日本代表はアジアカップで「受けて立つ強さはなかった」と福田正博 ポイントはサイドアタッカー
■準々決勝で敗れたサッカー日本代表のアジアカップは「考えさせられる課題がたくさん浮き彫りになった」と福田正博氏。今後イランやイラクと同じような戦いをしてくるだろう相手に対し、日本は強力なサイドアタッカーを増やす必要性があるという。
【相手を受けて立つほどの強さ、力はなかった】日本代表のアジアカップベスト8敗退は、優勝候補としての期待値が高かっただけに、到底満足できるものではない。
アジアカップで劣勢を押し返すにはサイドアタッカーがポイントだったと福田正博氏は指摘する photo by Sano Miki
イラン戦だけではなく、グループステージで敗れたイラク戦もそうだったが、日本は相手が高さとパワーを前面に出してくる展開に脆かった。ただ、これは今に始まったことではなく、昔から課題にしているところでもある。
最近はそれが目立たなかっただけだろう。なぜなら、世界のサッカーの潮流がパスをつなぐスタイルになって長いからだ。足元でボールをつなぐサッカーなら、日本が得意にする土俵だから好結果に近づける。昨年日本がドイツやトルコに勝利できたのも、そうした背景があると思う。
さらに言えば、親善試合と公式戦の真剣勝負との違いも意識するべきだろう。
親善試合では、どの国も自分たちの課題に向き合うことを第一にしている。もちろん勝利を目指しているものの、課題を克服したうえで収穫を手にできればいいという考えだ。
それが公式戦になると一変する。勝利のために目の前の相手の特長を消し、相手が嫌がる戦いも考える。そのうえで自分たちの良さを出せればいいし、出せなかったとしても勝利できればよしというスタンスになる。
こうした違いがあるなかで、相手から入念に分析され、良さを封じる対策を取られた日本は、アジアカップで自分たちの持ち味を出せなかった。言い換えれば、日本はチャレンジャーの立場ではガムシャラに向かっていって強さを発揮できるが、相手を受けて立つ試合でも強さを発揮できる力はなかった。
【「対処」の交代では限界がある】イラン戦の敗因はいろいろ語られているが、私は後半に押し込まれた展開のなか、サイドアタッカーに縦を突ける選手を置くべきだったと考えている。今回のアジアカップのように、フィジカルの強度と高さを武器に仕掛けてくる相手を押し返すには、日本のサイドアタッカーがポイントだった。
ロングボールを入れられて競り合いになり、跳ね返せても相手にセカンドボールを拾われて押し込まれてしまう。そうなった時に監督が選べる采配は「対処」か「予防」になる。
「対処」というのは、ロングボールに対応できる高さや、相手の二次攻撃に対応できるスピードを持つ守備的な選手を入れる方法。「予防」は、そもそも相手にロングボールを出させない、あるいはそうした回数を減らすために、こちらが押し込めるよう攻撃的な選手を入れる方法になる。
今回メディアなどで取り上げられている交代論の多くは「対処」のほうだが、私は「予防」の面でサイドアタッカーを使い、相手に押し込まれた展開を一変できたのではないたかと思っている。
というのも、日本が長年の課題にする高さやフィジカル強度は、そうやすやすと改善されるものではない。眼前の状況を変えるために「対処」的な交代カードを使ったとしても、それはあくまで日本のチームのなかでの「高い」「強い」であって、相手を上回っているとは限らない。
しかも、そうしたカードを切ると、ピッチの選手たちは交代から意味合いを察知して後ろ重心の戦いになりがちだ。これだと相手の攻撃を跳ね返せても、やはり押し返すのは難しくなってしまう。
【「予防」の対策でサイドアタックを】一方「予防」を考えた場合は、日本がボールを持って攻める時間を長くして、相手の攻撃回数や時間を減らす。さらには相手を押し込んで攻めることで、反撃の威力を弱いものにする。
こうした状況を実現するべく、独力で局面を打開でき、サイドを深くえぐれるサイドアタッカーが日本にはいる。それを有効に使わない手はないだろう。
森保一監督もイラン戦は三笘薫を投入して打開をはかったが、彼ひとりでは厳しい。伊東純也が使えればそれに越したことはなかったが、久保建英を下げてしまったのが残念でならない。
三笘が左サイド、久保が右サイドで張っていれば、単独で突破できるふたりを警戒し、相手はDFラインを押し上げることに躊躇したはずだ。そうした些細な心理的な駆け引きが、試合の流れを変えるのだ。
日本でサイドを縦にえぐれる選手となると、左サイドに三笘薫、右サイドは伊東純也と久保建英だ。堂安律や中村敬斗の特長はサイドからインサイドに入ってきてゴールに絡むところにあるし、浅野拓磨や前田大然の特長は相手DFラインの裏へ抜けていくスピード型で、ボールを持って独力で突破するタイプではない。
今大会はケガなどがあって左右のサイドアタッカーでファーストチョイスを使えなかったが、今後同じような状況になる可能性はある。W杯予選やW杯本大会で、どこの国も日本代表対策としてイランやイラクと同じような戦いをしてくることが考えられる。
その対策としても、日本は独力でサイドを切り開けるアタッカーを見つけていくことも大事になるだろう。
【アジアの戦いにモチベーションを上げられるか】最後に、アジアカップは日本の選手個々がレベルアップを遂げたことによるマネジメントの難しさが見えた大会であったと思う。
大会後に冨安健洋が「熱量が他国に比べて足りなかった」と発言していた。日本の選手の置かれた状況を踏まえれば、そうなるのも致し方ない部分はある。遠藤航のようにプレミアリーグの優勝争いをするリバプールでスタメンを張る選手をはじめ、日本代表のほとんどの選手は欧州5大リーグでプレーし、さらなるステップアップを目指している。
そうしたなかで選手たちは、アジアでの戦いのモチベーションをどこに見出すのか。
他国には日本に勝利して涙する選手がいたのに対し、日本は悔し涙を流す選手はいなかったことによく表われていたと思う。
「モチベーションが低いから負けたんだ!」と言う気はない。アジアのレベルは決して低くはないものの、アジアカップが欧州におけるEUROのような存在になるにはまだ時間はかかる。日本の選手のレベルが上がり、日々戦うステージが上がっているからこそ、こうした問題は今後もアジアを戦う日本にはつきまとう。
選手のモチベーション管理は、監督だけでどうにかなるものではないだけに、日本サッカー界全体で対策や取り組みを考えていく必要があるだろう。
このアジアカップは、日本代表にとって考えさせられる課題がたくさん浮き彫りになった。そのなかで願うとしたら、2年後のワールドカップを終えた時に「あのアジアカップでの負けがあったから、この成績が残せた」とポジティブに言えるような成長を、選手たちと代表チームに遂げていってもらいたい。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。