Vol.135-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはNetflixで記録的なヒットとなっている実写ドラマ版「幽☆遊☆白書」。コミックの実写化が相次いで成功している要因を探る。

 

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幽☆遊☆白書

↑週刊少年ジャンプでの連載作品を実写化し大ヒット。原作は冨樫義博。子どもを助けるため交通事故に遭い命を落とした不良少年の浦飯幽助は、“霊界探偵”という役目を与えられ、人間界で妖怪が関わる事件の解決に挑む

© Y.T.90-94

 

原作の要素を吟味してファンが納得する作品に

2023年12月14日、Netflixで公開された実写ドラマ版「幽☆遊☆白書」が大きな記録を打ち立てた。

 

公開週の視聴時間が、全世界のNetflix作品でトップとなったのだ。正確に言えば「非英語のドラマ作品でトップ」ではあるのだが、英語を含む全ドラマ中でも2位だったという。そして、非英語・ドラマ部門では公開2週目(12月24日までの集計)でも1位。2週連続世界1位も、日本発のドラマとしては初めてのことだ。

 

人気コミックからの“アニメ化”には多数のヒット作がある。だがドラマの場合、ヒット作は少ない。日常が舞台である恋愛作品などでは成功例もあるが、アクションが中心となる作品だとなかなか厳しいものが多い、という印象が強いのではないだろうか?

 

しかしNetflixはこのところ、立て続けに“コミックの実写ドラマ化”で成功している。2023年夏には実写ドラマ版「ONE PIECE」が公開になり、こちらも世界的なヒットになった。「幽☆遊☆白書」もそれに続きヒットしたのは、注目に値する現象と言えるだろう。

 

なぜヒットさせることができたのか?

 

理由は複数あるが、大きな要素として“ファンを納得させられるよう、原作の要素をしっかりと吟味してから制作する体制を採っている”点が大きい。

 

実写ドラマ版「幽☆遊☆白書」の場合、制作開始は5年前。まず行なったのは「ストーリーバイブル」と呼ばれる文書の作成だという。これは、キャラクターの性格や動機、ストーリーや世界観にとって重要な要素をまとめたものだ。Netflix側の説明によれば、シナリオ制作はもちろん、撮影やビジュアルエフェクト、小道具に至るまで、“検討が必要な要素があれば必ず参考にする”ものだという。

 

これを、監督やプロデューサーはもちろん、原作サイドの関係者も入ったうえで時間をかけて作っているそうだ。

 

金銭的な余裕とは制作への十分な検討時間

重要なのはこうした文書を作ることそのものではない。“原作の要素を最大限に生かしつつ、それでもいまの実写ドラマらしい作品にするにはなにが重要か”という点を、制作開始時から時間をかけて練り上げる体制こそが、作品のクオリティを高めるために重要……ということなのだろう。

 

Netflixは世界的なプラットフォームなので、“そのぶん予算が大きいのでは”という話が必ず出てくる。実際、かかっている予算は確かに大きいとは聞いていて、プラス要因なのは間違いない。

 

だがそれ以上に、金銭的な余裕とは、“制作に十分な時間をかけて検討できる”ことにつながる。「ONE PIECE」の場合には、原作の尾田栄一郎氏の意見がかなり反映されたとのことだが、それも、重要な部分の検討に時間をかけていく体制だからできていることなのだ。

 

もちろん、体制の構築だけで良いドラマができるわけではない。VFXなどの技術でも重要な点がある。そして「世界ヒット」の形も、より多様な市場を反映したものに変わった。それがどういうことかは次回以降解説していく。

 

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