サッカー日本代表のアジアカップ準々決勝のイラン戦敗退は、これまでの森保一監督のやり方を見れば、言わば必然の結果だったと言える。試合の詳細を分析すれば、今後も同じことが起こり得ると覚悟するしかないだろう。

【懸念されていた根本的な問題点があぶり出された】

 アジアカップ優勝を目標とする日本にとって、準々決勝で対戦するイランは決勝にたどり着く前に立ちはだかる最大の難所だった。それを乗り越えられれば優勝トロフィーが視界に入るところだったが、しかし現実はそう甘くはなかった。


森保一監督は一貫したスタイルだが、それを考えるとイラン戦敗退は必然だった photo by Sano Miki

 試合を振り返れば、これまで懸念されていた現チームの根本的な問題点があぶり出された格好で、そういう意味でも今回の敗北は偶然ではなく、必然だった。

 では、一体どこに敗因が潜んでいたのか。今後の日本代表の強化を考えるためにも、改めてこの試合のピッチ上で起きていた現象を客観的に検証する必要があるだろう。

 この試合の勝敗を分けた最大のキーポイントは、イランのアミール・ガレノイー監督の采配による守備方法の変化にあった。

 エースの9番(メフディ・タレミ)を出場停止で欠くイランは、1トップの20番(サルダル・アズムン)の後方に本来ボランチの14番(サマン・ゴドス)を配置。布陣は、従来どおりの4−2−3−1を採用した。

 そのなかで、前半と1点ビハインドを背負った後半では、微妙に守備方法を変化させ、結果的に日本はそれに対応できないまま、試合終了間際に逆転を許すこととなった。

 前半のイランは、無理してハイプレスをかけず、基本的には14番が1列前に出て20番と2トップを形成し、ミドルゾーンで4−4−2のブロックを敷いた。

 特徴的なのは、最終ラインの4人がしっかりと幅をとって守っていたこと。サイドバック(SB)とサイドMFのふたりがサイドエリアで数的優位を作って日本のサイド攻撃を封じようとした。しかしその分、中央にはスペースが生まれるため、立ち上がりからボールを握ったのは日本だった。

【リズムを徐々に失っていった前半】

 ただ、イランにとっては日本にボールを握られるのは想定の範囲内。イラクやバーレーンのように、躊躇なく前線にロングボールを供給することで日本が得意なプレスを回避すると、中央エリアのスペースにボールが入ったところで回収を試みて、カウンターに転じやすい戦況に持ち込もうとした。

 この試合におけるイランのロングパスは、314本中65本で全体の20.7%を占めた。グループリーグのUAE戦(○2−1)のロングパスが563本中43本(7.6%)だったことを考えると、その作戦は明らかに意図的だったと見ていい。退場者を出して延長PKにもつれこんだラウンド16のシリア戦でさえも、724本中91本(12.5%)だった。

 とはいえ、日本にとっては、バーレーン戦でロングボール対策は経験済みだ。しかし、前線のターゲットマンにロングボールを入れて起点を作ろうとしたイラクやバーレーンと違い、イランはロストしてもカウンターを受けるリスクの少ないウイングや、DFラインの背後へボールを供給。日本のDFラインを下げさせることが、主な目的だったのだろう。

 同時に、日本のビルドアップ封じも実行した。その際、1トップ下の14番が遠藤航、左ウイングの21番(モハマド・モヘビ)が毎熊晟矢、右の7番(アリレザ・ジャハンバフシュ)が伊藤洋輝へのパスコースを遮断する役割を担い、最前線の20番は冨安健洋に圧力をかけて得意のパス供給を塞ぐための立ち位置をとった。

 そうなると、ビルドアップ時に浮いてくるのが右センターバック(CB)の板倉滉になる。実際、前半の板倉は先制するまでに日本が記録した前線へのくさびの縦パス3本をすべて供給。敵陣にボールを持ち運ぶシーンも目立ち、7分にはフリーで敵陣にボールを持ち運んでこの試合のファーストシュートを記録している。

 結局、左サイドから中央の上田綺世にくさびを入れた守田英正が、ワンツーリターンからのドリブル突破で先制ゴールを決めた日本は、前半のボール支配率で58.8%を記録。ただし、立ち上がり5分が72.1%、15分が66.9%だったため、次第にイランがボールを握れる状況に変化し始めていたことは確かだった。

 リードはしていてもリズムは失いつつある。そんな前半の終わり方だった。

【後半、ビルアップからの前進ルートを完全に失う】

 試合の流れが大きく変わったのは、ハーフタイム後だ。両チームとも選手交代なしで迎えた後半に入ると、1点のビハインドを背負ったイランは守備方法を変え、とりわけ日本のビルドアップ時は日本のCBコンビに圧力をかけるように変化させた。

 ポイントは、前半は浮かせていた板倉にも14番がプレスをかけるようになったこと。代わってボランチの8番(オミド・エブラヒミ)が遠藤、6番(サイード・エザトラヒ)も守田へのパスコース封じ、前半同様、21番と7番は日本の両SBを封じにかかった。

 これにより、数的同数で最終ラインに圧力をかけられた後半の日本は、ボールを前線に蹴る以外、思うように前進できない状況が続いた。たとえば、前半の板倉からボランチ遠藤へのパスは4本、GK鈴木彩艶へのパスは2本だったが、これが後半になると、板倉から遠藤へは2本に半減し、GK鈴木へのパスは11本に急増。

 この数字だけでも、いかに板倉が自陣深いエリアでボールを保持した時にパスコースを見つけられず、後ろにボールを下げざるを得ない状況に陥っていたのかがわかる。55分に生まれたイランの同点ゴールも、板倉がバックパスしたボールをGK鈴木がロングキック。それをイランに回収されたところからの速攻で、最後は板倉が21番に背中をとられて失点を喫している。

 いずれにしても、ビルドアップからの前進ルートを完全に失った日本は、ロングボールを蹴ることで何とかDFラインを上げようとした。すると、待ってましたと言わんばかりにイランが狙い始めたのが、日本のDFラインの背後、特にCBの後方に生まれるスペースにロングボールを入れ、1トップの20番がそれを受けるかたちの攻撃だった。

 50分のオフサイドになった20番のシュートシーンがその伏線で、1失点後の63分には再び20番がDFラインの背後でボールを受けると、板倉と毎熊をかわしてフィニッシュ。逆転弾に見えたそのシーンはオフサイドの判定となったが、後半のイランはシンプルながらも効果的な攻撃で次々とゴールチャンスを生み出した。

 前半7本(枠内1本)だったシュートも後半は10本(枠内3本)に増え、最終的にイランのシュート数は計17本を記録。一方の日本は、前半4本(枠内1本)、後半4本(枠内1本)の計8本に終わっている。自陣深いエリアでのパス交換が増えたため、最終的なボール支配率は58.1%と、前半に比べて0.7%しか低下しなかったが、ボール支配率で上回る試合では苦戦するという森保ジャパンの傾向に変化はなかった。

【板倉滉はこの試合の犠牲者】

 日本にとって最大の敗因は、イランの守備変更によって戦況が大きく相手に傾き、戦術が機能不全に陥っているにもかかわらず、何の修正も加えられなかった森保一監督のベンチワークだった。少なくとも、数的同数になってビルドアップに苦しんでいるのだから、CBを3枚にするだけでも相手は一度リセットせざるを得なくなるはず。しかも、この試合の左SBには3バックの左を得意とする伊藤がいたのだから、交代カードを切らずともそれは可能だった。

 しかし森保監督は、ハーフタイムを除き、基本的に試合途中の戦術変更はしない。試合中に起きた不測の事態に対しては、選手の工夫や頑張りを信じて見守り続ける。それはカタールW杯前も含めて一貫したスタイルなので、そこに驚きはない。だが、それを考えればやはり今回の敗北は必然であり、今後も同じことが起こり得ると覚悟するしかないだろう。

 そういう意味では、コンディション的な問題もあっただろうが、この試合の戦犯扱いを受けた板倉は犠牲者とも言える。前半と後半で戦況が大きく変わるなか、戦術的劣勢のしわ寄せはCB板倉に及んでしまった。個人の力だけでは、どうしようもない部分があった。

 結局、森保監督の指導スタイルを無条件で支持するJFA(日本サッカー協会)が変わらなければ、日本代表も変わらない。しかしながら、4年前のアジアカップ決勝と同じ轍を踏んだにもかかわらず、今回の敗退劇を受けても何かが変わる気配はまったくない。

 それが、満身創痍のイランに完敗した森保ジャパンの現在地である。