高級天ぷら店主人の「やりたいこと」が詰まった新店は、コース8,800円のカジュアルライン!
昨年末に高級天ぷら店のカジュアルライン店がオープン! 和・洋・中のジャンルを超えた独創性あふれる料理が楽しめる。
教えてくれる人
猫田しげる
20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。
あの著名人の作品も……! アートを見るだけでも価値がある
神戸の北野坂そば、ちょっとバブリーなビルに2023年12月1日オープンしたこちら。4階には「天ぷら料理 花歩」が入り、29,800円のコースでグルマンの舌を満足させています。今回紹介するのは、その「天ぷら料理 花歩」がカジュアルラインとして同ビル7階に出店した「RIO’S KITCHEN(リオズキッチン)」。アッパーな価格の本店とはぐっと趣向を変え、8,800円のコース1本というから非富裕層の私でも手が届く範囲です。
単に値段がカジュアルというだけでなく、その内容やスタイルが驚異的。「天ぷら料理 花歩」の料理長仕込みの料理が、和・洋・中のジャンルを超えてカウンターから14品ほど繰り出されます。
料理の前に、まずぶっ飛んだ内装についてお伝えしましょう。店内に入ると、瀟洒なカウンターとは対照的なポップアートが入り口に。そういえばドア前にもやんちゃなアートが掲げられていました。
実はこれらのイラストは、今をときめくタトゥーアーティストのTAPPEIさんが手がけたもの! 大きな壁面に自ら下地を描いて、ペイントして完成させた大作です。
猫田さん
実は開店直前にお邪魔した時、TAPPEIさんが絵を描く現場に遭遇しました!下絵の段階から見られてラッキーでした。
カウンター後ろに鎮座するクレーンゲームマシーン、相当な圧迫感です(笑)。これもTAPPEIさん作で、よく見ると「Donation box(募金箱)」の文字が。実際に稼働しないけれどコインは投入できるので、入れたお金は募金っつうことです。なるほど!
バンクシーの版画もあり! 店主は一体何者なのか
そして正面でゲストと対面するのは、かのバンクシー作品ではないですか! 一体いくらするんだろう、と無粋なことを考えてしまいましたが、オーナーがアート好きで、これもコレクションの一部なのだそう。
そのオーナーと店を支えるのが「天ぷら料理 花歩」料理長の真田篤史さん。ホテルオークラ神戸「日本料理 山里」の副料理長として活躍するなど経験を積んだ実力派です。実は東京にも天ぷらと神戸ビーフの「麻布十番 真田」を出店しており、そちらは1人60,500円という超高級路線です。私の家賃より高い(笑)。あ、でも高級ワインも激レアなウイスキーも飲み放題というから、結果的には安上がり(?)なのかもしれません。
さて、「天ぷら料理 花歩」「麻布十番 真田」に続いてオープンした「RIO’S KITCHEN」、カウンターに立つのは若き料理人・織井秀郎さん。東京や神戸などのレストランで主にイタリアンの修業を積んだのち、真田さんに抜擢されこちらのお店に。
コースは概ね月替わりですが、同じ月の中でも食材を変えるなど、お客さんの要望があればメニューの変更などアレンジも。「キッチンと名がついている通り、気軽に楽しんでもらう場所です」と真田さん。
コース8,800円は八寸から〆4種までの14品にワンドリンク付き
八寸、と言われて出てきたのは、メイン料理級の品々がのったお盆。淡路タマネギのグラタンに、よだれ鶏、Rio’sサラダ、ピータン豆腐、そして写真真ん中は、サツマイモの天ぷらです。
Rio’sサラダは生春巻き仕立て。タマネギと自家製ポン酢で作ったジュレ仕立てのドレッシングが爽やかです。よだれ鶏は、骨付き鶏をサッとゆでて、紹興酒やネギ、生姜を合わせたピリ辛ダレに、炒った松の実を加えた本格中華の製法で。
タマネギのグラタンはホワイトソースを米粉で作るため、濃厚なコクと甘みがあります。秀逸なのがピータン豆腐で、口に入れた瞬間胡麻の風味が広がるので「胡麻豆腐ですか?」と聞くと、実は普通の木綿豆腐。ピータンの黄身を裏ごしして胡麻と合わせたタレをまとわせているそうです。なんとクリーミーで風味豊か!
猫田さん
天ぷらは「サツマイモか〜」と侮るなかれ。実はこちら、「天ぷら料理 花歩」の名物の一つでして、サツマイモ紅はるかを100℃の低温で3時間も揚げるのだそうです!
厳選素材を使ったパテが楽しみ! 店のアイコンになりそうな「Rio’sバーガー」
八寸の後にフレッシュトマトのパスタを挟んで、次にお出まししたのはハンバーガー! こちらは同店のスペシャリテ的な一品で、和牛と豚の合いびきハンバーグのゴリゴリした肉々しさを楽しめる「Rio’sバーガー」です。
ソースは炒めタマネギを醤油や赤ワイン、バルサミコなどで仕上げ、ハンバーグの上にはアボカドのペーストとスイカの漬物を刻んで混ぜたフィリングをアクセントに。
肉は極粗びきで弾力がありつつ、和牛ならではの香りがしっかりあり、小ぶりながら「肉食べた!」という満足感は十分。このハンバーガーだけで専門店開けそう。
猫田さん
パティは月によって変わり、和牛ハンバーグ以外にフィッシュフライなど厳選素材を使って工夫を凝らすとのこと。訪れるたびに楽しみですね。
この後に「真田の出汁とかぶら」など季節の一品と、めちゃめちゃパリジュワな手羽先が登場し、ラスボス的なメイン料理が目の前で仕上げられます。
神戸ポークの酢豚です。豚肉は小麦粉と片栗粉と卵の衣でフリッター状に揚げ、外側をカリッとアツアツの衣で閉じ込めることで、中を蒸し焼き状態に。さすが揚げの名手!
ソースは黒酢や中国のたまり醤油を合わせほんのり酸味が利いています。甘酸っぱいソースに包まれた豚肉を口に入れると周りはサクッ、中はジュワッ。上に散らしたタマネギのシャキシャキ感もたまりません。
そうそう、なんとこのコース、ドリンク1杯が無料で含まれているのです。こちらはお店イチオシの「Rio’sレモンサワー」。氷の代わりに凍らせたレモンを浮かべており、レモンで蓋をしてある強烈なビジュアル。好きなだけレモンを搾って爽快感を楽しめます。
猫田さん
ドリンクは、ビール、濃いめの角ハイボール、ワイン、ソフトドリンクなど色々選べます。
〆はカレー、卵かけご飯、ラーメン……「全部ください」もOKです!
〆は、「ライス」「あっさり醤油ラーメン」「カレーライス」「韓国風たまごご飯」から選べるのですが、なんと「全種類ください!」もOK。ここまででおなかいっぱいですが、「どれも一口サイズなので大丈夫ですよ〜」との言葉に、ライス以外の3種をオーダー。
おお、詐欺でした(笑)。どこが一口やねんというポーションです。カレーは神戸牛のスジ肉を軟らかく炊いて、野菜も別鍋でハーブを利かせてじっくり煮込みます。朝から晩まで3日間炊き続けてつぎ足し、5〜6日かけて完成させる名作です。
「天ぷら料理 花歩」「麻布十番 真田」でも使うため神戸牛を一頭買いしているので、端肉を活用することができるのだそうです。じんわり辛いながらリンゴとハチミツの甘みが利いていて、ビーフのコクもしっかり。隠し味に白味噌を使うことでとがりのない口当たりに仕上がっています。オープンの1カ月前から仕込み始めた究極の一品だそうです。
韓国風たまごかけご飯は、ごま油が香ばしい韓国海苔がライスの上に。“韓国風”と言うからには卵にも仕掛けがあります。
卵液には胡麻油が混ぜてあり、海苔の塩気と相まって一気にコリアンな味わいに。家でもマネしてみよう!とひそかに思いました。
ラーメンも専門店並みの手間をかけています。スープは鶏ガラの出汁に、ゲンコツやモモ肉、ネギなどの香味野菜を加えてコトコト12時間ほど炊きます。「濁った白湯にならないよう、透き通った状態を保ちます」とのこと。
特注のストレート麺もコシがあって喉越しが良い!「天ぷら料理 花歩」でも使う食材を活用して出汁の材料にしているため、原価率が相当高いでしょうね……(とまた下世話なことを)。ラーメン屋を超えた一杯です。
まだまだ若い織井さん。料理は全て真田さんがレシピを考え、指揮を執っていますが、織井さんの個性も加わりながらどんどん進化していくのでしょうね。楽しみです。
ちなみに、オープン当初はコースのみだったのですが、20時以降はアラカルトのみでの注文もできるようになったそうです! Rio’sバーガーやカレーを単品でお酒とともにサクッと……なんて使い方もできるというから、2軒目使いにも良さそうです。
猫田さん
そういえば店名の由来を聞いたら、 オーナーの娘さんの名前が「莉央(りお)」さんだそうで、「花歩」も娘さんの名前「佳穂」からだそう。いよっ、子煩悩パパ!
<店舗情報>
◆RIO'S KITCHEN
住所 : 兵庫県神戸市中央区中山手通1-25-6 ラ・ドルレイ神戸三宮ビル 7F
TEL : 078-891-5511
※価格は税込
撮影:東谷幸一
文:猫田しげる