俳優や歌手としてはもちろん、司会者としても活躍中の石丸幹二さん。3月1日より絶賛公開中の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』ではゲスト声優として出演しています。多忙な日々を過ごす石丸さんに、『映画ドラえもん』にまつわる話をはじめ、年齢との向き合い方など、貴重なお話を伺いました。

石丸幹二さん『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』インタビュー

本作で、初めてアニメの声優に挑戦したという石丸さん。オファーをもらったときのことを伺うと、「これまで何十作品もある映画に出られるとは、すごく名誉なことでうれしかった」と語ります。そして、自分が「どんな役で出るんだろう?」というワクワクした気持ちが高まっていったそうです。

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「台本が届いたんですけど、それが参考書と言うか、百科事典みたいな厚さで(笑)。テレビドラマや舞台の台本どころの大きさじゃないんですよ。いったいなにが書き込まれてるんだろう…? と、すごく興味が沸いて、同じ“声”を当てる仕事でもこんなに違うんだなって感じました」

石丸さんが演じたのは、指揮棒を振りながら歌うように話す、惑星ムシーカの「ワークナー」という音楽家のロボット。石丸さんは演じる際に、名前が似ている音楽家・ワーグナーのメロディーが出たらおもしろいんじゃないか? と考え、実際に取り入れることにしました。

「僕の役の場合は、普通に喋るだけではなく、『歌うように』って注釈があったんですよ。でも、歌の楽譜はない。だから自分のなかであらかじめモチーフをつくったりと、事前に準備をしてアフレコに臨みました。

文字で読んでイメージは浮かんでいましたが、アフレコでは絵コンテに、セリフを合わせて、『なるほど。こういうときには歌うんだろうな』、『絵の寄り引きに合わせて声の大きさや高さを変えよう』とか、いろんなアイデアが頭に浮かんできて。ある程度の声量も必要で、そこは舞台と共通していましたね。

一方で、違うと感じたのは、決められた絵があるものだから、自分の思うようにできるわけではないということ。でも、その絵からインスピレーションをいっぱいいただいて、おもしろい体験でした」

オンとオフでは、聞く音楽は“あえて”分ける 

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』では、「音楽」がエネルギーとして描かれています。作中は音楽であふれ、奏でられるすべての音に包み込まれているような感覚にも。それゆえ、「ぜひ劇場で見てほしい!」と石丸さん。

「この作品は、映画館のあの大きなサウンドの中で見てほしい。これはもう強く申し上げたいです。もちろん、いろんな事情があって行けない方もいらっしゃるかもしれない。でも『ちょっと電車に乗ってでも行ってみようか』みたいな、なにかのきっかけがあれば気持ちも変わる。この音を浴びたら、きっと幸せが訪れるはずです!」

そう力強く語る石丸さんのエネルギー源も、映画同様に「音」なのだそう。

「やっぱり音がないと、すごく寂しくなっちゃうので、いつも音を感じられるところにいるようにしてます。音には心を安定させてくれる力があるので、優しくもなれるし、元気ももらえる。五感で楽しめるのが音楽の魅力ですよ」

とはいえ、仕事でも音楽に携わっていると、オン/オフの切り替えが難しくなってしまうのでは…? なんて思ってしまいますよね。 

「これはある意味きっちり分けています。オンのときは“仕事のため”の音楽。だから、仕事モードに入るきっかけとなるような音楽を流し、その世界に入っていくようにしています。でも、オフではしっかりと聞くというよりも、流し聞き。思いつきで異なるジャンルのものを流したり、ザッピングしながら勝手に流れてくるものを聞くみたいな、そんなことを楽しんでますね」

そんな石丸さんが、オフでよく聞いているのは、風や波をはじめとする「自然の音」。

「そういうものをずっと流しておくと、自然の中に居るような気持ちになりますよね。そうやって精神を解放していきます。あとは、虫の声や焚き火の音みたいな、リズムが一定してないもの。自分がコントロールしないでいられるものを聞きたいな。すごく心が豊かになるので、おすすめですよ」

年齢を重ねて変わっていった「老い」に対する考え方 

幅広いジャンルの仕事をこなしながら、キャリアを積み重ねて現在58歳の石丸さん。年齢とともにできることがだんだんと限られてくるからこそ、「できること」の確認をあえてしているそうですが、「できなくなった」ということを受け止めるのに、ショックを受けたりしないのでしょうか?

「全然ありますよ! でもね、みんなそう。みんな、年齢を重ねと、できなくなることが増えていく。だから、そのタイミングをなるべく長く引き延ばすようにしています。たとえば、ふき掃除って、体の筋肉をいっぱい使うんですよ。床や棚をふくときは、なにかに任せるのではなく、あえて自分の体を動かす。無理はせずに、長く続けられるように意識して、自分でなにか行動を起こす。この年になってそれが大事だと思いましたね」

自分ができないことが増えていくと、劣等感が生まれて、つい周りと比べてしまう…なんてことはありませんか? しかし、「それは気づくのが早かったというだけ」と、優しい言葉で返してくれて、こう続けます。

「老いみたいなものを感じても、自然なことと受け止めると、少しラクに生きられますよね。物事を忘れちゃうのは仕方ないです。大人になった証拠ですから。年齢による変化を『まあいいや』と思い、自分なりにできたらいいよと考えてみる。僕の60代ぐらいはきっとそうなってくるかもしれません。だから、割り切って楽しめるんじゃないかな」

これまで、数々のインタビューで俳優人生は「ロッククライミング」と表現してきた石丸さん。しかし年齢を重ねるにつれ、「登る山」の意識は変化しています。 

「20代の頃は見上げなきゃいけないほど高いところに登ることが楽しかった。でも、今は『登る』ということを楽しめばいいわけで、低くてもいいんです、登ることができれば! だから方法を変えたりして、楽しんでやり続けてみてください。その年その年にあった楽しみ方や向き合い方でやり続けるってことが大事ですよ」

できなくなったことに対して悲観するのではなく、「やり続けられればいい」。第一線で活躍し続けている石丸さんならではの重みがありながらも、どこか心を軽くしてくれるポジティブな言葉で締めくくってくれました。