パの韋駄天に立ちはだかる壁 2年連続は至難の業…挑む“盗塁王のジンクス”
2012年以降、パで2年連続盗塁王は2017、2018年の西川遥輝だけ
楽天の小深田大翔内野手、ソフトバンクの周東佑京内野手は、ともに36盗塁で2023年の盗塁王に輝いた。2024年は2年連続盗塁王がかかるが、近年のパ・リーグで連続受賞は難しいものとなっている。今回は近年のパ盗塁王が、翌年に残した成績などを紹介する。
2012年から2022年の11シーズンで、2年連続盗塁王は2017、2018年の西川遥輝外野手(当時日本ハム、現ヤクルト)のみ。前年を上回る盗塁数を記録したのも、2018年の西川だけだった。
この11年間で延べ15人の盗塁王が誕生したが、そのうち10人はタイトルの翌年に盗塁数を半数以下に減少させている。西川や金子侑司外野手(西武)のように再び数字を向上させた選手もいるが、タイトルの翌シーズンに苦しむケースが多いといえよう。
2021年は1シーズンで盗塁王が4人誕生する事態となったが、2022年はいずれも20盗塁を下回った。2022年にタイトルを獲得したロッテ・高部瑛斗外野手も2023年は故障の影響で1軍出場なしだった。
小深田は盗塁成功率が飛躍的に向上、周東はWBCでも真価を発揮
小深田は大阪ガスから2019年ドラフト1位で楽天に入団。1年目の2020年にレギュラーをつかみ、規定打席に到達して打率.288、出塁率.364を記録した。平良海馬投手(西武)と新人王争いを繰り広げ、プロ1年目から鮮烈なインパクトを残した。2021年は打率.241、出塁率.328だったが、2022年は打率.267と復調。前年は5個だった盗塁数も21と大きく増加させた。
2023年は二塁、三塁、外野をこなすユーティリティ性を発揮し、4年連続で規定打席に到達した。2022年終了時点で通算の盗塁成功率は.672だったが、2023年の盗塁成功率は.857と飛躍的に向上。自身初タイトルとなる盗塁王を手にした。
周東は2017年育成ドラフト2位でソフトバンクに入団。2019年の開幕直前に支配下の座を勝ち取り、代走を中心に25盗塁を記録した。2020年は二塁の定位置を掴んで打率.270をマークし、全120試合の短縮シーズンながら50盗塁の大台に到達。自身初の盗塁王にも輝いた。
2021年は打率.201と苦しんだが、2022年は打率.267と復調。2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、メキシコとの準決勝で代走として俊足を発揮し、逆転サヨナラのホームを踏んで脚光を浴びた。シーズンでは8月終了時点で打率.172と苦しんだが、9月に月間打率.360と調子を上げ、最終的に打率は.241まで上昇。走攻守の全てで存在感を発揮し、3年ぶり2度目の盗塁王にも返り咲いている。
「世界の盗塁王」福本豊は1970年から13年連続タイトルを獲得
小深田は1年目の打率.288、出塁率.364がキャリアハイとなっている。同年は長打力を示す「ISO」が.093、打席での忍耐力を示す「BB/K」が.712と、打撃内容の面でも最も優れた数字を記録していた。また、2020年はBABIPが.333と、キャリア平均の.308という数字を大きく上回っていた。BABIPは本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を示す数値で、一般的に運に左右されやすいことに加え、長いスパンで見れば一定の値に収束しやすい特性を持っているとされる。
俊足の左打者である小深田は内野安打が期待しやすい特性を持ち、キャリア平均のBABIPも.308と、一般的な基準値とされる.300を上回っている。また、2022年のBABIPはちキャリア平均と同水準だった一方で、2023年のBABIPはキャリア平均を下回る.303だった。2023年の打率低下は、この数字に起因する部分もあると考えられる。ISO、BB/Kといった各種の指標は2022年と2023年で大きな変化がなく、選球眼を示す「IsoD」は前年よりも向上している。2023年は打率こそ悪化したものの、打席内容自体は前年と同様、もしくはさらなる成長を見せていたことになる。2024年にBABIPが上向きさえすれば、打撃成績の向上が期待できるはずだ。
周東は球界屈指の韋駄天として知られ、通算BABIPも.312と小深田以上に高い水準にある。2022年のBABIPがキャリア平均とほぼ同水準であり、2023年のBABIPが.306でキャリア平均を下回った点も、小深田と共通している。2023年は打率が低下した一方でIsoDは.010上昇しており、選球眼に関してはキャリア最高の数値を記録している。BABIPがキャリア平均以上の水準に回帰すれば、例年以上に塁に出る機会が増える可能性も高いといえる。
プロ野球界には「2年目のジンクス」という言葉が存在する。前年の疲労や対戦相手の研究などによって成績を落とす選手は少なくないが、とりわけパ・リーグ盗塁王はその翌年に苦しいシーズンを送っている。
パ・リーグの歴史を振り返ってみると、「世界の盗塁王」福本豊氏が1970年から1982年まで13年連続盗塁王。2000年代に入ってからも西岡剛氏、片岡治大氏、本多雄一氏が連続盗塁王に輝いている。2人の韋駄天が近年の盗塁王にまつわるジンクスを払拭し、新たな流れを作ってくれることに期待したい。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)