一昨年の3歳春のクラシック、GI皐月賞(中山・芝2000m)とGI日本ダービー(東京・芝2400m)は、ともに2歳時に重賞を勝っていた馬が制覇。一転、昨年はいずれのレースも3歳になってから頭角を現した馬が栄冠を手にした。

 はたして、今年はどうか?

 2歳GI戦を前にして牡馬戦線は「大混戦」とされていたが、GI朝日杯フューチュリティS(12月17日/阪神・芝1600m)は1番人気のジャンタルマンタル(牡3歳/父パレスマリス)が快勝した。しかしながら、皐月賞と同じ舞台で行なわれたGIホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)では、牝馬のレガレイラ(牝3歳)が戴冠。明け3歳の牡馬戦線は再び、混とんとした状態に陥っている。


朝日杯FSを快勝したジャンタルマンタル。photo by Kyodo News

 そうしたなか、レガレイラが皐月賞出走を匂わすなど、3歳クラシックの行方はどうなるのか、まったくわからない。昨年同様、3歳になってから台頭してきた馬が世代の頂点に立つことも十分に考えられる。

 まさに戦国の様相を呈するが、3歳牝馬クラシック同様、再びスポーツ紙、専門紙の記者など識者5人に、今春の皐月賞(4月14日)、ダービー(5月26日)で勝つ馬をいち早く予想してもらった――。

太田尚樹記者(日刊スポーツ)

◆皐月賞=ジャンタルマンタル
◆ダービー=ダノンエアズロック(牡3歳/父モーリス)

 実は元日付の紙面予想では(皐月賞馬に)ゴンバデカーブース(牡3歳/父ブリックスアンドモルタル)を指名したのですが、年明け早々に同馬はノドの手術を受けました。それでも、クラシックに間に合う可能性は十分にありますが、クラシック初戦は順調度を重視して、ここではジャンタルマンタルをチョイスしました。

 1800m戦とマイル戦で3戦3勝という実績ですが、父パレスマリスはダート・2400mのGIベルモントS(アメリカ)の勝ち馬。さらにその半弟には、GI天皇賞・春(京都・芝3200m)を制したジャスティンパレス(牡5歳)や、GIIステイヤーズS(中山・芝3600m)を勝っているアイアンバローズ(牡7歳)らがいて、管理する高野友和調教師も「血統的には長い距離をこなせる背景がある」と見ています。

 実際、操縦性が高いので、中山・芝2000mには難なく対応できるはず。朝日杯FSで騎乗した川田将雅騎手曰く「これから、もっと成長を伴える馬」と、伸びしろも申し分ありません。

 ダノンエアズロックはやはり、次戦でホープフルSを制すレガレイラをリステッド競走のアイビーS(10月21日/東京・芝1800m)で下している点がアピールポイント。それでいて、同レースのパトロールビデオを見ると、左右にふらついて走っているのがよくわかります。まだまだ荒削りの状態であのパフォーマンスですから、相当な潜在能力がうかがい知れます。

 そのアイビーSでは、前半1000m通過が63秒1というスローペースを折り合っていました。とすれば、距離延長にも不安ないでしょう。

坂本達洋記者(スポーツ報知)

◆皐月賞=バードウォッチャー(牡3歳/父ブラックタイド)
◆ダービー=ダノンエアズロック

 朝日杯FSやホープフルSで牝馬が存在感を示したなか、3歳牡馬戦線はいまだ抜けた存在がいないと思っています。そこで、皐月賞馬候補にはバードウォッチャーを抜擢します。

 キャリア自体は、まだ新馬勝ちを果たしたばかり。GIII京成杯(1月14日/中山・芝2000m)から始動するローテーションでクラシックを目指すことになりますが、血統的な底力があって、国枝栄厩舎悲願の牡馬クラシック制覇が期待できると踏んでいます。

 新馬戦(11月11日/東京・芝1800m)の前は、国枝調教師のトーンは上がっていませんでしたが、いざ実戦を走ってみたら、4角9番手からしっかりとギアを上げて、メンバー最速の上がりをマークして差しきり勝ち。味のある内容でした。

 国枝師はこの中間、「ひと回り力強さが出てきたね。だんだんよくなるタイプ。この兄姉はうるさいのが多いけど、この馬は素直。今のところ、優等生」とコメント。母アパパネに似た気性のよさを評価していました。

 国枝師によれば、2021年のGI秋華賞(阪神・芝2000m)を制した半姉アカイトリノムスメにも似ているとのこと。どちらかというと、奥手で成長力に優れているのかもしれませんが、何より同師が「似ている」と言いたいのは"実戦向き"という点だと思います。

 京成杯ではジュンゴールド(牡3歳/父エピファネイア)など強敵がいますが、皐月賞と同じ舞台で結果を残せば、一気に道が拓けると思います。

 ダノンエアズロックは重賞勝ちこそありませんが、デビュー2連勝。ダービー馬候補には、まだ底を見せていない魅力あふれる同馬を指名します。

 2022年のセレクトセール(1歳馬セクション)で4億5000万円(税別)もの高値で落札された良血馬。その際、生産者のノーザンファーム・吉田勝己代表が「あの馬は今まで見たことがないような、一番いい馬。お母さんもオーストラリアのチャンピオンですから、相当走ると思いますよ」と語っていたことが、強く印象に残っています。

 事実、母モシーンはオーストラリアのGIを4勝。半姉のプリモシーンは重賞3勝の活躍馬でしたから、素質の高さは疑いようがありません。

 そしていざデビューすると、新馬戦(6月11日/東京・芝1800m)では2番手から押しきる形で1着。その勝ちっぷりは派手ではありませんでしたが、ひと夏越して挑んだアイビーSでは目を見張る成長ぶりを披露しました。

 パドックでも緩さが目立ち、まだ頼りない雰囲気だった新馬戦に比べて、2戦目では馬体重が20kg増。その数字が示すように、力強さはもちろんのこと、伸びしろの大きさも感じました。レースも、のちにホープフルSを勝つレガレイラを完封。秘める瞬発力を発揮できたことは大きいです。

 過去にはソウルスターリング、クロノジェネシス、ドウデュースら、のちのGI馬が名を連ねる"出世レース"で結果を出したことは、相当なアピールポイント。血統的にも距離はあったほうがいいでしょうから、クラシックでも大いに期待できる存在です。

小田哲也記者(スポーツニッポン)

◆皐月賞=トロヴァトーレ(牡3歳/父レイデオロ)
◆ダービー=シンエンペラー(牡3歳/父シユーニ)

 トロヴァトーレは、中山・芝2000mの新馬戦(9月18日)、1勝クラスの葉牡丹賞(12月2日/中山・芝2000m)を連勝。しかも、2戦ともに上がり33秒台をマーク。最後の直線に急坂のある中山では、2歳秋としては破格の時計と言えます。

 父レイデオロは、葉牡丹賞を勝ったあと、暮れのホープフルS(当時はGII)も制していますが、その父と比べても遜色ない素材のよさを感じます。

 葉牡丹賞では馬群を一瞬でさばいて、抜け出してからさらに加速。混戦になりやすい皐月賞を勝ちきるだけの勝負根性も備えています。そのレース後、鞍上のウィリアム・ビュイック騎手が「ダービー候補に名乗りを挙げる1頭です」と称賛したほどで、春の大舞台での飛躍が期待できます。

 制御性のよさや、ダービーを制した父の血統背景を考えれば、2400m戦も問題ないでしょうが、まずは中山・芝2000mに特化してきたローテーションを考慮して、皐月賞候補に推したいと思います。

 ダービーは、シンエンペラー。その期待が膨らむ血統的な価値は触れるまでもないでしょう。

 ここまでの3戦、東京・芝1800m(新馬戦1着)、京都・芝2000m(GIII京都2歳S1着)、中山・芝2000m(ホープフルS2着)と、求められる適性が異なるコースで機敏に対応してきた適応力が光ります。特に2戦目の京都2歳Sでは、出負けしたうえ、直線で前に馬群の壁がある状況を打破して勝利。その脚力には底知れない凄味を感じました。

 ホープフルSは早く先頭に踊り出た分、1頭になってソラを使っての惜敗。力で負けたようには見えませんでした。およそ1カ月半余りの間に3戦を消化。その間、関東への輸送も2度こなした強靭な基礎体力も強調ポイントになります。

 収得賞金が十分あるだけに、皐月賞にはこのまま直行でしょうか。もちろん、同じ舞台のホープフルS出走は、そのためだったのでしょう。そんなローテを含めて、陣営がダービーにピタリと照準を合わせてMAXに仕上げてくれば、最右翼の存在になると見ます。

木村拓人記者(デイリー馬三郎)

◆皐月賞=ミスタージーティー(牡3歳/父ドゥラメンテ)
◆ダービー=ミカエルパシャ(牡3歳/父エピファネイア)

 3歳牡馬戦線は、かなりの混戦。そうしたなか、皐月賞で注目したいのは、ミスタージーティー。新馬戦(11月5日/京都・芝2000m)の直線では、反応してからのスピードになかなかのものがありました。

 2戦目はホープフルSに参戦。そのメンバーのなかに入っても、柔らかさがあって「ここでも通用しそうだな」という雰囲気がありました。レースでは後手後手になった分、脚を余すような形になって5着に終わりましたが、あの内容でこの着順だったことには、末恐ろしさを感じました。

 血統的に見て、まだまだ完成するのは先。現状の完成度でこれだけ走れるのなら、今後の飛躍的な伸びしろも加味して、期待は高まるばかりです。

 気持ちとしては、ミカエルパシャが皐月賞、ダービーともにイケると思っているのですが、より可能性を感じるのがダービー。前走のGII東京スポーツ杯2歳S(11月18日/東京・芝1800m)でもパドックを見て、動きは柔らかいし、22kg増えていた馬体重も成長分で、2歳牡馬のなかでも「頭ひとつ抜けているな」という印象でした。

 ただ、レースでは出遅れて、スローな流れのなかで直線ではもたれまくり。まったく追えないような感じになって、最後に少し脚を使っただけで5着に終わりました。それでも、ポテンシャルは間違いないと察することができました。

 クラシックに向けては、能力をきっちり出しきれる状態に持ってこられるかどうかがポイント。ミスタージーティーと同厩のシンエンペラーも強力ですが、面白味という意味でも、ミカエルパシャにより魅力を感じています。

土屋真光氏(フリーライター)

◆皐月賞=シンエンペラー
◆ダービー=アーバンシック(牡3歳/父スワーヴリチャード)

 渋った馬場のGI凱旋門賞(フランス・芝2400m)を勝ったソットサスが全兄のシンエンペラー。ホープフルSではレガレイラのズバッとしたキレ味に屈しましたが、高速馬場の東京、クッションの効いた京都、パワーを要する冬の中山と、異なる適性が求められる舞台できっちり結果を出してきて、総合力の高さがうかがえます。

 2着に終わったホープフルSも、負けて強しの内容。むしろ、レガレイラのキレ味がハマりすぎた感があって、タフさが一段と求められる皐月賞では逆転が見込めます。

 アーバンシックは、札幌・芝1800mの新馬戦(8月13日)、1勝クラスの百日草特別(11月5日/東京・芝2000m)と連勝。同馬も札幌、東京という適性が異なるコースで結果を出している点から、地力の高さを感じます。

 牝馬で存在感を示しているレガレイラやステレンボッシュ(牝3歳)のいとこで、父は初年度から多くの産駒が活躍しているスワーヴリチャードという、今年の3歳世代のトレンドを集約させたかのような血統。京成杯から始動し、勝てば皐月賞でも有力視されるでしょう。

 ですが、ディープインパクトを出したウインドインハーヘアからなる血筋。それだけに、ダービーでこそ、と見ています。