2023年の日本はWBC優勝に始まり、バスケのW杯では48年ぶりに自力での五輪出場権を獲得、ラグビーのW杯でも奮闘を見せた。様々な世界大会が行なわれ、スポーツ界は大いなる盛り上がりを見せた。そんななか、スポルティーバではどんな記事が多くの方に読まれたのか。昨年、反響の大きかった人気記事を再公開します(2023年10月15日配信)。

※記事内容は配信日当時のものになります。

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 カナダ戦前日、日本代表の森保一監督が発した言葉に、拭いがたい違和感を覚えた。

「以前、ある選手がロシアのワールドカップが終わってからカタールのワールドカップまで日本代表として活動した時に、地球8周分の移動をしたということがあったと思うが、本当にこの過酷な条件のなか、選手たちは代表として日本のために覚悟を持って戦ってくれていると思う」

 指揮官のその言葉は、久保建英の発言を受けてのものだった。久保はカナダ戦前々日、練習後に「正直、キツい」と、疲労があることを訴えていたのである。


カナダ戦ではベンチから試合を見守った久保建英

 久保の訴えも無理はない。

 レアル・ソシエダに所属する久保は、9月の代表活動と今月の代表活動に挟まれた3週で、国内リーグのみならず、チャンピオンズリーグ2試合をこなしていたのである。

 それを知る森保監督であれば、「選手の負担を少しでも減らせるように、今後は考えなくてはいけない」とでも言ってくれるのかと思ったが、以下のように続けている。

「それをメディアのみなさんに理解していただいて、より多くの人に知っていただけると、本当に選手たちがどれだけの覚悟を持って、志を持って、日本のために戦っているんだということを理解して試合を見ていただけるかなと、選手たちの頑張りを見ていただけるかなと思う。そんな選手を多くのサポーターのみなさん、国民のみなさんで応援していただければなと思う」

 まさか、選手は過酷な状況にあるから応援してやってくれ、とは......。

 カナダ戦当日の試合会場では、日本代表のユニフォームではなく、各選手の所属クラブのユニフォームを着たファンをよく見かけた。なかでも、その数が圧倒的に多かったのは、ブライトンの三笘薫である。

 イングランド・プレミアリーグで際立つ活躍を見せる三笘が、現在の日本代表における顔役であるのは間違いない。彼がいるといないとでは、集客数に大きな影響を与える可能性もあるのだろうし、興行という意味で言えば、欠かせない存在であることは理解できる。

 久保もまた、三笘と並ぶ顔役のひとりだろう。カナダ戦ではベンチだったにもかかわらず、試合前のメンバー発表で誰より大きな声援を受けていたのは彼だった。

 しかし、興行優先のために選手を酷使し、パフォーマンスレベルが下がった結果、所属クラブで出番を失うようなことにでもなれば、元も子もない。

 今回、コンディション不良を理由に鎌田大地、堂安律がそもそも選外となり、三笘、前田大然がメンバー発表後に辞退となった。

 だが、鎌田、堂安に関していえば、メンバー発表後も所属クラブで試合に出ていることを考えれば、招集できないほど体調に問題を抱えていたとは考えにくい。にもかかわらず、コンディション不良を選外の理由にしなければいけないあたりに不健全さを感じてしまう。

 前述のとおり、前回の活動から今回の活動までの間に、ヨーロッパではチャンピオンズリーグをはじめとするUEFAの大会が行なわれていた。それもあってか、カナダ戦では久保、守田英正の出場はなく、冨安健洋は前半のみの出場にとどめるなど、当該選手への配慮がうかがえた。

 しかしだとすれば、もう一歩進んで、招集そのものを見送る判断がもっとあっていい。と同時に、その際にはコンディション不良などを理由にせず、「選手の負担を考えて、今回は招集を見送った」でいいのではないだろうか。

 4−1で快勝したカナダ戦では、ワールドカップ以来の招集となった南野拓実が先発。2列目の新たな組み合わせが試されるなかで、彼らしい動き出しのよさを披露した。

 フィールドプレーヤーとしては唯一国内組で先発出場した毎熊晟矢も、これが代表2戦目とは思えないほどスムーズな動きができていた。

 この試合を見る限り、チーム全体として守備にはやや粗さがあったものの、ボールを奪ったあとの攻撃は、速さといい、幅を使った厚みといい、なかなか見応えがあった。

「誰が出ても勝つ。誰と組んでも機能する」

 森保監督がそう表現する理想形に、現在の日本代表は近づいていると言ってもいいのだろう。

 だからこそ、代表活動のたびにベストメンバーを集めようとするのではなく、うまく選手をローテーションさせながら、ヨーロッパ組の負担を減らすことを考えたい。

 国内組を中心に戦う。そんな試合があってもいい。

 今後、さらに日本人選手が力をつけ、多くの選手がシーズン終盤までチャンピオンズリーグを戦うクラブに所属するようになったとして、日本代表の活動が彼らの足を引っ張ってしまうようでは本末転倒だ。

 言うまでもなく、過酷な環境にもかかわらず、奮闘を続ける選手を応援はする。だが、最も優先されるべきは、彼らを応援することではなく、過酷さを軽減してあげることではないのだろうか。

 そして、地球8周もの異常な移動距離を減らしてあげられるのは、森保監督以外にいないのだ。

 むしろ長い目で見れば、そうすることが日本代表を強化し、日本サッカーの世界的評価を高めることにもつながるはず。冒頭の指揮官の発言も、それを実行するための"前フリ"であると思いたい。