個人主義の国フランス。日本とは介護について考え方に違いがあるようです。フランス文化研究者でフランス人の夫をもつペレ信子さんは、「先月末からフランスに行き、夫の両親(80代)に会ってきました。両親の暮らしぶりを垣間見て、彼らや周りの80代の親たちが50代の子世代とどうつき合い、なにを思っているかが見えてきました」と話します。そこで見えてきた、フランス人の暮らしについて紹介してくれました。

フランス人の基本は「自立」。18歳で家を出てから老後まで両親とは別居

夫の両親が住んでいるのはフランス東部の人口約12万人の中堅の地方都市。
フランスでは子どもが18歳(高校卒業)で地元を離れると両親と別居になり、それから実家に帰るのはクリスマスのみというのが普通の暮らし方。両親と同居、二世帯住宅というのはほとんどありません。同じ街に住んでいてもそれぞれの住居を持つのが普通です。

現在、親は80代。そろそろ両親だけの生活が心配になってきました。ですが、両親の周りの80代も夫婦だけで住んでいる人たちがほとんど。子どもには子どもの生活があり、失業率が高いフランスで地元に子どもを呼び寄せてリスクを負わせるというのは考えられないそうです。

夫婦でいられる間はとにかく2人でがんばる。なんでも夫婦単位で考える

フランスは夫婦単位で行動するとよく言われます。最近の若い人は必ずしもそうでないと感じることもありますが、両親の世代はとくに夫婦でいることにこだわります。ディナーに招かれるのもお出かけもいつも一緒。とにかく可能なかぎり、2人でずっと暮らすのが理想です。

現在、夫の父は元気ですが姑には持病があります。本当は医療つき介護施設に入った方が楽だと思うのですが、彼女の面倒を見ることを義父は譲りません。

昨年、夫を病気で亡くした夫の伯母も最後まで自分で伯父の介護をしていました。デイサービスのような昼間に施設に通うというサービスを受けられる人は限られているそうです。

ですが、毎朝、看護士さんと介護士さんが来てくれ、血圧を測ったり入浴を手伝ったりと面倒を見てくれます。その後、食事などは元気な配偶者がつくりますが、働き盛りの子どもが仕事を辞めて介護を手伝っているというのは聞いたことがありません。

50代の子どもに80代の親が期待していること

統計によると、フランス人で配偶者が亡くなった後の一人暮らしは圧倒的に女性が多いそうです。そして彼女たちは一人暮らしの女性同士で声をかけ合って気丈に暮らしています。

パリでもちょっとステキなビストロで、お昼に常連のおばあさま同士が楽しそうにランチしているのをよく見かけました。とにかく人の世話にならないで済むうちは自由に暮らしたい、という感じです。

夫の両親担当の理学療法士も「なるべく助けを借りずに自分でやる」ことをすすめているそう。両親の世代は徹底的なレディファーストで義父はいつも義母の代わりにものを取りに行ったり、ドアを開け閉めする行動が体に染みついているため、義母になんでも1人でさせて見守るのが難しいと言っていました。

現在パリに住む子どもたち(彼らにとっては孫)や私たちがたまに来てくれると、刺激になって元気が出るとよろこんでくれます。でもあまり長居すると体も気持ちも疲れてしまうので、一緒にいるのは少しだけでよいそうです。

自立した老後の姿を見せてくれた両親

私たちのフランス滞在の最後に、夫の父から自分が認知症になったら施設に入れてくれるよう頼まれました。もしものときの家、お金、手続きのこと、そして葬儀のことまでしっかり調べて準備していました。

遠くに住む私たちの負担にならないよう考えている彼から、自立した老後の生き方を教えてもらった気がします。