだという次なるシリーズの構想についてたっぷりとお届けします。

 

中村倫也●なかむら・ともや…1986年12月24日生まれ。東京都出身。A型。主な出演作にドラマ『ハヤブサ消防団』、webドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 〜東京湾大海戦〜』など。映画『ミッシング』が5月17日より公開予定。7月7日より舞台「劇団☆新感線44周年興行・夏秋公演 いのうえ歌舞伎『バサラオ』」に出演。

 

【イベント中の中村倫也さんの写真一覧】

 

お金がなかった若手時代の苦労の経験から料理好きに

今回新たに上梓した『THE やんごとなき雑炊』は、2021年に刊行した自身初のエッセイ集『THE やんごとなき雑談』(KADOKAWA刊)から派生した企画本。ということで、この日も“雑談”をコンセプトに、アットホームな雰囲気に包まれるなか、イベントがスタートした。

 

最初の質問は《そもそも、なぜ雑炊の本を作ろうと思ったのか?》といういきさつから。これについて中村さんは、「ここにはやんごとない願いが込められているんです」と熱く語り始めるも、やがて少し間を置いてから、「いや……ダジャレですね」と苦笑い。思いついたのは、前回の『THE やんごとなき雑談』を出版した直後だったそうで、「“やんごとなき雑”までは同じタイトルで、でも内容は全く違う本が本屋さんに並んでいたら面白いんじゃないかと思ったんです」と説明を。「それに、文芸誌の『ダ・ヴィンチ』で料理の連載を、しかも雑炊だけで、それを俳優がやっているところに、“何だ、これ!?”と思ってもらえる面白さがあるんじゃないかな、と」と企画にいたった当時の思い出を振り返った。

 

ちなみに、テーマが雑炊に決まるまでに紆余曲折あったそうで、「“雑”で始まる二字熟語をたくさん調べたんです。“雑菌”や“雑巾”、“雑穀”などもあったのですが、そうしたなかで“雑炊”が目に止まって。これならば、具材などでいろんな展開ができるんじゃないかと思ったんですよね」と経緯を紹介。また、《もともと料理が好きだったんですか?》という問いには、「好きですね。得意とはいいませんが」と笑いながら回答を。「一人暮らしを始めたばかりの頃、お金がないなかで、それでもお腹を満たさなきゃいけなくて。残り一週間を1000円でなんとかしなくちゃいけないという時期が、僕にもリアルにあったんです。そんなとき、お金をかけずに自分でできる範囲で、さらに、よりおいしいものにしたいと工夫していたら、いつの間にか作るのが好きになっていました」と料理との出会いについても語ってくれた。

 

もし次があれば、誰からも気づかれない存在の“雑草”をテーマに

また、本書は2022年4月号から約1年半にわたって、雑誌「ダ・ヴィンチ」で連載していた内容をまとめたものだが、今回の書籍では、新たなメニュー『さば缶を使った年末調整雑炊』も撮り下ろしで掲載されている。こちらは中村さん自身が考案したレシピで、3つのアイデアの中から選ばれた一品であることも明かされた。

 

「サバ缶を使った雑炊にしたいというのは最初から決めていたんです。そこに、どんな材料を入れ込むかというところで3つのバリエーションを考えただけだったんですが……残りの2つはもう覚えてないですね。スマホのメモ機能から削除したら、すぐに忘れる脳みそなので(笑)。こだわったのは、一般的な具材を使い、簡単に作れて、ほかの料理にも調味料が応用できるものにしたいということ。というのも、僕の連載を担当してくれている編集者さんが、普段料理をされない方なんです。そうした、同じような方たちに向けて、料理の入り口みたいになったらいいなという思いもありました。だから、実際に難しい調理は一切していないです」

 

なお、発売になって以来、本の売れ行きは好調だそうで、担当編集者から「今後も《やんごとなき◯◯》をシリーズ化していきたいという思いがある」と伝えられると、客席からは熱い拍手が。その様子に本人も「期待してくださっているのがうれしいですね」と喜びを見せ、同時に、「実はついさっき、次の構想を思いついたんですよ」との言葉も飛び出した。その新たなテーマとは、なんと“雑草”。まさかの内容に「その本、誰が買うんですか?(笑)」と戸惑う編集者だったが、そうした周囲の反応を気にすることなく、中村さんは「ちょっといい話をしていいですか?」と説明を続けていく。

 

雑草に着目したのは、先日河津桜を見に行ったことがきっかけだったそうで、「僕がお花見でいつもやっているこだわりがあって。桜の近くにはタンポポが咲いていることが多く、それを見つけて、愛でる癖があるんです」と雑草の一種であるタンポポについて言及。続けて、「お花見のメインは桜だから、タンポポは気づかれない存在。でも、そこに気づいてあげられる僕でいたいという欲があるんです。まあ自己満足ですが」と笑い、「けどそれって、僕がこっち側(気づかれない存在の側)にいたからなんですよね」と、まだ売れない若手時代にいろんな先輩たちからコミュニケーションを取ってもらえたことの喜びが、普段から“雑草”を気に掛けることに繋がっていると説明した。さらに、「調べたら、タンポポのようにきれいな花を咲かせる雑草ってたくさんあって。雑草なら他の植物と違って皆さんも身近で見つけやすいし、散歩が楽しくなるんじゃないかなって思うんです」と話すと、客席からは再び期待を寄せる大きな拍手が送られた。

 

最後に、改めて書籍が完成した感想を聞かれると、「読んでいただければ分かると思いますが、料理本ではあるものの、僕の人生観が出ていると言ってくださる方もいました」とコメントを。その言葉通り、同書の中では、彼が雑炊を作りながら繰り出される素材に関連した思い出話や、普段あまり見せない素のリアクションがドキュメンタリータッチで綴られ、それもひとつの“味”となっている。そして、「内容も緩く、“遊び心を持って生活ができたらいいよね”というテーマが詰まったものになっていますので、この本を通じて、料理だけじゃなく、少し気持ちを緩めながら日々を楽しんでもらえれば」と言葉を残すと、「あとは、僕も昨日ネットで3冊ほど購入しましたが、プレゼントにも最適だと思いますので、ぜひたくさん購入してください。それが次に繋がっていきますので(笑)」とシリーズ化に向けた思いも語り、この日のイベントは終了した。

 

THE やんごとなき雑炊

著者:中村倫也
監修協力:タカハシユキ
定価:1,870円 (本体1,700円+税)

人気俳優が2022年から2023年年末まで、“雑炊”を作り続けた約2年間……(※企画構想と書籍撮り下ろし期間含む)。一般的な雑炊の想像をはるかに超えた、斬新かつ簡単な「スペシャルな20の雑炊」レシピと、料理中に溢れ出てくる中村倫也の言葉の数々。さらには彼の「生き方の工夫」や「日々の生活のための思考」が感じられる自筆エッセイなど、さまざまな角度から愉しめる内容が詰まった、かつてない料理本に。

 

 

撮影/山口宏之 取材・文/倉田トモキ