カゴメが販売する野菜飲料。市場は縮小中だが、機能性表示の「野菜一日これ一本」やトマトジュースの販売は好調だ(撮影:尾形文繁)

野菜飲料の売れ行きが低迷している。

2018年に約2000億円だった野菜飲料の市場規模は、2023年に約1700億円まで落ち込む見込みだ(カゴメ調べ)。

実際、大手メーカーは野菜飲料の販売に苦戦する。

野菜飲料トップのカゴメ。2023年度の飲料カテゴリーの売り上げは、第3四半期時点で前期同期比2%減となった。中でも不調なのが、主力商品である「野菜生活100」。同シリーズの売り上げは2022年度に同4%減、2023年度上半期は同6%減とマイナス基調が続く。

野菜飲料大手の伊藤園では、野菜飲料の販売数量は2022年度に同12%減、2023年度の上半期は同10%減と2桁のマイナスだった。

野菜飲料の原料や資材価格の高騰を受け、伊藤園は2022年7月に、カゴメは2023年2月にそれぞれ値上げを実施した。これが販売数量の減少に影響しているのは間違いない。ただ、5年で300億円の市場規模の縮小は、値上げだけでは説明が難しい。

競合に乳酸菌飲料などの健康飲料

食品や飲料に対する消費者の健康ニーズは強い。にもかかわらず、野菜飲料の不調が続くのはなぜか。

伊藤園の本庄大介社長は、その要因について「乳酸菌飲料などに需要が移っている」と説明する。現に、乳酸菌飲料市場は近年急拡大しており、野菜飲料に肉薄している。


これまで野菜飲料は、「なんとなく健康に良さそう」という理由で選ばれてきた面がある。一方、乳酸菌飲料には「免疫ケア」や「睡眠の質向上」「ストレスの緩和」など、消費者の目的や悩みに対して特定の機能をうたう機能性表示食品が多い。細分化された「わかりやすい」機能性が表示されている乳酸菌飲料に、野菜飲料の需要が奪われている現状がある。

カゴメのマーケティング本部で飲料企画部長を務める西村晋介氏は、乳酸菌飲料やタンパク飲料などの台頭で健康飲料に求められる価値が多様化し、「相対的に野菜飲料の印象が薄れてしまっている」と語る。

「わかりやすい野菜ジュース」は売れている

こうした状況に、メーカーはどう対処していくのか。

戦略の1つは、野菜飲料も「わかりやすく」することだ。

野菜飲料においても、機能性の表示が進んでいる。伊藤園が販売する「栄養強化型 1日分の野菜」。商品1本に1日に必要な野菜量350g分を使用しているだけでなく、食後の「中性脂肪」「血糖値」の上昇を抑え、高めの「血圧」を下げるという3つの機能性をうたう機能性表示食品だ。ダウントレンドが続く同社の野菜飲料の中で、機能性表示食品の売り上げは2023年度上半期で前年同期比18.6%増と大きく伸長した。


カゴメの西村晋介氏は「野菜飲料は情報発信の面で努力不足だった」と語る(撮影:尾形文繁)

同様に3つの機能性をうたうカゴメの「野菜一日これ一本 トリプルケア」も、売り上げは好調だという。

カゴメが販売する野菜飲料の中で好調なのが、トマトジュースだ。2023年1月から9月までの売り上げは、前年同期比で2桁以上増加したという。同社のトマトジュースの大半は機能性表示食品で、「善玉コレステロールを増やす」「高めの血圧を下げる」といった機能性を明示する。これらが50代を中心としたメタボ予防目的の中高年層に支持されているようだ。

積極的な情報発信も大きなポイントとなる。例えばトマトジュースに含まれるリコピンには強い抗酸化力があり、紫外線による肌の赤みや色素沈着などの皮膚ダメージを予防・軽減する効果が期待できる。こうした研究結果をホームページ上に数多く掲載し、商品の価値を根拠とともに訴求している。ここ数年は、リコピンが美容健康意識の高いインフルエンサーから注目を浴びたことで、20代、30代の購買層も増えている。

今後はにんじんに含まれるベータカロテンの価値訴求にも力を入れる考えだ。にんじんは多くの野菜飲料の原料として使われる。そこに含まれるベータカロテンには、肌の表面にシミとして現れる可能性のある「隠れジミ」の予防効果が期待できる。「野菜飲料は他飲料と比べ情報発信の面で努力不足だった。いかに具体的な価値を伝えていけるかが重要だ」(カゴメの西村氏)。

さらに取り組むのが、野菜を摂取することに対する啓蒙活動だ。野菜飲料の需要回復には商品を磨くことも重要だが、前提として、消費者が「野菜を摂りたい」という意識を持つことが必要となる。

厚生労働省によれば、同省が推奨する1日の野菜摂取目標量350グラムに対して、日本人の1人当たり平均野菜摂取量は約280グラムにとどまる。しかもこの目標は、直近の2019年調査までの10年で1度も達成されておらず、摂取量も横ばい程度が続く(厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」)。

一方、カゴメと伊藤園はともに「“自分には野菜が足りている”と思い込んでいる人が多い」との認識を持つ。そのため両社は、消費者の意識を変えるために試行錯誤する。

約30秒で推定野菜摂取量を表示

そこでカゴメが生み出したのが、野菜摂取量測定機「ベジチェック」だ。手のひらをセンサーに当てると皮膚に蓄積したカロテノイド量が測定され、約30秒でタブレット画面上に過去2〜4週間の推定野菜摂取量が表示される。12段階で野菜摂取レベルが判定され、自分に野菜が足りているか否かが簡単にわかる仕組みだ。


カゴメが開発した野菜摂取量測定機「ベジチェック」(写真:カゴメ提供)

2019年のサービス開始以降、健康経営に力を入れる企業や小売店の青果売り場などへ設置を進め、2023年12月末時点のレンタル・リース件数は延べ1500件以上、ベジチェック累計回数は655万回以上に達した。

ベジチェックを設置した一部の小売店では、カゴメの野菜飲料(ペットボトル)の販売金額が前週比145%、スムージーは同222%になったという。「生活者の意識・行動変容をさまざまな手段で促している。野菜飲料の市場全体に良い影響を与えられれば」(カゴメ広報)。

伊藤園は、管理栄養士の資格を持つ社員による「野菜」や「野菜飲料」をテーマにしたセミナーや、野菜飲料を使った料理教室といった「野菜食育活動」を実施している。また、2022年から「野菜・果実マイスター社内検定」という社内資格制度を作り、社内外で情報発信の機会を増やしている。「こうした活動を通じて、日本人は野菜不足だということの訴求に改めて努めていきたい」(伊藤園広報)。

昨今は野菜汁や果汁などの原料の価格高騰が顕著で、カゴメや伊藤園は今年2月にも野菜飲料の再値上げを控える。これにより、短期的にはさらなる販売数量の落ち込みが懸念される。一方、1年間に1回でも野菜飲料を飲む人は2人に1人だといい(カゴメ調べ)、新規顧客獲得のポテンシャルはまだまだありそうだ。いかにわかりやすく栄養価値を伝え、野菜摂取への意識変容を起こせるかが、市場回復・拡大のためのカギとなる。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)