高校ラグビーの頂点を決める、東西の「横綱」同士の激突は、歴史に残る死闘となった。

 12月27日から大阪・東大阪市花園ラグビー場で開催された第103回・全国高校ラグビー大会は、1月7日に決勝戦を迎えた。花園の舞台に残ったのは、春の王者・桐蔭学園(神奈川)と、大会連覇を目指す東福岡(福岡)。ともにAシード同士の対戦となった。


優勝に貢献した桐蔭学園の主将・城央祐 photo by Saito Kenji

 序盤から両者ともにディフェンスが相手の攻撃力を上回る展開となり、なかなかスコアボードが動かない。そんな拮抗した状況のなか、ペナルディゴールで先制していた桐蔭学園が相手のミスを突き、前半24分にWTB田中健想(けんぞう/3年)がトライを挙げて8-0とする。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 もちろん、東福岡も簡単には勢いに押されない。後半16分にはCTB神拓実(こう・たくみ/3年)がトライを奪って3点差。しかしその後、"東の横綱"は鉄壁のディフェンスで最後まで守りきりノーサイド。桐蔭学園が3年ぶり4度目の日本一となり、春と冬の「2冠」を達成した。

 桐蔭学園は昨季、神奈川県予選決勝で東海大相模に13-14で苦杯をなめて、花園に出場することができなかった。「あの悔しい経験をバネに成長できた」とチームをまとめあげたのが、キャプテンのNo.8城央祐(しろ・おうすけ/3年)だ。

 城はこの試合でも身長185cm、体重93kgの体躯を活かしたすばらしいプレーを見せた。トライを奪ったシーンでは相手のキックをチャージし、試合終了残り5分のピンチの場面でもモールを停滞させてボールを奪い返したり、スクラムを押し込んで反則を奪ったりと、最後まで愚直に身体を張った。

「あまり実感が湧かないですが......優勝って、こんな景色だったんだな......。桐蔭学園の一員として、新たな歴史を作ることができた」

 優勝の喜びを噛み締めたあと、城はグラウンド中央で4回、宙に舞ってうれし涙を流した。

【サトケンに憧れて茨城から神奈川の名門校へ進学】

 今季の桐蔭学園は、『徹』という一文字をスローガンに掲げて臨んだ。

「昨季の予選決勝では、自分たちのゲームプランに徹することができなかった。徹することができる実力がないと、日本一になることができない」(城)

 その思いを貫いた結果、東福岡戦では「シンプルに身体をバチバチ当てて、自陣からでも継続して自分たちのラグビーをしよう」(城)とゲームプランに徹することができたことで、悲願の優勝をたぐり寄せたのだ。

 キャプテンの城は、茨城県守谷市出身。小さい頃は父の影響でサッカーをやっていたが「身体が大きくてすぐ反則になってしまった(苦笑)」と、小学2年から常総ジュニアラグビーフットボールクラブで競技を始めた。中学時代は南茨城ラグビースクールに在籍し、流通経済大柏(千葉)主将のCTB阿部煌生(こうき/3年)や目黒学院(東京第2)主将のLO中村つぐ希(3年)とともにプレーしていた。

 茗渓学園(茨城)や流通経済大柏といった全国的な強豪校が近郊にあり、実家から通うこともできた。それでも花園で連覇を達成した佐藤健次(早稲田大3年/No.8)の姿に憧れて、「どうせやるなら、日本で一番のところでやりたい!」と親もとを離れて神奈川の桐蔭学園に進学した。

 中学時代は主にPRだったが、高校からはバックローに転校。高校1年の終わりには主力No.8として春の選抜大会でベスト4に貢献し、高校2年生ながら高校日本代表候補にも選ばれるなど「世代トップクラス」の選手へと成長した。

 しかし、2022年11月の花園予選決勝で、桐蔭学園は東海大相模相手に敗北。花園連続出場を7でストップさせて城は「無力さを感じた」という。そんな悔しさがあったからこそ、新チームが例年より1カ月早くスタートした時、自らキャプテンに名乗りを挙げた。

 新チームとなった桐蔭学園は、まずは基本を徹底した。藤原秀之監督が選手に「変化球の前に、いい直球を磨かないと通用しない」と説き、ウェイトトレーニング、1対1やラックといったコンタクト、アタック&ディフェンスのセットスピードを磨いた。

 その基本を見直した結果、春の選抜大会は強豪校を圧倒的な強さで破って優勝。「全国の強豪とわたり合える自信がついた」(城)。ただ、秋の国体では神奈川県代表(主軸は桐蔭学園)として出場するも、福岡県代表(主軸は東福岡)に決勝で敗れた。それでも、城主将は「自分たちの弱さを再確認できた。この敗戦で空気が引き締まった」と前向きに捉えた。

【超高校級スーパーエースがいなくても勝てた理由】

 そして昨年11月19日、昨季の予選決勝で負けた東海大相模を59-0でリベンジを果たして花園の切符を獲得。本大会では2回戦、3回戦と順調に勝ち進み、準々決勝で東海大大阪仰星(大阪第3)、準決勝で大阪桐蔭(大阪第2)と優勝経験のある大阪勢を下した。

 東福岡との決勝戦では残り10分、1トライでも許されたら逆転される状況のなかでも桐蔭学園の選手は全員、タックルして起き上がり、またタックルして起き上がりを繰り返し、集中力を高く保って耐え続けた。その時の心境を、城はこう語った。

「相手が死ぬ気でトライを取りにくるので、自分たちも気持ちを出してディフェンスした。ひとつひとつの練習、ウェイトトレーニング、ランを最後まで突き通す習慣がついていれば、どんな時でもやりきることができる。基礎・基本が大事」

 基本に徹したからこそ、優勝7回を誇る東福岡を5点に抑えることができ、桐蔭学園は4度目の栄冠に輝くことができた。

 最後に「伊藤大祐(早稲田大4年/SO)や佐藤健次など優勝したキャプテンたちと肩を並べましたね」と聞くと、城は「歴代のキャプテンほど活躍していないですが(笑)、みんなががんばってくれたから」と大きな笑顔を見せた。

 たしかに今季の桐蔭学園には、松島幸太朗(東京サンゴリアス/FB)や伊藤大祐、佐藤健次といった超高校級のスーパーエースはいなかった。ただ、練習試合から無敗で駆け抜けて強い桐蔭学園が復活できたのは、どん底からのスタートだったチームを見事にまとめあげたキャプテンのおかげだ。