交代出場で2試合。アジアカップでアディショナルタイムを除けば45分しか出場していない三笘薫が、ブライトンに戻るや、プレミアでさっそく、左ウイングとして先発出場を飾った。対戦相手は5位トッテナム(スパーズ)。アウェー戦ながら、チャンピオンズリーグ出場を狙うブライトン(8位)にとって、叩いておきたい相手だった。

 一方、アジアカップで準決勝まで進み、延長戦2試合を含む6試合すべてにフルタイム出場を果たしたソン・フンミンは、ベンチスタートとなった。韓国代表でもスパーズでも背番号は7だ。三笘も日本代表では7をつける。ポジションも半分、重なる。

 ソン・フンミンは韓国では1トップ下と左ウイングを半々でこなすが、スパーズでは主に左ウイングを務める。活躍度で勝るのはどちらかという見どころは、後半のお楽しみに持ち越された。

 スパーズの監督はアンジェ・ポステコグルー。この一戦は攻撃的サッカー同士の対決でもあった。予想どおり試合は、立ち上がりからプレッシング合戦になった。


握手をかわす三笘薫(ブライトン)とソン・フンミン(トッテナム) photo by Colorsport/AFLO

 アジアカップやJリーグではお目にかかれない魅力である。目を洗われるような、高い位置でのバチバチとした応酬に、日本のお茶の間観戦者はさぞ酔いしれたに違いない。

 イタリアでアリゴ・サッキ(元ミラン、イタリア代表などの監督)がプレッシングを始めた1990年頃、プレッシャーを浴びるやすぐにボールを失う選手を見て、メディアやファンは「サッカーを壊す気か」と、プレッシングに対して懐疑的な眼差しを向けたものだ。しかし、選手の技量はプレッシングの浸透とともにみるみる向上。それは観戦者に手に取るように伝わってきた。

 スパーズ対ブライトンを見ていると、30年以上前にイタリアで起きた出来事から始まる進歩が、ありありと脳裏に浮かぶのだった。サッカーの進歩と発展にプレッシングが貢献していることをあらためて実感させられる試合内容だった。

 そのなかでも三笘のタッチは光っていた。プレスでも勤勉さと俊敏さを発揮。13分には決定的なプレスバックも決めていた。

【最深部からマイナスの折り返しを】

 先制はブライトンでPKだった。17分、ステップを踏んだ1トップ、ダニー・ウェルベック(元イングランド代表)の足をスパーズのCB、ミッキー・ファン・デ・フェン(オランダ代表)がさらい転倒させたのだった。

三笘の見せ場は29分に訪れた。プレスバックからヤンポール・ファンヘッケ(オランダ代表)、ウェルベック、アダム・ララーナ(元イングランド代表)を経てラストパスが三笘に回ってきた。右足のアウトで放ったシュートは、しかしスパーズGKグリエルモ・ヴィカーリオ(イタリア代表)の美技に阻まれた。

 すると流れは徐々にホームのスパーズに傾いていく。同点弾が生まれたのは後半16分。決めたのは、右ウイング、デヤン・クルセフスキー(スウェーデン代表)の縦パスを受けたMFパペ・マタル・サール(セネガル代表)。浅いバックラインで背後を突かれやすい傾向があるブライトンらしい失点だった。

 ポステコグルー監督はその1分後、交代カードを3枚同時に切った。そのなかにソン・フンミンも含まれていた。満を持すかのように逆転ムードの演出を図ろうとした。

 韓国の7番と日本の7番が、それぞれ左ウイングで対角に構える恰好となった。最初に仕掛けたのは三笘。後半19分、スパーズの右SBペドロ・ポーロ(スペイン代表 )と1対1になるとCKを獲得。その8分後にも、かなり際どいマイナスのクロスボールを右足のアウトで蹴り込んでいる。

 気がつけば流れは、今度はブライトン側に傾いていた。スパーズはメンバー交代を機に、それまでのいい流れが失われる恰好になった。

 三笘がこの日、最大のチャンスを演出したのは後半31分。ソン・フンミンの縦パスをカットしたパスカル・グロス(ドイツ代表)が、タッチライン際で構える三笘に配球すると、日本の7番は対峙するポーロを苦もなく抜き去り、最深部に進出。マイナスの折り返しを中央に走り込んだアンス・ファティ(スペイン代表)に送った。しかし、アンス・ファティが放った左足シュートはポストをかすめながら枠外に逸れていく。

 アディショナルタイムは6分。攻勢はブライトンで、三笘にはいい形で2度ボールが回ってきた。95分のシーンは対峙するポーロを前に、切り返しの段で足を滑らせてしまう。直後に訪れた2度目のシーンでは、前方にスペースがあったにもかかわらず縦勝負を断念。中央にボールを戻した。その強引ではない、ある意味で三笘らしいプレーに若干の物足りなさを覚えていた時だった。三笘とピッチの対角で構えるソン・フンミンにボールが渡った。

 リシャルリソン(ブラジル代表)からパスを受けたソン・フンミンは、トップスピードに乗ると最深部に進出。左足でマイナスの折り返しを送ると、ファーサイドでブレナン・ジョンソン(ウェールズ代表)がこれに反応。決勝ゴールを叩き込んだ。

 決定的なアシストを決めたソン・フンミンと、そのおよそ20秒前に、縦勝負を避けた三笘。まさに最終盤の攻防で、両者の明暗はハッキリと分かれた。三笘が縦勝負を決めていれば、少なくとも逆転弾を決められることはなかったのではないか。

 この結果、ブライトンは9位に後退。スパーズは暫定ながら4位に上昇。CL圏内に順位を上げた。三笘の最後選択が悔やまれる一戦だった。