バイエルンでもゴール量産 ハリー・ケインがいとも簡単に得点できる「傑出した能力」を風間八宏が発見&解説
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回は、今シーズン新天地となったバイエルンでも得点を量産している、イングランド代表FWハリー・ケインについて解説。あの簡単にゴールしているように見える裏には「傑出した能力」があるという。
◆ ◆ ◆
【新天地バイエルンでもゴール量産】2024年になって、シーズン後半戦がスタートしたドイツ・ブンデスリーガ。そのなかで驚異的なペースでゴールを量産しているのがハリー・ケインだ。
バイエルンでもゴール量産中のハリー・ケインに注目 photo by Getty Images
ケインと言えば、現在イングランド代表の歴代最多得点記録保持者として知られるが、今シーズンは10シーズンにわたって活躍したトッテナムを離れ、世界的名門バイエルンに移籍。自身にとっては、プロキャリア初めてとなる国外のリーグに活躍の場を移した。
移籍当初は、さすがに新しい環境に適応するにはそれなりの時間を要するだろう、とも囁かれていたが、いざ蓋を開けてみると、すでにリーグ戦24ゴールを記録(第20節終了時)。イングランド史上最高のゴールマシーンは、あっという間にドイツのサッカーファンを唸らせた。
この調子が続けば、プレミアリーグで3度得点王に輝いたケインが、ブンデスリーガでも得点王の称号を手にするのは時間の問題と言えそうだ。
では、なぜケインはこれほどゴールを奪うことができるのか。一体、どのような特殊能力を兼ね備えているのか。ブンデスリーガの解説者も務める風間八宏氏が、ケインの特長について解説してくれた。
「まず、バイエルンに加入してからのケインのプレーを見ていちばん感じたのは、その順応力の高さですね。正直に言うと、トッテナム時代に彼が経験してきたサッカーと、現在のバイエルンのサッカーは異なっているので、これほどすぐに活躍するとは予想していませんでした。
ところが、ケインのプレーをよく見てみると、ひとつひとつがものすごく正確で、無駄な動きもない。複雑なことはほとんどしていないので、一見、普通にプレーしているように見えますが、実はそこにゴール量産の秘密が隠されているのがわかりました。
同時に、それがあるからこそ、すぐにバイエルンのサッカーにもフィットできたのだと思います」
【ボールを"受ける"技術が傑出している】バイエルン加入によって、改めて特別な選手であることが証明されたとする風間氏が具体的に挙げてくれたのが、ケインならではの特殊な能力だった。
「ひと言で言うと、ボールを受ける技術が傑出しているということです。
私の定義では、ボールを"受ける"というのは、ボールと自分の間に相手を入れないということ。一方、相手を"外す"とは、相手の背中を取ったり、相手の逆を取って入れ替わったりする動きを言います。ただ、これらは手段であって、最終目的は自分がフリーでプレーすることなので、どちらもその点は共通しています。
それを前提に説明すると、ケインはボールを"受ける"技術を高いレベルで兼ね備えている、ということです。つねにボールと自分の間に敵を入れないコース、受ける場所を見つけて、最高のタイミングでシュートを狙う。実は、その連続でゴールを決めています。
ただし、相手よりも早くボールを受ける場所、つまりボールと自分を結ぶコースを見つけるのは、誰にでもできるわけではありません。実際、多くのストライカーは何度か動き直して相手の背後を取ってゴールを決めることのほうが多いんです。しかし、ケインのゴールは相手の前でシュートする場合が多い。普通に走り込んでゴールを決めているように見えるのは、そのためです。
たとえば、以前バイエルンでゴールを量産したロベルト・レヴァンドフスキ(現バルセロナ)はケインとは違ったタイプのストライカーで、受けるよりも外す技術のほうが高く、相手の背後を取って決めるゴールが多かった。それで言うと、ケインのように受ける技術でフリーになるか、あるいはレヴァンドフスキのように外す技術でフリーになるか、という違いがあります」
確かにケインのゴールシーンを見ていると、一見、いとも簡単に決めたように見えてしまうゴールは多い。風間氏が解説してくれたように、実はその背景にはケイン特有の"ボールを受ける"技術が存在していたというわけだ。
【正確にプレーできるから、速い】続いて、冒頭に風間氏が指摘した、ケインが「すぐにバイエルンのサッカーにもフィットできた」理由についても聞いてみた。
「なぜなら、バイエルンは圧倒的に攻めるので時間と場所が少なく、速さが必要だということ。そのチームに馴染むためには、大前提として正確にプレーできなければいけません。これまで何度も話してきた通り、正確にプレーすることこそが、速さだからです。
その点、ケインにはその正確な技術があるうえ、先ほど説明したように、ボールを受ける技術が高く、とくに相手の前で受けるコースを素早く見つけることもできる。速いサッカーのなかでは、外すよりも受け続けられるほうがチーム全体のスピードを落とさずに済むので、よりスムースにフィットできます。
すでにケインのシュートのうまさはトッテナム時代に証明されていましたが、今回、速いサッカーをするバイエルンに移籍したことによって、より持っている特長、受ける技術という武器を発揮できるようになったと言っていいと思います」
ちなみに、風間氏いわく「外す技術でゴールを奪うレヴァンドフスキなどは、速いサッカーよりもゆっくりしたサッカーのなかのほうが、外すタイミングを何度も作れるのでフィットしやすい」そうだ。
果たして、ケインのゴール量産はどこまで続くのか。昨夏に30歳を迎え、ますます円熟味を増した稀代のゴールマシーンのプレーぶりは、シーズン後半戦も見逃せない。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手、サッカーコーチを指導。今季は関東1部の南葛SCの監督兼テクニカルディレクターに就任。