■単身世帯のメインはもはや「若者」ではない

誰もがやがて一人になる。

結婚して子どももいる人とて、決して例外ではありません。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ozgurcankaya

日本の単身世帯数は、2020年の国勢調査にて、はじめて2000万世帯を超えて、全世帯に占める割合もほぼ4割に近い38%にまでなりました。1985年から比較すれば、約2.7倍増です。

単身世帯というと、若者の一人暮らしを想像しがちですが、もはや実態は大きく変わっています。実数では、39歳までの若者の単身世帯よりも65歳以上の高齢単身世帯のほうがすでに上回っています。それも当然で、長引く少子化で若者の絶対数はどんどん減っているからです。

同時に、今後、高齢単身世帯はますます増えていくのですが、それは、生涯未婚の高齢者が増えるというだけではなく、結婚した場合でも最終的には、子の独立や配偶者との離別死別によって単身世帯に戻るからです。

■半分近くが高齢の独り身で占められている

日本が世界一の超高齢国家であることはご存じのことと思いますが、総人口に占める高齢化率(65歳以上人口比率)は、2023年時点で29.1%と過去最高を記録しています。全体の高齢人口比率が高まるにつれ、皆婚だったこの世代の夫婦の一方が亡くなることで高齢単身世帯が形成されていきます。

増え続ける単身世帯率と同時に、単身世帯の中の高齢化率もあがります。全国では2020年ですでに単身世帯内高齢化率は32%ですが、地方になると50%近くに及びます。単身世帯のうちの半分近くがもはや高齢者なのです。

地方だけに限らず、今は低い数値の大都市にも必ずやがて訪れる未来となります。なぜなら、これから1970年代初頭の第2次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代が高齢者となるからです。

このように、結婚した人もやがては高齢化とともに夫婦のどちらかが一人になるということは忘れがちなポイントです。

さて、一人になった時にあなたはどう生きていくでしょうか?

■この時代、「妻に看取られて死ぬ」とは限らない

実は、この「一人で生きる未来」に対する覚悟が足りないのは男性のほうです。一般的に平均寿命は男性より女性のほうが長く、夫婦間の年の差も夫年上婚が多かったので、たいていの夫は妻に看取られて亡くなるパターンを想定しているからでしょう。

しかし、今後もその傾向が続く保証はありません。夫が定年退職した後の熟年離婚数も増えていますし、死別によらない単身化もあり得ます。高齢者となった時の「一人暮らし」は決して未婚者だけの問題ではなく、誰にも訪れる可能性があります。

高齢者の一人暮らしというと、よく「孤立死」の話題になりがちですが、重要なのは「どう死ぬか」よりも「一人になった時どう生きるか」でしょう。

一般的に、男性のほうが孤独に強いと思われていますが、実は真逆で、孤独耐性は女性のほうが高いのです。高齢者に対する幸福度調査でも、男性の一人暮らしに比べて、女性のほうが高くなります。また、男性は妻と離婚や死別をすると自殺率が高まるという相関がありますが、女性はまったく無相関です。こう見ると「一人で生きる力」が足りないのは男性のほうだと思わざるを得ません。

■話し相手もおらず、毎日がヒマな高齢男性たち

少し古いですが、内閣府が平成26年度に65歳以上の一人暮らしだけに限定して実施した「一人暮らし高齢者に関する意識調査結果」から、高齢一人暮らしの男女の違いについて浮き彫りにしていきましょう。

前述した通り、幸福度は女性のほうが男性より10ポイントも高いのですが、男性高齢一人暮らしの幸福度が低いのは、「毎日に満足していない」「毎日が退屈」という項目が高いという点があります。「経済的な心配がある」も男性のほうが若干高いですが、むしろ男性の不幸度を高めているのは、そこではなく、「他者とのつながり」の部分です。

「相談相手がいない」割合は、女性は11.4%に対し、男性が27.8%、「楽しみを共有できる相手がいない」割合は、女性11.4%に対し、男性は34.4%で3倍の差があります。

このデータを見ると、「高齢一人暮らし男性は友達がいないのだな」と思うかもしれません。

しかし、だからといって、よくある高齢者向けのセミナーにあるような「友達を作りましょう」と言ったところであまり意味はありません。もちろん友達を増やせるならばそれにこしたことはありませんが、それができるくらいならとっくにやっていることでしょう。

■仕事上の人間関係しかない人は定年後が危うい

実は、大事なのは「友達の数」ではなく「会話の数」です。

それでも、会社に所属しているうちは、本人のコミュ力にかかわらず、ポジションを与えられて、その中で「あるべき役割」を果たすことで一定量の会話が保たれていたでしょう。受け身でもその立場にいるだけで、本人の意思とは関係なく、「会話の数」は保証されていました。

しかし、定年退職して会社をやめた途端、まったく誰とも会話をしない状態になります。当然、かつて話を聞いてくれた部下はいません。仕事上で知り合った相手も、所詮仕事があるから付き合ってくれたわけで、何の見返りもなく飲みに誘ったりしてくれません。ビジネス上で作られた人間関係は、ビジネスが終わった途端に消滅してしまうものです。

写真=iStock.com/hirohito takada
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それでも、まだ配偶者がいれば会話もできますが、一人暮らしだとそうもいきません。夜、眠る前に「ああ、今日は一言も声を出さなかったな」と思った人もいるでしょう。

会話がないことは、地味に精神的なストレスになります。人間は社会的な動物です。他者との会話などを通じて、意志を伝達しあうことがひとつの生きる糧となっています。一説によれば、「他人に自分の話を聞いてもらうことは性行為と同等の快感がある」と言われます。会社の上司が部下を飲みに連れ出して説教したがるのも、おじさん方がキャバクラやスナックに行って延々と武勇伝を語りたがるのもその表れだと思います。

■果てはお客様相談室に迷惑電話をするクレーマーに

話を聞いてくれる相手があまりにいなさすぎると、最後の手段として企業のお客様相談室にクレームの電話をかけるようになります。お客様相談室には、クレームのフリをしながら、単に話し相手が欲しかったのだなと思う電話も多いと聞きます。

このようにして、高齢一人暮らしの男性は、日常的に「会話をしない率」が高めになります。女性の場合は31.2%ですが、男性は41.5%もあります。結局、鶏か卵かの話になりますが、相談相手もいないし、一緒に楽しみを分かち合う相手もいないから、会話の数も自動的になくなり、それが「毎日が退屈・不満」という感情になって表れるのでしょう。

高齢一人暮らしの楽しみについて、男女差を見るとそれが顕著です。女性は、「友人とのおしゃべり」や「食事や飲み会」など他者との会話を楽しいと感じて生きています。「旅行」や「買い物」も誰かと一緒に行くのでしょう。こうした日常的な「他者とのつながり」の差が、高齢一人暮らし男女の幸福格差を作っています。

■友達を作れなければ、「会話する場所」を作ればいい

繰り返しますが、だからといって無理やり一緒に時間を過ごす友達を作ろうと思ったり、趣味のサークルに入ったりしてもあまり意味はありません。

しかし、「友達の数」を増やすより「会話の数」を増やすことのほうが数倍簡単です。

前掲したグラフにある通り、高齢一人暮らし男性は女性よりも「仕事が楽しい」と感じる割合が高くなっています。仕事の内容自体が楽しい人もいるでしょうが、大部分は「仕事に行けば、そこで誰かしらと会話ができるから」です。

高齢の一人暮らし男性は、定年退職後も、何らかの形で別の仕事を見つけるなどで「仕事場に行く私」という環境を作ったほうがいいでしょう。現役時代と同じ仕事や待遇を求めてはいけません。あくまで、老後の人生を豊かにするための環境として、自分自身を仕事場へと運ぶのです。週5日働く必要はなく、2〜3日でも十分です。

■友達のいない高齢男性はどう生きるか

仕事の環境に身をおけば、自分が努力しなくても必要な会話が発生します。「コミュ力がないから」と思っていても、案外仕事だと思えばコミュ力を発揮できるものです。少なくとも、そうして何十年間、仕事をしてきたわけですから。

「定年退職後も仕事を続けるのか……」などと思わないことです。仕事は単なる手段で、目的は会話です。会話は、生きていくための日々の食事と同様に重要な「心のサプリ」となります。「会話を作ることがお仕事」だと思って取り組むくらいでいいのです。

別に友達を作ることは必須ではない。仕事上の会話以外でも、いつも行くコンビニの店員さんとの挨拶でも、街中の居酒屋でたまたま隣り合った見知らぬ人相手でもいい。誰もあなたのことなんか知りません。知らないからこそ、変に取り繕ったり、見栄を張ったりする必要もなくなります。刹那の会話でも楽しめるようになれば、一人暮らしの楽しさの扉を少しだけ開けることになるでしょう。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)