サッカー日本代表 アジアカップ総括 後編

サッカー日本代表のアジアカップの戦いを総括。改めて明らかになった日本の弱点をこれからどう解決していくのか。気になるGKの今後の起用法やW杯アジア予選は大丈夫なのか? チームを長く取材してきたライター西部謙司氏と清水英斗氏のふたりが語った。

前編「アジアカップ・イラン戦の敗因を徹底分析」>>


サッカー日本代表のアジアカップを総括。鈴木彩艶は今後も起用され続ける? photo by Getty Images

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【得意な戦い方とそうでない状況にかなり落差がある】

――今回のアジアカップを総括すると、日本にとってどういう大会になりましたか?

清水 現状がすべてあらわになったというか。日本代表の今の姿。もう強いところも弱いところも全部明らかになった。

 親善試合の時にやっていたようなプレッシングとカウンター。すごく強みではあるんですけど、それを外された時にどうしようもなくなる。守備の方針が定まらなかった。

 これが大きな弱みで、ロングボールもある程度対処できる気はしていたんですけど、あそこまで徹底されるとやっぱりさすがに厳しいというところですね。

西部 得手不得手がはっきりしているのがわかった。得意な戦い方とそうでない状況になった時にかなり落差があると。

 日本は、基本的にはミドルゾーンのプレスとカウンターが一番得意な形。得意でないのは、相手に引かれてしまうこと。そこで困るのは、スペースがないなかをどうやって攻め崩すのかもひとつですけど、それ以上にそこでのハイプレスをどうするかが徹底できていないのがありますね。だからロングボールを蹴られてしまうと。

 もともと7割ぐらいポゼッションして、相手陣内でずっとやってハイプレスでボールを取りましょうという戦い方を想定していないんですよね。それはW杯本大会では当然70%もボールを持てないですから。ブラジルと対戦した時、あるいはフランスとかアルゼンチンとかスペインとやった時。逆ですよね。7割持たれますよね。

 そうなると、それをメインに戦う選択はしない。だから森保一監督の日本代表は、どっちみち接戦になると想定したチーム作りになっていますから、悪く言うと中途半端。そこで不得手なところと当たった時に、その不得手な部分がもろに出てしまったのが今回の大会で、そこをどうやって克服するのか、というところでしょうね。

 構造的にプレースタイルを変えることはまずないと思うんですよ。この範囲内で弱点を抱えたまま、それを最小限にしていくしかない。蹴られるところを抑えるか、ボールが落ちてくるところの人数を増やすか。そういう対策を早めにやったほうがよかったですね。

清水 プレス回避のところも、理想のメンバーが全員いればまたちょっと変わりますよね。鎌田大地や伊東純也。ただ、それができるメンバーもだいぶ限られているのもはっきりしましたね。

西部 イラン戦に限らずスペースがない時に、上田綺世が圧倒的に空中戦に強いので、単純に蹴ってもいいかなとは思いました。あれは結構シンプルに武器かなと。

清水 ちょっとえげつないところまで来ていますね。鈴木彩艶もキック力があるから、あれを生かすところも考えてもよかったですね。

【才能買いの鈴木彩艶。今後は茨の道に】

西部 彩艶にとっては厳しい大会になりましたね。

 これで優勝すれば、レギュラー確定。危ない部分もあったけど、もうこれから日本を背負っていくGKとお墨つきが出たはず。

 最後の試合がたぶん一番出来がよかった。ただ、それまでにいくつかやらかしているのは、疑問符がついたと。

清水 そうですね。もしここで結果を拾っていたら、もう何度かチャンスがあって「尻上がりによくなってきているね」となっていたような気はするんですけど。

 でも森保さんはまだ使いそうですね。そこは頑固で粘り強い人なので。

西部 彩艶が一番いいかと言うと、疑問はあると思うんですよ。でも逆に他に誰が飛び抜けてるかと言ったらいない状況だから、もう"才能買い"ですよね。

清水 そうですね。

西部 ポテンシャルを買って、あと2年後には抜群にスゴくなっているだろうという期待のもとに経験を積ませようということでしょうから。それが成功せずに中途半端な形で終わっちゃったんですね。

清水 今回はアジアカップからワールドカップまで、いつもよりちょっと期間が短くなるので、彩艶にとっては欲しい時間が短めになるところはあります。だけど、ワールドカップまでに成長したら、相当な武器になりますね。

 今までの日本のGKにはできなかったプレーをたくさんできる人なので。相手のFWと競り合って跳ね飛ばしながら、クロスボールにチャレンジできたりとか。

西部 日本が本当にワールドカップで優勝しようと思ったら、相当スーパーなGKがいないと難しいと思いますよ。GKが弱くて優勝するチームって、本当にあまりないですから。

 そのスーパーという条件から言うと、もうポテンシャルからすれば彩艶を使いたいのはわかりますけどね。でもちょっと茨の道になっちゃってますね。

清水 間違いなくそのとおりだと思うし、アジアカップの前から森保さんはそうすると決めていたという話は、伝え聞いていました。

 だから、森保さんらしいというか。長期間任せている人じゃなかったら、こんな決断絶対できないですよね。アジアカップでクビになっちゃいますし。ただ8年任せようという人になってるから、だからこその決断ですよね。

 これがいいほうに出たら、本当にすごいところまで行くかもしれないですね。

 でも、これでワールドカップのアジア予選でも使い続けたら、今度はアジアカップとは全く違う種類のものになってくる。仮にミスとかで試合を落としたりしたら、もうスパっと代えざるを得なくなる。

西部 うん。それはいくら才能があっても、何度ミスしても使われる人だったら、他のGKは収まりがつかないですから。そこまで実力差があるわけじゃないですしね。

【先手を打てない森保一監督】

――改めて森保監督の采配で気になったところはありますか。

清水 僕はやっぱり「先手」「後手」というキーワードがすごく気になっているんですけど、この人は先手は打てないな、というところですね。1点取られた後の後手の動きは、結構腹くくって行くし、選手にも伝わるんですけど、先手はやっぱり打てない印象は続きますよね。

 カタールW杯の時は、森保さんの采配がめちゃくちゃ褒め称えられて、今回はケチョンケチョンに言われて、なんかもう一喜一憂でみんなが手のひら返してるようなんですけど、結局「先手」「後手」というキーワードで見ていくと、何も変わっていないんですよね。そこを改善してほしいなと。

西部 カタールW杯のドイツ戦みたいに、前半もうヤバいとなって、これは5バックにするしかないだろうなと思ったら、ちゃんと5枚にするじゃないですか。でも今回はあんな状況が悪いのになぜ代えなかったか? 結構なムラのある人だなってという感じはあります。

 前回大会の決勝(●1−3カタール)もそうですよね。ハイプレスしてもハマらなくて前半2点取られて。試合が終わってから「どうすればよかったんでしょうか?」という話の時に、「一時的に引くのもありだと思います」と。なんだ、答えを持っているんだったら、なんで伝達しないのって。

清水 今回も答えはあったと思いますよ。イラン戦を解決するカギは、それまでのアジアカップのなかだけでもたくさん出ていたので、あとは使うだけだと思うんです。だけど、そこの決断を先送りというか、粘っちゃうんですよね。

西部 今回も、試合直後に自分の采配ミスだって言ってますからね。

清水 そこってどう解決するのか。監督の決断レベルの話って、すごく難しいところじゃないですか。外部から口を出してどうにかというのは。

西部 ある意味、イラン戦に関しては、監督のせいで負けたって言っていいと思う。ただ、監督のおかげで勝つ試合もあるわけです。そこは総合的な判断だから。これがW杯の最後の試合でもない限り、それをもって監督の全能力を肯定も否定もできない。

 ただ、そういう弱点を持っているのは、前々からわかっていたことなので。カタールW杯の采配がすべて当たったわけでもないし。

清水 先手助言のできるコーチがいるのかが気になりますね。名波浩コーチもどちらかというと後手に見えるんです。

西部 ただ、アジアカップをベスト8で負けたということは、誰かが責任を取らなきゃいけないでしょうね。普通に考えれば。

清水 テコ入れ、ですか。

西部 監督を切れないんだったら、誰が犠牲になるのかなってちょっと思いますけどね。

清水 前回のW杯予選も、ちょっと調子が悪くなってきた時に新しいコーチが加わったりしましたよね。ちょっとあるかもしれないですね。

【接戦体質。勝ち損ねをどうなくすのか】

――これからの森保ジャパンは1−0で勝つサッカーに戻りますか?

西部 もともと1−0体質だと思いますよ。ただ点が取れていただけであって。森保監督のそこの大局観は僕は間違ってないと思うのは、W杯に行っちゃえばそうだから。ほぼ全部接戦なので。

 1−0でも2−1か3−2かわからないけど、そこの僅差勝負をものにできるかどうかですよね。

清水 そうですよね。W杯で2−0とか言ったら、本当に完勝だなって感じがしますから。

西部 だから相手にボールを持たれても、自分たちが持っていても、膠着するのは一緒なんですよ。ただ、そうするとムラも出てきちゃうし、勝ち損ねる試合はどうしても出てきます。以前から変わっていないと思います。

 ただ今の日本は、W杯と比べるとフィニッシュの能力がものすごく上がっていて、同じように塩試合をやっているんだけど、シュートが入っているんですよ。

清水 カウンターのチームって、相手がつないできてくれれば、大量点を取るんですよね。そういうのは親善試合では起こりやすかったのは間違いなくあると思うし、決定力の問題も最近は全然聞かなかった。

 ただ、最終予選ではそうはいかない感じにやっぱりなりますよね。

 親善試合って、短所はなかなか出ないし、直せないものですね。まあ、プレッシングがハマらない時のロングボール対策とプレス回避、プレス回避は昨年のドイツ戦ではうまくいったなってすごく感動しましたけど、実は出ている人次第でできなくもなる。まだ道としては完成度が高くなかったというところですね。

西部 僕はこのアジアカップは、ターンオーバーを試すひとつの機会だろうなと思っていたんですよ。

 というのは、W杯のレギュレーションがまだはっきりしないところがありますが、メンバーを代えないで決勝近くまで行けるチームはまずないので、どこかでガラっと代えないといけない場面が出てきます。

 そういう意味では2チームですね。ターンオーバーできるかどうか。戦力は充実しつつあるのは見えたので、アジアカップではそういう采配を見せるのかなと思ったんですが、イラクに敗れたことでちょっと難しくなった。

 GKに彩艶を使ったりとか、いくつかのテストはしていたと思うんです。でも、遠藤航を最初から最後まで使って、一番重要な選手を一番疲れさせるってどうなのよ! というのもありますし、ちょっと思っていたイメージは崩れましたね。

清水 ひとつ気になっているのは、鎌田大地のことです。今回選ばれなかったのはクラブとの関係もあるかもしれないですけど、その前からちょっと序列が低くなりがち。なんか鎌田の扱いはどうなっていくのかは気になっていますね。

 彼がいたら、やはりイラン戦のような状況は解決できるクオリティを持っていますし。

西部 W杯2次予選は、もうコンディションだけが問題だと思うんですよ。だからそんなにメンバーを揃えなくてもいいとは思っていて、新しい選手を使ってもいいんじゃないかと。

 最終予選になると、そうも言っていられなくなるでしょう。もう間違いなくイラク、イランが勝って流れが変わったというか。もうみんな同じことをやろうとしてくる。

 日本はそれに対して、しっかり勝っていく。これで何回もやられちゃうようだったらダメですけど、対策を立てられると思います。基本的には勝てそうな相手が抵抗してきているだけですから。