J1通算191ゴールの歴代最多得点記録を持つ、大久保嘉人氏にインタビュー。後編はこれまで対戦してきたなかで嫌だなと思ったDFを5人挙げてもらった。

前編「大久保嘉人がすごいと思ったストライカー10人」>>

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大久保嘉人さんが対戦して嫌だったDF5人を挙げた photo by Ichikawa Yosuke

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【なかなか抜けない】

5位:カルレス・プジョル(元バルセロナ)

 プジョルはマジョルカ時代に対戦したことがあります。スピードはないんですけど、駆け引きとかスライディングがうまくて、「あれ、全然スピードがないのになかなか抜けないな」と、ちょっと難しいなと感じた選手でした。

 勝負どころの判断が絶妙なんですよ。マークにつかれる時に、背中に触っているんですけど、「これは潰せるな」と思ったらガツっと潰しにきて、「これは無理そうだな」と思ったら絶妙な間合いをとって、わざとボールを出させたところをスライディングでパーンとくる。あの駆け引きは本当にうまかったです。

 それに、たとえ抜いたとしても、彼はボールを追ってくるのではなくて、コースに戻るんですよ。だからいくら抜いても「まだプジョルがいる」という感じで難しかったですね。

 それから「こいつには絶対にやられたくないな」という相手には、カニ挟みでガツンと来るんですよ。それを食らって僕は初めて、すね当てが半分に割れました(笑)。スピードや身体能力でガツガツ来られるよりも、プジョルのように駆け引き、間合いの取り方がうまいDFのほうが嫌でしたね。

【一番イライラさせられた】

4位:イリアン・ストヤノフ(元ジェフユナイテッド千葉、サンフレッチェ広島ほか)

 ストヤノフは彼がサンフレッチェ広島時代に対戦したんですけど、一番イライラさせられて、一番やり合った選手でしたね。

 DFとしてはあまりゴツくもなくて、スラっとしていて、スピードはなかった。でもその分、プジョルのように駆け引きがうまいんですよね。

 彼がボールを持った時に僕がプレスをかけにいったら、スッとドリブルで持ち上がって逆を取られてかわされたんですよ。その時に「あ、この人はサッカー知っているな」と思いました。そのあとも簡単には蹴らずに、うまく味方につなげるだけの足元の技術もある。

 こっちがボールを持ったら一発目に削る。一発目はなかなか主審もイエローカードを出さないと、わかっているんですよね。それで最初にドーンと削ってこられると、FWはまた来るんじゃないかと怖くなる。それでビビってトラップをミスすることが多かったです。

 性格的にも激しくて、ガンガン来るし、相手をイライラさせるやり方も知っているんですよ。当時、彼は日本語を話せなかったんですけど、口でも結構言い合っていましたね。経験もあるので、ついこっちも乗せられてしまうことは多かったです。

 ただ、こっちもやられる前に削りに行くこともあったし、そこはどっちが先にやるかという駆け引きもありました。日本人選手でそういうことができる人はなかなかいないので、本当に嫌なDFでした。

【プロの洗礼を浴びせられた】

3位:前田浩二(元横浜フリューゲルス、アビスパ福岡ほか)

 前田浩二さんのアビスパ福岡時代に初めて対戦しました。その頃は僕がまだ18、9歳の頃ですね。バチバチにやり合っていました。

 よく覚えているのが、浩二さんは僕がまだ若いことを知っているので、いろんなことを言ってくるんですよ。「お前それでいいのか?」「日本代表になりたいんじゃないのか?」とか。そう言われて18歳の僕は「うるせえな、まず俺のボール取ってみろよ」と思っていましたね。

 でも「あそこ空いてるぞ」なんて言われると、経験のないこっちはすぐそういうのに乗せられて行ってしまって、案の定相手の思うつぼで全部取られてしまっていました。昔の人はそういうのがうまかったですね。

 そうやって言葉でこっちをイラつかせるだけじゃなくて、プロの洗礼を浴びせるために思いっきり削ってもきましたね。当時、血気盛んでイケイケだった僕でも、それをやられて「うわ、この人本当に嫌だな」となりました。

 プロに入ってまだ1年目、もちろん高校サッカーでそんなことをしてくる人なんていなかった。口でいろいろ言われるだけなら「おっさんがなんか言ってるな」くらいだったんですけど、ガツっと削られた時は初めて怖くなりましたね。

 浩二さんには大人のサッカーを教えられました。

【体がキレキレで股抜きとかしていたら......】

2位:ファブリシオ・コロッチーニ(元デポルティーボ・ラ・コルーニャ、ニューカッスルほか)

 コロッチーニがデポルティーボ・ラ・コルーニャ時代に対戦しました。僕はマジョルカの時に、デポルティーボ戦ですごく活躍したんですよね。アウェーのリアソールで前半に2アシスト、後半に1ゴールしました。

 その日の僕は、体はキレキレで、相手をちんちんにしていて、股抜きとかしていたんですよ。そうしたらハーフタイムにコロッチーニがこっちに来て、ものすごい剣幕でなんか言ってきたんです。

 でもスペイン語でなに言っているかわからなかったんですけど、チームメイトのアルゼンチン人とかに聞いたら「お前、後半に股抜きとかしたら、もうサッカーができなくなるくらい削るから気をつけろと言っとけ」と言われたと。

 それを聞いた瞬間に、もう股抜きはできなくなりましたよね。あそこでもう優位に立たれたなと思って。やっぱり南米の選手は、そういうところから攻めてくるんだなと思いました。

 実際に後半から背後にコロッチーニが来ると「削られるな」と怖くなったし、アルゼンチンとか南米の選手はタックルに来る時の殺気が日本人とはまったく違うんですよね。そのなかでもコロッチーニはとくに激しい選手で、怖さを感じる選手でした。

【開始10秒で動けなくなってしまった】

1位:ロベルト・アジャラ(元バレンシア、サラゴサほか)

 アジャラもコロッチーニと同じアルゼンチン人で、バレンシア時代に対戦しました。試合開始のホイッスルが鳴って、相手のセンターバックのところへ行ったら、思いきりすね当てのところを「ドン!」と蹴られたんです。

「お前動くなよ。動いたら行くからな」みたいな感じでやられた時は、もう動けなくなりました。それが試合開始10秒くらいですよ。それからはボールが来るたびにアジャラが来るんじゃないかと後ろを見なければいけなくて、それでボールを見失ってミスしたり。

 アジャラは激しく来ることで有名で、そうしたイメージがあった上で実際にやられたので、余計に怖くなりました。彼は身長もない(177cm)し、ゴツいわけでもないので、とにかくそういうことでまず相手から優位に立とうとしていたんだと思います。

 背を向けていると、アキレス腱のところをよく蹴ってきて、ずっとそんな駆け引きをしていました。

 日本人でそんなことしてくる選手は当然いないし、他の海外の選手を含めてもそこまでやってくるのはアジャラくらいでした。とんでもないやつだなと。

 僕は彼と勝負したくなくて、サイドとかに行っていました。でもその時点で彼の勝ちなんですよね。だから僕はちょっとビビって、逃げちゃっていたなと思います。

 このランキングで選んだのは激しい選手ばかりですけど、そういうDFは本当に大事だし、貴重だと思います。サッカーを知っていないとそうしたプレーはできないし、自分に自信があるからできる部分もある。また、自分の弱いところを突かれないための術でもあるんですよ。

 アジャラのような激しさは、南米の選手の特徴でもあると思うんですけど、アルゼンチンはとくに激しいですよね。カタールW杯でもそうでしたけど、あの泥臭さはアルゼンチンらしさと言えると思います。

 アジャラはそのなかでも特別で、本当に一番"怖い"という言葉が当てはまる選手でしたね。

大久保嘉人 
おおくぼ・よしと/1982年6月9日生まれ、福岡県出身。国見高校時代は3年時に全国高校サッカー選手権を含む高校3冠を獲得。卒業後はセレッソ大阪を皮切りに、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレ、FC東京、ジュビロ磐田、東京ヴェルディでプレー。J13年連続得点王(2013−15年)、J1通算191ゴールの最多得点記録を持つ。欧州でもマジョルカ(スペイン)、ヴォルフスブルク(ドイツ)でプレーした。日本代表では2010年南アフリカW杯、2014年ブラジルW杯に出場。2021年に現役引退後はタレントとして活躍している。