「日本代表は時間が経つにつれ集中力を失う」対戦国イランが見た森保ジャパンの弱点
「私たちは今、奇跡を目の当たりにしている。1年ちょっと前、同じカタールで開催されたワールドカップで、サウジアラビアがリオネル・メッシ率いるアルゼンチンを破ったときのサウジアラビアのファンの気持ちが、今ならよくわかるよ」
アジアカップ準々決勝、日本対イランの試合後、歓喜の雄叫びをあげていたのは、イランのサイード・モラエイ記者だった。
「我々はチャンピオンに勝った。アジアカップで最高のチームに勝ったんだ。あの時のサウジアラビアと違うのは、これは一発勝負で、この勝利によって我々は準決勝に進めるということだ。すべて自分たちの実力によって成し遂げたものだ。南野拓実、久保建英、遠藤航、三笘薫......その他大勢のヨーロッパでプレーするスター選手に勝てたのだから、すべては可能だろう。この大会で日本ほど強い相手はいないはずだ。日本戦のようなプレーをすれば、イランはこの大会を制することができるに違いない。
一方で、日本にはもっと期待していたのも事実なんだ。だが、彼らはサッカーをすることよりも、ボールを失わないことに少し関心があるように見えた。そのおかげで、イランは試合をするなかで、どんどん成長することができたのではないか」
イランの攻勢の前に、最後はPKを決められて敗れた日本代表 photo by Sano Miki
彼にはそう見えたのだろう。筆者はといえば、この試合を観て、とても怒っているというのが正直なところだ。いいサッカーが負けた。日本のいいサッカーは試合が進むにつれどんどんと消えていってしまった。日本はミスすることを恐れていた。ミスを恐れるチームは常に敗れるのだ。
イランが日本に勝ったというわけではない。日本のサポーターはそれを理解しなければいけないだろう。ただ単に、日本が負けたのだ。記者席にいたすべての外国人ジャーナリストも同じ意見だった。イランは日本に勝てるようなプレーはしていない。しかし日本のミスへの恐怖心、負けることへの恐怖心は、試合中にはっきりと見て取れ、それがイランの選手に自信とモチベーションを与えていた。
【「人生を賭けた試合だと思っていた」】
イランの選手たちはキックオフの前、勝利を信じてはいなかった。みんな、これが最後の試合だと思っていただろう。試合後のイランの喜びようは、それを証明している。「勝ちたい」という気持ちは、イランのほうが確実に日本より強かった。それは試合後のイランの選手たちのコメントからも明らかだ。
試合終了直前、板倉滉に倒されてPKを獲得したホセイン・カナーニは、興奮をおさえられずにこう語っている。
「信じられない! まるで『千夜一夜物語』みたいだ。審判が試合終了の笛を吹くまで、自分たちでさえ信じられなかったと思う。日本は今大会最強のチームだ。その最強の相手に勝ったんだ!」
一方、そのPKを決めたアリレザ・ジャハンバフシュは、日本のことをかなり冷静に見ていた。
「我々はこの一戦を、人生を賭けた試合だと思っていた。今大会の日本の試合をすべて見て研究したが、彼らにはほとんど弱点がなかった。ただひとつ気がついたのは、日本は時間が経つにつれ次第に集中力を失っていくことだった。だから我々にできることは、決してあきらめず辛抱強くやることだと思った。
たとえ彼らが今大会最高の優勝候補だったとしても、私は『やればできる』と信じていた。ピッチのなかでは11対11、すべてが可能であることはこれまでのサッカーが証明している。そして今日のピッチに立ったイランの11人は、より自信にあふれていたし、何よりも落ち着いていた。そしてゴールが生まれた。時間はかかったが、それでもゴールが生まれた。すばらしいチームに勝った。この日本戦の勝利は、私たちがこのアジアカップを制することができるかもしれないという希望を与えてくれた」
キックオフからしばらくの間、日本はバランスが取れており、パスもすばらしく、試合を支配していた。しかし恐怖を持ち始めると、日本はボールを持ってプレーすることを忘れ、勝利を確実にすることしか考えられなくなった。日本がサッカーをしている時は問題がない。日本の実力は圧倒的に敵より上だ。しかし勝利を意識し、恐怖を持ち始めると、混乱してしまい、チームはまったく別物になってしまう。
【負けたくないと思っていた日本】
試合としては凡庸なものだった。日本は守田英正の得点のおかげでリードしたが、それは彼個人のゴールをしたいという気持ち、彼個人の見事なテクニックのおかげであり、チームのゴールではなく、守田個人のゴールだった。
そして日本はイランに同点ゴールを許してしまう。これがまず大きな過ちだった。選手たちはもっと手堅く、冷静で、何よりもっと聡明であるべきだった。
そして私は、PKが与えられたファウルのシーンを少なくとも15回は見直した。別にジャッジを疑っていたわけではない。あれは確かに足がかかっていて、PKだった。それよりも私が知りたかったのは、なんでそんなことをしたのか、だった。
板倉のファウルはチーム全体の苛立ちから生まれた。問題はなぜイランの選手があの時間帯に、あんなにも簡単に日本ゴールに近づけたかだ。あの時、日本の選手のポジショニングは最悪だった。あと1分で試合が終わるという時点で攻め込まれているのに、ペナルティーエリア内にあんなに少ない選手しかいないのは明らかな過ちだ。少なくとも6、7人の選手がいるべきだった。
また、この日の森保一監督の采配には大いに疑問が残った。たとえば南野と三笘の交代はあまりにも遅く、その時すでに、チームはイライラして失望の空気に包まれていた。そんな空気を変えるのは至難の業である。与えられた時間の短さは、彼らのプレッシャーをより増大させたように見えた。なぜ交代がこれほど遅かったのか。選手交代があと10分でも早かったら、何かが違っていたかもしれない。
繰り返しになるが、この試合の日本は負けたくないと思っていた。一方のイランは勝つことしか考えていなかった。これが大きな違いとなった。