日本のスーパーではプラスチックの袋に入ったバナナが当たり前ですが…(写真:sasaki106 / PIXTA)

私は現在、大学院に在籍しているが、ある日、ベルギー人の交換留学生ロビンさん(22)がこんなことを言った。

「昨年9月に来日して一番驚いたのは、スーパーマーケットで売られているバナナにもプラスチック包装がしてあることだった」

確かにヨーロッパではよく、野菜や果物は包装なしで平積みされ売られている。日本で売られているプラ包装付きバナナに違和感を持つのはわかる気がした。

スーパーで理由を聞いてみた

そこで後日、近所の大手総合スーパーのサービスカウンターで、顔なじみの従業員に、バナナはいつ頃からプラ包装をして販売しているのかを聞いてみた。

すると彼女が働き始めた20年以上前から、すでにそうしてあったという。その理由についても聞くと、しばらく考え込んだ末に、担当者に電話を掛けてくれた。数分後に教えてくれた理由は2つ。

まず昔は卸業者から大きなバナナの束を仕入れ、スーパーの内部で切り分けて販売していた。しかし、その作業をいつしか卸売業者が代行するようになり、さらにプラ包装してからスーパーに卸すようになったからだという。

もう1つは「若干、商品の傷みを防ぐことができる」との回答で、スーパー側にとって個包装はメリットが大きいとわかる。

とはいえ、日本におけるあらゆる製品のプラ包装は、環境問題に敏感な欧州人にとって明らかに「過剰」と映る。

バナナはあくまでも1例に過ぎず、ロビンさんはコンビニで提供されるプラスチック製スプーン、飲食店で出される簡易お手拭きのプラ包装も「理解できない」と語る。

そして果物や野菜の個包装についても「日本人は衛生面を気にしているかもしれないが、水で洗えばいい」と言った。

プラスチックは、融通無碍に形を変えられるため、生活用品から工業製品までさまざまな用途に使われている。しかも安価で耐久性があるため、社会に深く浸透している。

プラスチック原料は主に原油で、生産および焼却段階で二酸化炭素を排出し、地球温暖化の原因となる。

プラスチックごみによる深刻な海洋汚染

またプラスチックが持つ耐久性という長所は、適切に廃棄されないと欠点に変わる。

その象徴の1つが海洋汚染だ。2016年の世界経済フォーラム(WEF)では、海洋中に存在するプラスチックの量は2050年に魚の量を上回るとの試算が報告された。

日本では2018年、鎌倉市由比ヶ浜の海水浴場に赤ちゃんクジラ(体長約10メートル)が打ち上げられた。赤ちゃんだから母乳しか飲まないはずなのに、その胃からはプラスチック破片が見つかった。

いかに大量のプラスチックが海洋に浮遊しているかを示唆しており、人々に衝撃を与えた。


鎌倉市由比ヶ浜に打ち上げられた赤ちゃんクジラ(写真:鎌倉市提供)

プラスチックは紫外線や波などによりマイクロプラスチック(5mm以下)になるが、自然界に残り、海洋生物などに悪影響を及ぼす。魚などの海洋生物が摂取すると、人間も間接的に取り込む可能性がある。

人への健康への影響は正確にはわかっていないが、何となく気持ちが悪い。途上国では、不適切なプラスチック袋の廃棄が下水をせき止め、蚊などの繁殖地となってマラリアなど伝染病発生のリスクも懸念されている。

プラごみをどう減らすか

では、プラごみを減らすためにどうすべきか。

国は2022年4月にプラスチックごみの削減やリサイクルを促す「プラスチック資源循環促進法(プラスチック新法)」を施行した。企業は環境に配慮したプラスチック素材の使用や設計が求められ、自治体もプラごみの適正な処理を徹底しなければならない。

企業がプラスチック使用量を減らし、自然由来の素材に代替していく動きはすでにある。

バナナの例で言うと、青果大手ドールは一部のスーパーでバナナを量り売りし、紙袋での提供を開始している。また飲食店では紙製のストローや、木製のスプーン・フォークといったカトラリー類が徐々に提供され始めている。

ファミリーマートは1月29日から、プラスチック使用量とCO2を削減するために、100の直営店で、無償提供してきたプラスチック製のスプーンやフォークなどの有料化を導入した。

また世界188カ国で事業を展開するネスレは、日本で2019年から「キットカット」の大袋の外装を紙に変え始め、2020年にほぼ完了した。


紙外装の商品例(写真:ネスレ日本提供)

同社は2025年までにバージンプラスチック(未使用のプラスチック原料)使用量の3分の1削減や、プラスチックパッケージの95%以上をリサイクル可能にする取り組みを実施。

「紙外装への変更は、包材や設備投資などのコスト上昇を伴うものの、こうした取り組みの一環である」と説明する。

日系企業の動きは「遅い」

一方、日系企業が製造販売する商品の外装は依然として、プラスチックが占める。フィンランドの国際的な製紙会社UPMの日本代表を務める富永達之助氏は、日本企業が紙などの自然素材に替える動きについて「欧州などと比べると遅い」と指摘する。

それは「コストマインドが高く、国内の環境への意識もまだ十分高まっておらず、再生紙やバイオプラスチックに関する情報も不足している」からだという。しかし、今後は「環境への配慮が一層進み、持続可能な素材への転換が進むことが期待される」と語った。


UPMは主に製紙、バイオ燃料、セルロース(木材由来の原材料)、木材などの分野で事業を展開。全社合計の売上高では製紙業世界第3位、洋紙部門だけでは世界第1位の企業だ。同社は2022年、森林と生物多様性の保全を推進するために新規プログラムを立ち上げた(写真:UPM提供)

UPMは「石油依存からの脱却と未来への挑戦」を掲げ、持続可能な資源利用と森林などの環境保護に力を入れている。また、製品のライフサイクル全体にわたって環境への影響を最小限に抑えることを目指している。

プラごみ削減のため自治体も動いている。京都府亀岡市は2021年1月から、全国初となるレジ袋の提供禁止まで踏み込んだ。

亀岡市は毎年、同市を流れる一級河川の桂川(通称:保津川)の漂着ごみを子どもたちが調査している。市の調査結果では例年、漂着ごみ数上位20品目の中に、必ず買い物レジ袋が入っていた。

これが禁止条例の制定以降、上位20品目から外れ、保津川に流れ着くレジ袋の数は大きく減少し、上位20品目から外れたという。また同市は条例制定以降、市内のスーパーでのマイバッグ持参率が98%を超え、毎月約63万枚のレジ袋削減につながっていると推計している。

異常気象への危機感

ロビンさんによると、ベルギーでは気候変動に対する危機感は若年層を中心に過去2〜3年で急速に高まっているという。プラ包装を使用しない商品を扱う専門スーパーを選んで買い物に行く人もいる。


ヨーロッパの国々では野菜や果物は個包装されず売られていることが多い(写真:bee / PIXTA)

こうした行動の背景にあるのは、近年の夏の猛暑、不規則な天候、洪水の多発などに対する危機感だ。ロビンさんの家の近くの通りは、以前は約15年に1回程度だった洪水が、過去3年で3回も発生した。

日本も昨年は記録的な酷暑に見舞われた。熱波、海水温の上昇、豪雨などの極端な現象は、炭素依存の人間活動によって増幅されている。地球温暖化はある臨界点を超えてしまうと、気象システムや生態系な悪影響を与え、後戻りできない状態に陥ることが科学者から指摘されている。

プラスチック使用をすぐにゼロにすることは不可能だが、バナナなどのプラ包装が本当に必要なのかどうか、再考する時期ではないだろうか。

(伊藤 辰雄 : ジャーナリスト)