堂安律「後半はホントに情けないゲーム」 イラン戦、攻撃は「打開策がまったく見えなかった」守備は「ズルズル下がってしまって...」
それは、責任感の表われだったのかもしれない。
試合に出場した選手では誰よりも早く、堂安律はミックスゾーンに姿を見せた。待ち構える記者の前に立つと、厳しい表情で口を開く。
「前回のアジアカップから2021年の東京オリンピック、2022年のワールドカップ、今回のアジアカップと、代表で何ひとつ成し遂げきれていない自分の不甲斐なさを、今、感じています」
試合後、ひとりベンチに座って考え込む堂安律 photo by Sano Miki
昨年6月からは、背番号10を託されている。今大会でもエースナンバーを背負った。カタールワールドカップ後の立場の変化に伴って、チームの勝利に対する責任感はこれまで以上に大きくなっていると言っていい。
グループステージ第1戦と第2戦は途中出場だったが、インドネシアとの第3戦でスタメンに選ばれると、世代別代表からともにプレーする久保建英、自在に立ち位置を取るサイドバックの毎熊晟矢とのトライアングルで、右サイドから攻撃を活性化する。毎熊が代表デビューを飾った昨年9月から好印象を植えつけている3人のコンビネーションは、日本のストロングポイントとなっていった。
堂安自身はラウンド16のバーレーン戦で、大会初ゴールをマークした。デュエルに激しく挑み、プレスバックにも献身的な姿勢はチームを勢いに乗せ、8強入りの立役者となった。
FIFAランキングの大陸上位2チームの激突となった準々決勝のイラン戦でも、堂安は先発に名を連ねた。日本は28分に守田英正のゴールで先制すると、1-0でハーフタイムを迎えた。ところが、後半は次第にペースを握られていく。
「前半は間違いなく自分たちのペースでやれていたと思うんですけど、後半は相手のパワーに完全に支配されていた。ほとんどの選手がヨーロッパでやっていて、あのパワーに慣れているはずなのに、跳ね返せない。
それが何からくるのかはわからないですけど、特に崩される感じはないけど押し込まれているということで、たぶん観ていた人はやられそうだなっていう雰囲気はあったと思う。やっている自分たちもそれは感じていたなかで、ピッチのなかで声をかけきれなかった」
【堂安も守備に追われ、敵陣へ出ていけなくなった】イランのパワーを真正面から受けた後半の日本は、負の連鎖に陥っていく。自分たちのよさを発揮することができず、相手のペースに引きずり込まれてしまった。
「前半が終わって、自分たちがボールを持っているはずなのに、相手にペースを握られている感があって。前につなげられるのにボールを下げて、相手に押し込まれてロングボールを蹴ることになって。高さではもちろん相手のほうが有利なのに、それもわかっているはずなのに、蹴っちゃってセカンドボールを拾われる。
セカンドボールも集中しようというなかで、ほとんど奪われて。みんなが理解しているはずなのにやられたというのは、さっきも言ったように何からきているのかはわからないですけど、負けに値したゲームだと思います」
日本が"らしさ"を欠いたのは、ボールの動かし方だけではない。守備も決まらなかった。55分に同点に持ち込まれると、そこからは自陣での攻防が続く。
堂安も守備に追われた。敵陣へ出ていけなくなっていった。
「前半はおそらくみんな身体が動いていたなかで、セカンドボールも球際もいっていました。後半ですね、やっぱり。ズルズル、ズルズル、下がってしまって、失点の仕方がちょっと悪くて、メンタル的にもダメージがきたのかなと。
ふだんなら動けるはずが脳からダメージがきて、ちょっとずつ身体が動かなくなって、攻撃もボールを持った時に打開策がまったく見えなかった。後半はホントに情けないゲームをしてしまった」
マイボールにしても敵陣まで運ぶことができず、ルーズボールはことごとくイランに支配される。ボールの失い方がよくないので、相手のペースから抜け出せない。堂安は前2試合と同じようにデュエルで奮闘したが、試合の流れに影響を及ぼすことはできなかった。
「プレスもあまりハマっていなかったというのがあって、相手が3枚で動かしてくるなかで、こっちは2トップで追いかけるので、ひとりがフリーになってロングボールを蹴られる。フリーで蹴られると相手はやっぱり強いので、蹴らさないようにハーフタイムに修正したつもりですけど、なかなかうまくいかなかったです」
【背番号10を背負う者の使命・責任・プライド】グループステージのイラク戦で、シンプルだが圧力のある攻撃を経験していた。ラウンド16のバーレーン戦でも、長身FWを生かすわかりやすいサッカーに対峙した。イラク戦とバーレーン戦を参考にすることで、縦パスやロングスローを活用するイランの攻めに対応できたはずだ。相手のフィジカルにしても、未知のレベルではない。
堂安は、小さくうなきながら答える。
「相手のレベルが上がっているのは間違いないですけど、自分たちはこれくらいのレベルの相手とふだんからやっているはずなので、それは理由にならない。相手が自分たちより高さがあるのを利用して、完全に押しきられてしまったけど、そこは何か打開策があったと思います。自分のアクションで流れを変えられたらなと思いましたけど、それができなかったです」
背番号で戦うわけではないと言っても、この男の背中にはたくさんの思いが込められる。チームの戦いを客観的に振り返りながら、最終的に自身へ鋭い矢印を向けたのは、背番号10を背負う者としての使命と、責任と、プライドが、胸のなかで立ち上がっていたからだろう。
堂安の頭のなかでは、いくつも思考が走り、混乱しているに違いない。
はっきりしているのは、立ち止まっている時間はない、ということである。チームをレベルアップさせていくために、進化を止めてはいけないのだ。
またしてもアジアの頂点を逃した悔しさを、心のなかで燃やし続けて──。