箱根駅伝2区を走った青学大・黒田や駒澤大・鈴木らの走りを東洋大OB服部勇馬が分析 自身が走った当時と比べ「厚底シューズで走っていたら...」
箱根駅伝のエース区間といえば、やはり「花の2区」。長い年月を経ても、その価値は変わることはないが、時代の変化とともにその様相は変わってきた。特にこの10年間は厚底シューズやフィジカルトレーニングの進化により、高速化の傾向に拍車がかかっている。そんな"いま"の2区をかつての2区ランナーはどのように見ているのか。
東洋大時代には2区に3年連続出走、2年連続区間賞を獲得した服部勇馬(トヨタ自動車/東京五輪マラソン代表)に、語ってもらった。
服部勇馬が振り返る第100回箱根駅伝 前編
3年連続2区に出走した東洋大時代の服部勇馬(写真は2015年) photo by Jiji Press
――まずは正月のニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)、優勝おめでとうございます。アンカーとして優勝のフィニッシュテープも切りました。
「ありがとうございます」
――トヨタ自動車として8年ぶりの日本一。服部選手自身にとっても、トップレベルの駅伝での優勝は大学4年時の全日本大学駅伝(2015年)以来だと思います。
「入社してからは勝っていませんでしたし、チームメイトの西山雄介(駒澤大OB/2023年ブダペスト世界陸上マラソン代表)とそのことについて話していました。個人としても、本当に久しぶりですね」
――さて、箱根駅伝2区についてお聞きしていきます。服部選手は3年連続(2014年から2016年)で2区を走り、3、4年時は2年連続で区間賞を獲得しましたが、今大会の2区を見た印象はいかがですか。
「まずは(1時間)6分台前半を出さない限り、区間賞を取ることが難しい時代に入っていることを感じます。それ以上に(1時間)9分台で区間20位(今回は1時間09分54秒)ということに結構、驚きますね。僕が学生の頃は(1時間)9分台でも区間1ケタ順位でしたので(2016年大会は1時間09分22秒で区間9位)」
――1時間07分59秒でも区間14位でした。
「びっくりですよね」
――服部選手が大学を卒業した後、学生に限らずですが、厚底シューズやフィジカルトレーニングの進化があり、長距離の高速化が進んでいます。
「ただ、そうした要因を抜きにしても、箱根駅伝では一部のトップ選手だけではなく中間層の選手も含めて全体的なレベルアップが進んでいると思います」
――トップ争いを演じた駒澤大の鈴木芽吹選手(4年)と青山学院大の黒田朝日選手(2年)の印象はいかがですか。黒田選手は1時間06分07秒の区間賞で、駒大との差を35秒から22秒に縮め、総合優勝へのきっかけをつくりました。
「黒田選手は本当にクレバーな走りをした印象です。途中、集団に追いつかれる場面もありましたが、本人が想定した通りの走りだったと思います。前を行く鈴木選手を追わなければという気持ちがあったと思いますし、鈴木選手も10km通過はかなりいいペースで行っていましたが、そういう状況も頭に入れながら冷静に走っていたので、強くなる選手だなと感じました」
――鈴木選手については?
「1時間06分20秒の区間2位なので、全くもって悪くはなかったと思います。それを大前提にした上で言えば、後半で詰められた部分は後続の味方の選手に"何か違う"という印象を与えたとは思いますけど......、いや、でも100点ではないにしても十二分に合格点だった思います。初めての2区ということで、最後の3km(戸塚の壁と言われる上りが続くコース)はなかなか伸びなかった部分はあると思いますが、わずか十数秒詰められたという、本当に印象の部分だけだと思います」
――ほかの選手については、いかがでしょうか。城西大の斎藤将也選手は区間8位で勢いをつけ、チーム史上最高位の総合3位に貢献しました。
「斎藤選手はトラック1万mを27分台で走っていましたし、全日本大学駅伝も4区区間賞でしたので、箱根2区でもその実力をしっかり発揮した結果ではないでしょうか」
――区間順位で3位の平林清澄(國學院大3年)、4位の山口智規(早稲田大2年)、留学生ではトップで5位のスティーブン・ムチーニ(創価大1年)、6位の梅崎蓮(東洋大3年)の各選手も1時間6分台でした。山口選手は渡辺康幸さん(現・住友電工監督)が持つ2区の早大記録を塗り替えました。
「結構、上位は高いレベルでの秒差と言えますね(3位から6位まで19秒差以内)。山口選手も、渡辺さんの記録を超えているのはすごいですし、後輩の梅崎もよく頑張って、チームの総合4位のキーマンとなりました」
【いま、2区を走るとしたら......】――2区を攻略するためには、やはり経験が大切な要素でしょうか。
「僕は、経験だと思います。走れば走るほど、コースを知ることができますし、あれだけタフなコースを走るとなると、なかなか1回だけで良い記録を出すのは難しい。ただ、下級生でも今回のように高いレベルで走る選手もいますからね。黒田選手、山口選手、斎藤選手はあと2回走る機会がありますから、(1時間)5分台に挑戦する可能性はあるのではないでしょうか」
――(1時間)5分台は、イェゴン・ヴィンセント選手(東京国際大、現・Honda)、相澤晃選手(東洋大、現・旭化成)の2人だけです。
「僕はどんなに高いシミュレーションをしても(1時間)6分45秒までしかイメージできなかったので、5分台というのは想像つかなかったです」
――もし、いまの競技環境で服部選手が箱根駅伝の2区を走るとしたら?
「いやあ、どうでしょう。僕が学生時代に厚底シューズを履いて2区で(1時間)6分台を出せたかといったら、わからないです。ただ、ここ数年は、2年連続区間賞を取れた自分を誇らしく思えていますね(笑)。吉居大和(中央大4年)や田澤廉(駒澤大出身)は2年連続の区間賞を取るだろうなと思っていたんですけど取れなかったので」
――ふたりともトヨタ自動車の後輩になりますね(吉居は今春入社予定)。高速化に伴い、2区の攻略法で変わったと感じた部分はありますか。
「攻めどころは、大きくは変わっていないと思います。ただ、前回大会の(吉居)大和は僕とは対照的で、最初からかなりハイペースで突っ込んでいって、最後まで押し切っていた。その姿を見た時は、"自分にはできない走りだな"と感じました。今回の2区は前回の大和ほど攻めている印象の選手はいなかったのですが、それでも(1時間)6分台前半は行くんだなという感想です。
僕はどれだけ前半速く入っても(10km通過が)28分15〜20秒でいかないと権太坂(15km地点)の前でいっぱいいっぱいになってしまい(14km過ぎから上り坂が続く)、最後に伸びない。権太坂自体は7割から8割くらいのリズムで走り、下りになってからギアを上げて最後のラスト3kmの上りに挑むような走りをイメージしていました」
――平塚中継所までの最後の3km、戸塚の壁といわれる上りは何も考えずにオールアウトする(すべてを出し切る)感じなのでしょうか。
「最初はそうだったんですけど、経験すればするほど、最後の上りを意識するようになるので、20kmくらいまでは余裕を持って走るようにしていました。それでも最後、足は止まるんですけどね。鈴木芽吹選手は(10km通過)28分1ケタ秒ぐらいで行ったのを見て、それでも速いかなと感じていました」
【箱根駅伝マニア? としての楽しみ】――第100回大会全体についてはどのような印象でしょうか。駒澤大一強と見られていた中、青山学院大が完勝しました。駒大にミスがあったのではなく、上回ったという印象です。
「正直、僕も駒大が勝つと思っていました。ですので、青学大、あっぱれです。あと総合タイムの10時間41分台、10時間30分台まで来たという現実には驚かされました。2位の駒大も10時間48分台ですからね」
――青学大と駒大が抜け出ていたこともあり、復路は16校が一斉スタートになりました。
「それも驚きでした。特にシード争いを展開しているチームの監督や選手は、すごく難しかったと思います。前を走っているのに、順位は後ろという状況が生まれるので、大変だったと思います」
――大学卒業もトップレベルで競技を継続していますが、箱根駅伝は見続けているのですか。
「卒業当初は同期会のようにみんなで東京に集まって現地観戦したりしましたが、いまはずっと10時間、テレビの前に座って見ていますね。箱根駅伝は大好きですよ」
――結構、つぶさにいろんな選手を見ている。
「多くの人が認識している強い選手や速い選手はわかっているので、どちらかというとこれから伸びてきそうな選手を探したり、見たりするのが好きですね」
――では、ここまで挙げていただいた選手やエース級の選手以外で目を引いた選手がいれば教えてください。
「まずは、國學院大の5区を務めた上原琉翔選手(2年、区間17位)です。今回は山上りでしたが、前回大会で7区を走っていた姿を見て、リズム良く走っている印象を受けました。一ファンとしては今回も平地で見てみたかったですね。あと、青学大の塩出翔太選手(2年、8区区間賞)です。ロードでもしっかり走れますし、自分でも速いペースでどんどん押していける選手だと思うので、今後も楽しみです」
――リズム良く、という部分をもう少し具体的に説明していただけますでしょうか。
「なんだろう、本人に聞いてみないと本当のところはわかりませんが、選手本人が"進みたいタイミングで進めているんだろうな"という感覚です。自分の体を自分が思うように動かせている走り、と言えばいいのでしょうか」
後編:箱根駅伝までの「この2カ月に何があった!?」 OB服部勇馬が驚嘆した東洋大の総合4位
【Profile】服部勇馬(はっとり・ゆうま)/1993年11月13日生まれ、新潟県出身。仙台育英高(宮城)→東洋大→トヨタ自動車。中学時代から全国レベルの選手として活躍。大学入学後は1年目から主力として活躍し箱根駅伝では9区区間3位、2年時からは3年連続でエース区間の2区に出走し2年時は総合優勝に貢献、3、4年時は2年連続区間賞を獲得した。トヨタ自動車入社後はマラソンに本格的に取り組み、2019年の東京五輪代表選考会のMGCで2位となり日本代表に内定。1年延期となった東京五輪では熱中症の影響もあり73位。その後、しばらくレースから遠ざかるが、2022年秋から本格的に競技を再開し、ニューイヤー駅伝では2023年7区区間賞、24年は7区区間3位で8年ぶりの優勝に貢献した。