槙野智章が選ぶスゴいと思ったFWトップ10

元サッカー日本代表・槙野智章氏が選んだスゴい選手ランキング。後編は自身が対戦したり一緒にプレーしたなかで、印象に残っているFW10人を挙げてもらった。

前編「槙野智章が選ぶ一緒にプレーしてスゴいと思ったDFトップ10」>>


槙野智章氏が選手時代に間近で見て衝撃を受けたFW10人を挙げた photo by Getty Images

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【「消える動き」「ミスターストイック」】

10位 鄭大世(元川崎フロンターレ、清水エスパルスほか)

 10位は鄭大世です。いろんな色のユニフォームの鄭大世と対戦しましたよ。代表のほかに、川崎フロンターレ、ボーフム、水原三星、清水...。

 やっぱり嫌な存在なんですよ。矢印が常にゴールに向かっている感じで。バチバチの感じになるんですよね。

 こっちも「守らなきゃ」ってスイッチが入るので、やっていて楽しかったです。

9位 小林悠(川崎フロンターレ)

 小林悠選手とは数多く対戦しました。僕と同い年なんですよ。

 彼はまさに「消える動き」が代名詞ですよね。いやらしいタイプの選手で、僕も何点取られたか。DFの選手って、ボールホルダーと自分のマークを常に見ていないといけないんですが、どうしてもボールのほうに視線が行ってしまう瞬間があります。

 彼はそこを逃さない。次の瞬間にこちらが「背中をとられる」動きをしています。嫌なんですよ...。こちらの背中から前に入ってくるような動き、DFラインを下げさせるような動き、触れそうなところにいるのに、結局こちらは触れないという動きができる選手ですからね。なかなか捕まえづらい。

 子どもたちにもぜひマネして欲しいタイプのFWです。

8位 武藤嘉紀(ヴィッセル神戸)

 武藤嘉紀選手は、ミスターストイックです。鍛え上げられた体、練習量、これまでいろんな選手を見てきましたけど、断トツ1位だと思います。

 サッカーに対する考え方、向き合い方、トレーニングの量、どれをとっても努力の賜物ですね。日本で一番クリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)の肉体に近いと思います。腕とかめっちゃ太いですから。ただ脱ぎたがりでもあるんで、それさえなければ...もっと上の順位だったかもしれません(笑)。

 欧州のクラブからJリーグに戻ってきた選手たちは、日本の縦に速いサッカースタイルや気候に逆に苦しむものなんです。ただ、僕が見る限り武藤嘉紀はトレーニングでそれを克服していますね。

 欧州から日本に戻ってきて「何とかなるでしょ」という感じの選手もいるなかで、ヴィッセル神戸で見た彼は全体練習が終わった後に、右のコートのほうで練習をやっていると思ったら、気づいたら今度は左のコートのほうで別の練習を行なって...。

 それで、じゃあマッサージ受けに行くかなと思ったら、今度は端っこのほうで走り始めたりするんです。「トレーニングしないと、なんか自分のなかで次に点が取れる気がしない」って言うんですよね。食べ物もストイックにやってますよ。何時に何を食べるかまでこだわっている。

【衝撃を受けた選手たち】

7位 佐藤寿人(元サンフレッチェ広島ほか)

 佐藤寿人選手には、サンフレッチェ広島で僕がプロの門を叩いて、ピッチ内外で本当に面倒を見てもらいました。

 思い出深いのは、僕が試合に出られていない時に紅白戦で常にマッチアップしていたことです。寿人さんも「消える動き」がスゴい。本人もインタビューで言っていますが、体が大きいわけでもなく、強くも速くもない。ただ、その一瞬の動きでゴールを取ってきたと。

 それは本当です。ボックス内での動き方とワンタッチの技術は、もうJリーグ30年の歴史のなかでも断トツにうまいと思います。左利きではあるんだけど、右足もうまいし、体は大きくないけどクロスに対して頭から入っていける。

 それを練習で体感できたのは本当に幸せです。ピッチ外でも「プロサッカー選手は夢を与えなきゃいけないんだよ」と教えてもらいました。今の僕があるのは、寿人さんからいろんなことを教えてもらった形そのものだと思っています。

6位 レナト(元川崎フロンターレほか 現アマゾナスFC/ブラジル)

 川崎フロンターレで10番をつけていたレナトには、衝撃を受けました。何度も対戦して本当に苦しめられました。

 彼は格が違いました。左足しか使わないんだけど、ヒザ下の振りとドリブルの速さ、プレーの緩急がとんでもない。それが90分間ひたすらゴールに向かって来るわけです。ゴール前に来ないな、と思っていてもボックス外のからガンガンシュートを決めますから。マジで日本国籍取得してほしいと思っていました。

 一緒にDFラインを組んでいた那須大亮さんが、1対1でやられて「こんなの止められないよ」と言っていた時がありました。僕がスゴいと思っていたDFがそんなになってしまうなんて、レナトは反則だなと思いました。2015年に中国(広州富力)に移籍した際には、ちょっとホッとしたくらいです。

5位 マルキーニョス(元鹿島アントラーズほか)

 鹿島アントラーズなどで活躍したマルキーニョスは、「何をやらせてもスゴい」タイプでした。1回、ボックス内でリフティングみたいなのをやられてポーンとゴールを決められて、「ああもう敵わないな」と思ったことがあります。体が強いし、腕は強いし、シュートのパンチ力もスゴかったです。

 イケメンでした。もう、ピッチ上で「カッコいいな」と思いながら見てましたね。長い髪にリストバンドなんかもカッコよかった。

 あと、こっちがマークに行って、背中を向けている時とか。背筋のボコッという感じとか、お尻の筋肉の位置もブラジル人選手特有の日本人にはないような、ぐっと背中に近い位置にあって...。そんな一つ一つを見ながら「違うな〜」と。特に鹿島が3連覇していた時の彼には衝撃を受けましたよ。

【スゴすぎたブラジル人FW】

4位 ジョー(元名古屋グランパスほか)

 名古屋グランパスにいたジョーは「ボールが見えない」タイプのFWでしたね。DFとボールの間に入って、その上でDFが触れない位置にボールを置くというのを、瞬時にできる選手でした。

 だから、ボールが見えないんです。かといって、DFが強く行くと、それをうまく利用して反転してシュートまで持っていく。僕も何回もやられました。しかも、ああ見えて結構足も速くて...。

 また、空中戦も強かったです。強いというか、DFがヘディングで競り合おうとしているボールを、胸トラップで収めますからね。日本人FWにいないタイプでした。ズルいなと思いながらやっていましたよ。

 Jリーグでプレーした期間は、確か1年半くらいのはずです。でも30ゴールくらい決めていますよね。それは相当難しいことだと思います。日本に来てすぐに活躍したわけですから。Jリーグは決してレベルの低い場所ではないので。

 当時の名古屋のカウンターサッカーもぴったりハマったと思いますよ。ボックス内で仕事ができることを考えた時に、 すごくチーム選びが良かったと思うんです。自分の能力を生かしてくれる仲間たちが周りにいたのもあるんじゃないですか。

3位 ウェズレイ(元サンフレッチェ広島ほか)

"ピチブー(猛犬)"ことウェズレイには、僕が若い頃にサンフレッチェ広島で本当に鍛えてもらいました。練習では打たれても打たれても起き上がり、倒されては立ち上がり。なんとかついていったというところです。

 練習でマークしていると...もうお尻の位置が肩甲骨ぐらいにあるんですよね。まあ、肩甲骨は言い過ぎですけど、もう普通の人の腰の位置くらいにお尻がある感じなんですよ。ボールキープされると、こちらのお腹のあたりにウェズレイのとてつもない筋肉が当たるわけですよね。

 それで、足の振りも速いですし、足も速かった。羽根が生えているんじゃないかというくらいでした。

 Jリーグで新人だった頃は「こういう選手を止めないと、オレはJリーグでやっていけないんだろうな」と思っていました。毎日の紅白戦が僕にとってはJ1のトップ・オブ・トップとの戦いだったので。佐藤寿人、ウェズレイの2枚を抑えられたら、Jリーグで活躍できて日本代表になれると思っていました。とにかく練習中から、そのふたりにわざとガツガツ強く行くことを意識していましたね。

 それでいて、ピチブーはめっちゃいいヤツだったんです。後輩思い。練習が終わったら「ご飯行こう」ってみんなを誘ってくれてよく食事に行きました。焼肉を奢ってもらいました。こっちも1円でも浮かせていいお肉を食べるために、お腹空かせて行ってたくさん食べたもんですよ。「オレたちもああいうお尻になるんだ」って。

【何をしてもトップレベル】

2位 大迫勇也(ヴィッセル神戸)

 大迫勇也選手は、Jリーグで得点王を獲りましたよね。まあ、やっぱり「半端ない」んですよ。ボールキープからゴールへのパターン、すべてにおいて半端ない。

 代表でも長く一緒にやりましたし、一昨年はヴィッセル神戸で一緒にやりました。DFとしては本当に嫌な選手で。フィジカルで勝負する状況でも、彼が「だったらフィジカルでねじ伏せてやろう」とばかりに強い力を発揮する。

 空中戦も強い。「大迫ここにあり」というプレーばかり見せてくるんです。そして武藤嘉紀選手と同じく、練習量を年々上げていっているんですよね。

 チームメイトとしても心強い点ばかりでした。なんと言っても、彼がいればロングボール1本で状況をひっくり返せますから。そしてピッチ外でも模範となる存在でした。

 実際に対峙すると「足が出せない」感じになります。一度彼に聞いたことがあるんですよ。「どうやってボールをキープしているの?」と。返事はこうでした。

「相手のヒザを押さえている」

 FWが相手DFに体を預ける状況は多いですが、大迫は預けると同時に相手のヒザに手を当てると、相手は手も足も出せなくなるのを知っていた。ものすごい賢いですよ。

「どうやって覚えたの?」って聞くと、ブンデスリーガで190cmクラスのDFと対峙するのに、普通に体を預けていても負ける。だから、相手のヒザに手を置くことでボールキープできるのを覚えたと言っていました。

1位 興梠慎三(浦和レッズ)

 1位は、興梠慎三選手です。天才です。何をしてもトップレベル。いろんなことを表現できるし。なんで海外に行っていないのか。なんで日本代表でずっとプレーできていないのか。未だに謎すぎますよ。

 誰に聞いても、どのアンケートでも必ず上位にいるんじゃないですか? 一緒にやったらそのスゴさは当たり前のようにわかりますよ。人間性もはなまるです。練習試合で対戦相手から「どうやってボールを受けるんですか?」とか「どうやってボールを収めてるんですか?」って質問されても、ちゃんと答えてあげてるし。ファン・サポーターにも優しい。

 ドリブルができて、パスができて、空中戦も強くて、クロスに対しても入っていけるし、オフ・ザ・ボールの動きでも仕掛けられる。そしてPKも蹴れる。足も速いんですよ。キューンって行く1本、2本がめちゃくちゃ速いですからね。小林悠、佐藤寿人の裏抜け、背中の取り方とは、またわけが違うんですよね。

 唯一できないのが、ボックス外からのシュートですね。100何点も取ってるのに、ほとんど決めていないんですよ。ただ、もうそれ以外は全部パーフェクトにこなすんです。

 もし自分のサッカーチームに彼がいたらどうなるか。一歩ズレたロングボールも全部「ナイスパス」になりますよ。「ヤバい! ミスった!」と思ったパスも止めて、アシストとかにつなげてくれる。動き出しの速さやテクニックでそう変えてくれるんです。

 そしてその後に「ナイスボール!」って手を叩いてくれるんですよ。そんな選手います? こっちは「ごめん」って思ってるのに。「パスの出し甲斐のある選手」でもありますよね。生まれ変わったら、こういうタイプのFWになりたいなと思いますよね。

槙野智章 
まきの・ともあき/1987年5月11日生まれ。広島県出身。サンフレッチェ広島ユースから2006年にトップチームに昇格。DFとして攻守に渡る活躍を見せ、2010年からケルン(ドイツ)、2012年から浦和レッズ、2022年にはヴィッセル神戸でプレー。J1通算415試合出場46得点を記録。Jリーグベストイレブンには3度選ばれた。日本代表では国際Aマッチ38試合出場4得点。2018年ロシアW杯に出場した。2022年の現役引退後は、タレント、解説者、指導者として活躍中。