日本代表、W杯予選北朝鮮戦の招集メンバーは? 識者4人の森保ジャパン改造論
W杯予選をどう戦うべきか(後編)
「たとえ『ベストメンバー』でも、一定のバランスが必要だ」
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
W杯2次予選が再開する。まずは、北朝鮮とのホーム&アウェー戦となる。
「絶対、負けられない戦い」
そんな煽りがつくのだろうか。もちろん、"負けてはならない戦い"だが、欧州の最前線で戦う選手にとっては"負担を強いられる戦い"とも言える。欧州各国リーグはこれから佳境に入る。クラブ関係者にとっては、率直に言って"迷惑な話"だ。
「相手のレベルを考えたら、Jリーグの国内組中心で戦うべき」
そう言った意見が出るのも当然だろう。
もし森保一代表監督が将器に恵まれていたら、国内組だけでも十分に勝機を見出せるかもしれない。選手に国際経験を積ませながら勝ち上がる。アジアカップの毎熊晟矢のように、Jリーグ勢ながら、大会を戦うなかで著しい成長を遂げた例もある(準々決勝のイラン戦では強度の高いプレーに劣勢に陥っていたが)。それは戦力アップを考えても、理想的な展開と言える。
しかし、おそらく森保監督は「ベストメンバー」にこだわるだろう。なぜなら、森保ジャパンは、"個人を生かす"よりも"個人に頼る"傾向が増しているからだ。
「チームとして『こうしたほうがいい』とか徹底してほしい」
アジアカップ敗退後、守田英正がそう洩らしていたように、チームの共通意識が見えず、有力選手が個人でチームを旋回させないと墜落する状況だ。
そもそも、カタールW杯や昨年のドイツ戦は、鎌田大地が攻撃を編成していた。鎌田のセンスによって、チーム戦術の低さをカバーしてきた。「名采配」は幻想にすぎなかった。
しかも森保監督は、鎌田がフランクフルトをヨーロッパリーグ優勝に導いたことで重い腰を上げて再招集したにすぎない。この辺りの経緯も深刻なのだが、だからこそ、「ベストメンバー」を集めるしかない。欧州で活躍している能力の高い選手をそろえたほうが、単純に負ける確率は低くなるのだ。
森保監督は慎重で聞き上手に見えて、その性格は「強情で頑固」とも言われる。そのギャップで時折、周りをざわつかせる選手選考や起用をするのだが、アジアカップでは、そのクセの強さが出た。
【少なくともGKは実績、実力で選ぶべき】
端的に言えば、GK鈴木彩艶の強硬起用でチーム全体を窮地に立たせている。鈴木は毎試合、失点につながるミスをした。ただし、鈴木本人が悪いのではない。1シーズン、プロで戦ったことのないGKが大舞台で不安定になるのは当然だ。
森保監督の博打は、完全に裏目に出た。鈴木が不安定なことで、DFライン全体に負荷がかかっていた。さまざまな問題があって攻守のバランスを欠いたわけだが、シンプルにGKが安定しないことは大きかった。言わば自滅したのだ。
繰り返すが、鈴木の責任ではない。
いずれにせよ、森保監督は2次予選でも我が道を行くはずだ。監督にとっての"戦術"とは人物としてのキャラクターであって、彼はそれに即して戦うしかないのだろう。
ただ、提言はできる。少なくともGKは、実績や実力で選ぶべきである。
その点、2022年のJリーグベストGKで、2023年はMLSのバンクーバー・ホワイトキャップスでレギュラーとして1シーズンを過ごした高丘陽平は、代表でゴールマウスを守る力を示している。体格には恵まれていないが、強度もスピードも十分なゴールキーピングを見せ、つなぎの技術は西川周作や朴一圭と並び日本最高だろう。「これからのGKは世界で戦うために体格が欠かせない」と言われるが、偏った考え方であることはアジアカップで証明されている。
また、同じMLSの吉田麻也を再招集し、若い選手を焚きつけるのも手か。
「麻也さんにずっと言われる」
代表に新たに招集された選手は、後方から吉田の叱咤を背中に浴び続けたという。アジアカップでは、劣勢のなかでそうした覇気を示す選手が乏しかった。嫌気がさすほどのベテランの檄による、若手の奮起が望まれる。少なくとも吉田がいれば、冨安健洋はアーセナルでの戦いに集中できるはずだ。
はっきりと言えば、Jリーグ勢だけで戦うのは不安もある。一方で北朝鮮、ミャンマー、シリアを相手にヨーロッパのカップ戦や何らかのタイトルを戦う日本人選手を全員呼び戻すのはナンセンスと言える。「ベストメンバー」であったとしても、そこに一定のバランスは必要だ。
「指揮官にあるレギュラー組、サブ組の『壁』を取り払って」
中山淳●文 text by Nakayama Atsushi
アジアカップのベスト8敗退により、世間は森保ジャパンの現状に懐疑的な目を向けつつある。下馬評では日本がダントツの優勝候補筆頭だったうえ、チームとしても優勝を唯一のターゲットとしていただけに、みんなが落胆するのも当然だ。
とりわけ逆風にさらされているのが森保一監督だ。カタールW杯で手にした名声は今回のアジアカップですっかり地に落ちてしまい、まるで前回W杯アジア最終予選に時計の針を戻したかのように、一転して苦しい立場に追い込まれた印象は否めない。
もちろん、敗退直後に田嶋幸三JFA(日本サッカー協会)会長から「続投」のお墨付きをもらっているので、現状では進退問題に発展する可能性はない。ただ、森保監督自身は自分に対する信頼を取り戻すために、ここから名誉挽回に躍起になることは十分に予想される。
そうなると、これまで「目の前の試合に勝つ」ことを最優先してきた指揮官だけに、今後はその傾向により拍車がかかりそうだ。3月21日の北朝鮮戦から再開するW杯アジア2次予選においては、おそらく引き続き欧州組を中心としたメンバーを編成するだろう。
ただ、冷静になって考える必要がある。本当に、残りの4試合(北朝鮮と2試合、ミャンマー、シリアと各1試合)すべてで従来どおりのメンバーを招集する必要はあるのか。
ケガのためアジアカップでは決勝トーナメントからの出場となった三笘薫 photo by Sano Miki
アジアカップで、森保監督は一部の選手を除き、欧州組を中心としたベストメンバーを招集した。ただそのなかには、故障を抱えたままチームに合流し、大会期間中にケガから回復した選手もいた。つまり、森保監督がアジアカップを戦うために集めた26人は、選手のコンディションを含めると、決してベストな陣容とは言えなかった。
それが意味するところは、表向きには「誰が試合に出てもチーム力が変わらないだけの人材が揃っている」と言いながら、実はまだ指揮官のなかではレギュラー組とサブ組の間にはひとつの壁が存在しているということだろう。
その壁がなければ、おそらく準々決勝のイラン戦の後半で、もっとスムーズに交代カードを切ることができたのではないだろうか。
【選手層を厚くすることは喫緊の課題】
振り返れば、大会前にできるだけ多くの選手を起用してチーム全体で優勝できるようにトライすると公言していながら、さまざまな事情があったにせよ、実際は決勝トーナメント2試合のメンバーはほぼ固定されていた。もしも準決勝、決勝と勝ち上がっていたとしても、スタメンに大幅な変更はなかったと思われる。
その経験を踏まえても、現在の日本代表で重要なことは、これまで以上に選手層を厚くしておくことになる。調子のよくない選手を躊躇なくベンチに下げることができ、試合の流れを変えられる選手を育てておくことが、喫緊の課題だ。
アジア2次予選最初の2試合は、どちらも5−0で完勝。まったく危なげなく勝ち点6を積み上げた。このアドバンテージを最大限に活用するには、少なくとも次の北朝鮮とのホーム&アウェー2試合では、フレッシュなメンバーを招集すべきだろう。
ヨーロッパカップなど、過密日程でプレーしているような欧州組は、しばらくクラブに集中してもらったほうが得策だ。選手個人はもちろん、この先の日本代表のことを考えても、ここで無理して招集する必要はない。負傷のリスクはできるだけ軽減させるべきだ。
そもそも、アジア2次予選はグループ2位以上で最終予選に駒を進めることができる。W杯のアジア枠が8.5に拡大した今大会から、過去のアジア最終予選と比べて、予選敗退の確率が極めて低くなっているという背景も忘れてはいけない。
このまま毎試合ベストメンバーで戦い続けると、現在少しずつ始まりつつあるマンネリ化の傾向が進む可能性も高くなるだろう。過去を振り返っても、監督在任期間4年間でもマンネリ化は避けられないのだから、8年にわたってチームをフレッシュな状態に保つことは、想像以上に困難な作業となることは言うまでもない。
果たして森保監督は日本代表に誰を招集するのか。いろいろな方面からのプレッシャーはあるだろうが、先につながるメンバー招集に期待したい。