水素で実現する「10年経っても陳腐化しないマンション」。HARUMI FLAGの世界初の事例を見てきた
東京オリンピックの選手村を改装して作られた新たな街・HARUMI FLAG。多数のマンションが立ち並び、小中学校や商業施設も建設されているこの街では、水素を活用した世界初の試みが形になろうとしています。1kmにおよぶ水素のパイプラインや、マンションに併設された燃料電池、その排熱を活用して実現した「足湯ラウンジ」などを取材しました。
「10年経っても陳腐化しないマンション」を作るための水素エネルギー
HARUMI FLAGでは、開発の初期段階から、水素の活用をコンセプトにしていました。住居の開発を担当した三井不動産によると「10年以上経っても陳腐化しないマンションにするために、新しいエネルギーを使った街にしよう」という考えがあったそうです。
水素活用の中心となるのが、水素ステーションです。ここから約1kmのパイプラインを通して、マンションに設置された燃料電池に水素が供給され、発電が行われます。さらに、街中を走る燃料電池バスに水素を供給する役割も、この水素ステーションは担っています。
ただし、水素ステーションが一度に供給できる水素の量には限りがあります。たとえば朝夕の通勤通学ラッシュの時間帯は燃料電池バスが多く運行されるため、その合間である昼ごろには、多数のバスがステーションに水素を補給しに来ます。その間は燃料電池への水素供給が滞りますが、同時にマンション屋上などに設置された太陽光発電が稼働しています。一方で、太陽光発電ができない夜間には、燃料電池が発電を行います。燃料電池と太陽光発電が、両者の欠点を補うことで、1日中、環境にやさしい電力を生み出す仕組みが整っているのです。
マンションの脇で発電を行う燃料電池には、パナソニック製のものが使われています。燃料電池の数は、HARUMI FLAGの全街区で24台。1台で5kWの電気を生み出すので、発電量の合計は120kWになります。パナソニック製の燃料電池は小型・低出力なのが特徴で、マンション脇の小さなスペースで発電をするのには、適していたといいます。
燃料電池が生み出した電力は、マンション共用部の照明などに利用されます。水素の供給にかかる費用は、マンションの管理費にふくまれています。
燃料電池の耐用年数は10年。10年ごとにメンテナンスを行い、まだ使えると判断された場合は一部の部品を交換し、さらに10年間、継続して使用します。それでも設置から20年経った製品は、安全性の観点から全て置き換えとなるそうです。
燃料電池の排熱を活用して、共用の「足湯ラウンジ」を開設
燃料電池の特徴として、排熱が出ることが挙げられます。HARUMI FLAGでは、この熱で水を温め、足湯やペット向けの洗い場の温水に活用しています。燃料電池の排熱を活用した「足湯ラウンジ」があるマンションは1棟だけですが、この棟がある街区に住む住民なら誰でも使えるそうです。
なお、HARUMI FLAGのマンションの各戸には、家庭用燃料電池であるエネファームが設置されています。その数は、街全体でなんと4145台。エネファームでの発電に使う水素は、ステーションではなく都市ガスから供給していますが、HARUMI FLAGの街の中心に、水素活用があることがよくわかる数字です。
水素活用の事例として、“2つの世界初”を実現
街レベルで水素のパイプラインを敷いている点、マンションのすぐそばに大規模な燃料電池を設置して発電している点は、世界的に見ても、HARUMI FLAGが初の事例だといいます。脱炭素が叫ばれるなか、HARUMI FLAGの水素活用の事例は、日本全国あるいは世界全体における、嚆矢になりうるものといえるでしょう。