「イラン戦は、図らずも警告していたとおりの結果になってしまった」

 スペインの名伯楽、ミケル・エチャリはそう言ってアジアカップ準々決勝、日本がイランに1−2と敗れたゲームを振り返っている。ラウンド16のバーレーン戦後に、エチャリはこう指摘していた。

「チームとして前線とバックラインが間延びする様子が見られる。積極的なプレッシングによって相手ボールにふたをし、あわよくば奪い取るというのは決して悪い試みではない。しかし、プレッシングがチームとして連動しきれていないことで、ライン間に比較的、大きなスペースを生み出してしまっている。力のある相手だったら、"策源地"(相手が起点とする場所)になっていたはずだ」

 1990年代、エイバルの監督時代に、エチャリは守備戦術の大家として注目を浴びているが、そのスペシャリストから見て、「守りの破綻」は予想できるものだったという。

「前半40分すぎから、日本はずっと劣勢だった。後半は力の差を見せつけられていた。決勝点はアディショナルタイムだったが、これだけ決定機を作られてしまっては、飲み込まれるのは時間の問題だったと言える」

 そう語るエチャリは、惨敗を克明に分析している。


遠藤航、守田英正による中盤は数的不利に陥っていた photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

「日本は4−1−4−1の布陣でイランに挑んでいる。後ろからのビルドアップを試みていたようだが、うまくいっていない。人の配置が悪いことで、ボールを失ったり、押し戻されたり、手詰まり感があった。

 28分には、守田英正がやや強引に先制ゴールを決めてリードしたが、戦いの形勢はむしろ悪くなる。

 イランは、戦術的にピッチをワイドに使ってきた。サイドにアリレザ・ジャハンバフシュ、モハマド・モヘビという強度の高い選手を置くことで、アドバンテージを作った。そうすることで日本の守備スペースを広げさせ、中盤で数的有利を作っていた。トップ下のサマン・ゴッドスは神出鬼没で、トップのサルダル・アズムンは日本のセンターバックを苦しめていた。

【ディフェンスを再編成する必要があった】

 何より、日本の選手たちのプレーは迷いを感じさせた。何をすべきなのか、共通の意識が見えない。守田や遠藤航は数的不利を感じていたはずで、イランのパワー攻撃にエネルギーがどんどん削り取られていくようだった。

 この状況だったら、日本は一度、守りのブロックを作って戦う選択をすべきだったかもしれない。『いい守りがいい攻めを作る』の原点に返って、リトリート戦術からカウンターを狙い、戦いのリズムを取り戻したかった。なぜなら、すでにこれまでの試合で指摘していたように、今大会の日本は各所で守りの不安定さが目についていたからだ。

 そして後半になって、日本はさらに追い込まれる」

 エチャリはそう言って、逆転される展開が必然だったことを厳しく指摘している。

「後半に入って、日本はなかなか自陣からボールを持ち出せなくなっていた。そして後半10分、GK鈴木彩艶のキックが呆気なく自陣でカットされてしまう。ショートカウンターから鋭いパスがアズムンに入って、冨安健洋はターンを許す。そして板倉滉が背後へのスルーパスをモヘビに破られてしまい、同点弾を打ち込まれた。

 板倉は、早い時間帯でイエローカードをもらっていた。これで後手に回っていたのか、この前後にもアズムンに容易に背後を取られるなど、何か変調があったように映った。それも含め、繰り返すがディフェンスを再編成する必要があったのだ。

 同点に追いつかれた後、日本はまったく攻めに転じることができていない。イランの選手の力強さ、空中戦の強さ、キック力などパワープレーの質の高さばかりが目立って、最後の15分は攻められっぱなしだった。何度もセットプレーを与えて、複数の決定機を作られていた。

 後半アディショナルタイム、日本はクロスに対応できず、ヘディングで折り返されたところ、板倉がクリアできず、咄嗟のタックルがPKの判定になった。これをジャハンバフシュに強烈な一撃で叩き込まれている。万事休す、だった」

 エチャリはそう言って、準々決勝敗退に終わったアジアカップ、イラン戦を総括している。

「イランは日本を上回っていた。うまくスペースを使っていたし、個人も強かった。戦術的にワイドな展開に引きずり込むことによって、日本の攻守に破綻を引き起こしていた。

 日本はいったん、守りを固めるべきだった。しかし、選手同士の距離感などが悪いなかでボールを運ぼうとしたことで、カウンターやロングボール攻撃を食らいながら、徐々に追い込まれた。特に後半は圧倒されており、ベンチは何か手を打つべきだったが......。

 この大会を戦ったことが、チームの成長につながることを信じたい。日本の次の試合を楽しみにしている」