2021年に現役を引退した大久保嘉人氏に、これまで見てきたなかですごいと思ったストライカーを10人挙げてもらった。J1通算191ゴールの歴代最多得点記録を持つFWの目には、どんな選手が映っていたのか?

後編「大久保嘉人が対戦して嫌だったDF5人」>>

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大久保嘉人さんが自分が見てきたなかですごいと思ったストライカー10人を選んだ photo by Getty Images

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【プロの厳しさを全部教わった】

10位:グラフィッチ(元ヴォルフスブルクほか)

 グラフィッチはヴォルフスブルク時代の2008−09シーズンに一緒にプレーしたストライカーですね。うまいという感じではないんですけど、そのかわりスピードはあるし、体は強いし、めちゃくちゃ点を取る。

 その年にリーグで28得点を取って得点王で、重戦車という感じでしたね。とにかくすごいなというのを覚えています。

 体の大きなブンデスリーガのDFを相手にした時に、うまさというより、グラフィッチのように体の強さとスピードで勝負できるストライカーは、やっぱり強いなと思いました。

9位:興梠慎三(浦和レッズ)

 興梠慎三は、FWとしてなんでもできる選手だと思います。日本代表で一緒にプレーしたこともありますけど、パスもできるし、キープもできるし、もちろんシュートもうまい。判断力もあるし、ヘディングも強いですよね。

 対戦相手としてだけでなく、一緒にプレーしてもすばらしい選手だと思いました。

 彼はJ1で通算167点、9シーズン連続で2ケタ得点を記録してきました。それだけストライカーとして安定したプレーを続けてこられたのは、その何でもできる万能性があったからです。

 点が取れない時期があっても前線でボールをキープして、周りを使って、ゴール前へ入っていく。そういうプレーを続けることで、自然と点が取れるシチュエーションも増えて、安定した得点数というものにつながっていったと思います。

8位:西澤明訓(元セレッソ大阪ほか)

 アキさんは大先輩で、セレッソ大阪時代は一番お世話になりましたし、練習から本当にストイックでプロ選手としての厳しさはアキさんに全部教わりました。僕はタイプの違うストライカーでしたけど、ゴール前のプレーで言われたことは今でも覚えています。

「ゴール前ではアウトサイドを使うな」と教わったことがありました。つい癖でアウトサイドを使いがちだったんですけど、それではミスしやすくなると。「もっと確実性を求めろ」と言われて、それからアウトサイドは使わずにインサイドで蹴ることを意識するようになりました。

 アキさんは後方から前線へロングボールが入った時に、絶対にヘディングでそらすだろうというボールも胸トラップして、中盤の味方につないでしまうんですよね。

 最後のゴール前では、「こんなの絶対に打てないだろう」というボールでもボレーシュートしたり、無理矢理アクロバティックなシュートにもっていったりして、信じられないようなゴールを決めてしまうストライカーでした。

【見ていてワクワクさせてくれる選手】

7位:アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)

 ハーランドは最近の選手ですけど、身長が高くて、スピードもある。ストライカーとして優れているだけではなくて、人を使うこともできるというのがいいですよね。

 あれだけ自分でなんでもできながら人のためにコースを空けるプレーができるので、本当になんでも持ち合わせている選手だなと。

 なにかの試合で彼が中盤まで下りてボールを受けて、その瞬間に中盤から裏へ抜けた選手へスルーパスを出した時があって、こんなプレーまでできるなんて無敵だなと思いましたね。

 彼にボールが入ればなにかしてくれるんじゃないかというワクワク感があるので、非常に楽しい選手だと思います。

6位:キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)

 エムバペは圧倒的なスピードで、自陣からでもひとりでゴール前まで持っていけてしまう。しかも彼はパスもできる選手なので、DFからすればこんなに怖い選手はいないですよね。

 やっぱりスピードがあるだけで余裕が持てるし、その分DFは慌ててしまう。そのスピードを生かしたドリブルを警戒しつつ、パスも出されるかもしれない。食いついてしまうとそのギャップを使われるから非常に捕まえづらい選手で、あれだけ速ければサッカーが楽しいだろうなと思います。

 W杯やUEFAチャンピオンズリーグなど世界トップ選手が集まる大会で、エムバペを抑えるために相当研究されていると思うんですけど、彼はそれを上回るプレーで誰も止められない。ケガさえなければ、彼の時代が今後続いていくと思います。

5位:ズラタン・イブラヒモビッチ(元ミランほか)

 イブラヒモビッチは大きな口を叩いて周りからの注目を集めて、それをスーパープレー、スーパーゴールで黙らせる。僕と性格的に似ているところがあって、彼のそんなスタイルが大好きですね。

 あのスタイルは点を取ったり、活躍ができなければ批判をされるわけです。それを黙らせる活躍ができるのは相当なメンタルの持ち主だと思うし、裏ではかなりの練習量だったと思います。そういうところがすごいと思いますね。

 彼はあれだけの長身(195cm)でありながら足元のテクニックが高くて、なんでもできる上にアクロバティックなシュートを決める意外性もある。アヤックス時代に何人も抜いて決めたゴールがありましたけど、あれはすごかったですね。

 キックフェイントとか、股抜きとか、DFのずらし方のいろんな発想を持っていますよね。圧倒的なカリスマ性で、ボールを持てばいつもワクワクさせてくれる選手でした。

【いつも参考にしていた】

4位:ウェイン・ルーニー(元マンチェスター・ユナイテッドほか)

 ルーニーもなんでもできる選手ですよね。キープもできて、パスもできて、シュートもうまい。それから守備でも相手をどこまでも追いかけていって、絶対にあきらめない。あれは見ていて気持ちがいいですよね。

 2010年の南アフリカW杯直前にイングランド代表と強化試合をした時に、彼と対戦をしたことがあるんですよ。その試合で覚えているのが、ルーニーが守備をする時に自陣のDFのところまでものすごい迫力で戻ってきたんです。

 ちょっとでもミスをしたらガッツリと削られてしまうんじゃないかという感じがして、あの気迫はちょっと怖いものがありましたね。さすがマンチェスター・ユナイテッドで活躍するトップ選手だなと思いました。

3位:セルヒオ・アグエロ(元マンチェスター・シティほか)

 アグエロはスピードがそこまで優れていたわけではないけど、スルスルっと抜けてシュートのうまさやパンチ力で決めてしまう。得点能力というのはずば抜けていましたよね。

 彼は僕と同じで体が大きくないので、自分とダブらせていつも注目してしまうストライカーでした。

 屈強なDFが多いプレミアリーグで、あれだけ体が小さい(173cm)なかで活躍し続けたのは、シュートセンスはもちろんですけど、体の使い方がとくにうまかったんだと思います。それがないとあれだけDFをかいくぐることはできないし、ケガも多くなっていたでしょう。

 体の使い方というのは、相手の動きを見て、どう動いて体を当てさせないか。その判断力の部分ですね。それができない選手は自分から動いてしまって、体を当てられて吹っ飛ばされてしまう。そうなるとケガが増えます。

 アグエロはそこが本当にうまかったので、見ていて楽しい選手でした。

2位:ロマーリオ(元バルセロナほか)

 ロマーリオは1994年のアメリカW杯の時に初めて見て、「こういう選手になりたい」と目標にした選手でした。いつも彼を参考にしてサッカーをしていました。

 それは、ボールを持った時の柔らかいタッチとか、裏への飛び出す動き、ボールを持った時にどこを見ているのかといったところです。

 彼は常にGKを見ながらプレーしていて、GKが前に出てきた瞬間にループシュートを狙うというのは何度も見ていたのでマネしました。あの得点感覚はすごかったです。

 それと彼の悪いところも大好きでした。イブラヒモビッチもそうですけど、やっぱりちょっと悪い系に惹かれるんですよ。

 でもそういう悪いところがある選手は、相手がされると嫌なこともよくわかる選手で、ストライカーには大事な要素だと思います。今はそういう選手が全然いませんけど、僕は個人的にそうした魅力もないと面白くないと思います。

【すごいというか美しかった】

1位:ロナウド(元バルセロナ、レアル・マドリードほか)

 ロナウドはスピードがあって、体も強くて、テクニックもある。あれだけひとりで何でもできるストライカーは、作ろうと思って作れる選手ではないし、なかなか出てこないでしょうね。足の回転が異次元に速かったのをよく覚えています。

 マジョルカ時代にレアル・マドリード戦で対戦したことがあって、ウチには2m近くて、体重も100kgを超えてスピードもあったDFがいたんですよ。そんな選手たち3人に囲まれて、掴まれてもそこを引きずりながらでもスルスルっと抜けてゴールまで持って行っちゃったんです。あれはすごいというか、美しいなと思いましたね。

 普通であればDFに掴まれたらファールをもらうと思うんですけど、彼はそれを振りきれるだけのパワーとスピードがありました。DFは引っ張っているはずなのに、ロナウドに引っ張られていましたからね。

 ああなったらもう削って止めるしかないですよ。あんな選手止めようがないよなって後ろから見ながら思っていました。

後編「大久保嘉人が対戦して嫌だったDF5人」へつづく>>

大久保嘉人 
おおくぼ・よしと/1982年6月9日生まれ、福岡県出身。国見高校時代は3年時に全国高校サッカー選手権を含む高校3冠を獲得。卒業後はセレッソ大阪を皮切りに、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレ、FC東京、ジュビロ磐田、東京ヴェルディでプレー。J13年連続得点王(2013−15年)、J1通算191ゴールの最多得点記録を持つ。欧州でもマジョルカ(スペイン)、ヴォルフスブルク(ドイツ)でプレーした。日本代表では2010年南アフリカW杯、2014年ブラジルW杯に出場。2021年に現役引退後はタレントとして活躍している。