記事のポイント

昨年、バービーを始め、ナイキ、スーパーマリオブラザーズ、テトリスなど、さまざまなブランドや商品を題材にした映画が公開され、ブランドの知的財産(IP)を利用したエンターテイメントがトレンドとなった。

マテル社の取り組みを例に取ると、ブランドの成功には時間と長期的な投資が必要であり、短期的な思考ではなかなか成功しづらいことがわかる。

ブランドIPを成功させるには、ブランドが何を象徴し、どんなストーリーをインスパイアするかを理解し、それに応じたコンテンツを提供する必要がある。


バービー(Barbie)は昨年、全世界で紛うことなきセンセーションを巻き起こした。映画の興行で14億ドル(約2030億円)という高収益を叩き出しただけでなく、ブランドライセンス契約を次から次へと結び、巷のどこを見回してもバービーがいる状態にした。そして当然、その大成功に触発されて他社のマーケター勢も、「うちのバービー・ムーブメントはどうなっているんだ?」と、エージェンシー幹部らを急かし続けている。

バービーだけではない。ナイキ(Nike)や任天堂のスーパーマリオブラザーズ(Super Mario Brothers)、チートス(Cheetos)のフレーミングホット(Flamin’ Hot)、ビーニーベイビーズ(Beanie Babies)、テトリス(Tetris)、ブラックベリー(Blackberry)といったブランド/商品を題材にした、あるいはそれらにインスパイアされた映画が作年、続々と公開された事実からも明らかなとおり、ブランドの知的財産(IP)を利用したエンターテイメントの創造は2023年の一大トレンドだった。

マーケターやエージェンシー幹部らは依然、自社あるいはクライントのブランドをブレイクさせ、カルチャーの一部にする術を模索しており、この流れは今年2024年も続くと思われる。しかしその一方で、バービーが巻き起こした社会現象的ムーブメントは、間もなく一般化することはなく、あくまで例外的存在に留まる可能性も高い。

ブランド側の短期思考ではたどり着けない



「2024年、バービーのコピー&ペーストで成功するものは、まず出てこない」と、ブランドコンサルタント会社ランドー(Landor)のグローバルエグゼクティブディレクターであるマット・キセイン氏は話す。「次のいわゆる『バービー・ムーブメント』、つまり、我々が次に目にする巨大な変革的瞬間が、どこかのブランドがバービーのフォーマットをただ単になぞったからといって、生まれることはないと思う。実際のところ、次に目にするのは、バービー戦略のさまざまな部分を参考にしたさまざまに異なるアプローチの数々だろう」。

マーケター勢はバービーの成功を解体し、その戦略を(あるいは少なくともその一部を)自社ブランドに適用できる方法を模索しているが、いずれにせよ、彼らにはひとつ知っておくべきことがある。マテル(Mattel)は何度もつまずいたにもかかわらず、映画化計画を最後まで貫いた、という事実だ。

この約10年のあいだに、エイミー・シューマー氏やアン・ハサウェイ氏といったスターが同プロジェクトに絡んだ時期もあったが、いずれの話も流れた。バービーの社会現象に繋がった適正な脚本および制作チームをまとめ上げるまでに、同社は何年もの時間を費やした。言い換えれば、ブランド側の短期思考は、IPがバービーの離れ業を再現する可能性を狭めてしまいかねない。

「あれくらい大きなプロジェクトになると、創造的発展に何年も要する場合もある」と、クリエイティブショップであるゲイル(Gale)のチーフブランドおよびエクスペリエンスオフィサー、ウィンストン・ビンチ氏は話す。「一方で大半の企業は四半期ベースで評価されるし、分野にかかわらず、たいていは『今すぐ売上をあげろ』とのプレッシャーをかけられる。そしてそれは往々にして、長期間にわたるブランド構築活動を犠牲にする。最少のマーケティング投資でできるものでないかぎり、あのような巨大な企画がフィニッシュラインを越えるのは非常に難しい」。

長期投資、そして多世代向け



マーケターはブランドIPの活用に努めないほうがいい、と言っているわけではない。2023年に公開された数々のブランド映画が証明しているとおり、ブランドストーリーにオーディエンスの関心を引く多様性と潜在力が備わっているのは間違いない。言いたいのは、カルチャーの真の一部になるために必要なかたちで投資するブランドはごく少ないだろう、ということだ。裏を返せば、ブランドIPをブレイクさせるのに必要な長期投資ができるマーケターには、成功の見込みがある。

とはいえ、投資だけが、時間にしろ予算にしろ、バービーが起こした大波の理由だったわけではない。「バービーというブランドの歴史が有する幅広い魅力がノスタルジアを刺激し、多世代の消費者に訴えかけたのだ」と、電通クリエーティブ(Dentsu Creative)の米CEOであるアビー・クラッセン氏は分析する。「バービーは長い歴史と人気を誇るIPであり、何十年にもわたって文化現象を起こしてきたわけだが、それでいて今もブランドおよびカルチャーとしての浸透力(ペネトレーション)が非常に大きい」と同氏は続ける。

また、「多世代に働きかけるマーケティングは特定の世代に対するそれに比べてはるかに難しいだけに、ブランドIPの活用を考えているマーケターには、世代を超えた魅力を有するIPは極めて強力だ、と知っておく必要がある」と、クラッセン氏は言い添える。「ニッチに留まらずに、そうしたIPのほうが容易に広く社会に食い込んでいけるからだ」。

「どんなストーリーをインスパイアするのか?」を知ること



バービーブランドの幅広い魅力と長寿、そしてそのIP戦略に対する継続的投資が、「何を発信するべきなのか」「その発言に関してどう動くべきなのか」について、マテル側が正しく理解するための一助になったのは間違いない。自らもバービー・ムーブメントを起こそうと躍起になっているマーケター勢は、やみくもにIPを利用して、その場限りの発信をするのではなく、まずは自社ブランドを、そしてそのブランドIPを使って何を発信したいのかをしっかりと見定める必要がある。

独立系ショップのノウン(Known)のトップ、ロス・マーティン氏は、「成功したものについては、ブランドにインスパイアされた正統なコンテンツだと我々は考えるし、だからこそバービーはそうだったのだと思う」と話し、「2023年はおよそ75のクライアントの内、40前後からバービー・ムーブメントに関する問い合わせがあった」と続ける。

そうした状況を踏まえてマーティン氏は、マーケター勢にはまず、「『このブランドは何を象徴しているのか? そしてそれはどんなストーリーをインスパイアするのか?』を知る必要がある。それが2023年から得るべき真の教訓だ」と断言する。

BAVグループ(BAV Group)のチーフストラテジーオフィサーであるローラ・ジョーンズ氏も、同様の見解を示す。「ブランドIPをうまく活用したいなら、ブランドには自身の立ち位置を、そしてほかと比較しての強みを知り、打ち出していきたいその価値に深くしっかりと根差す必要がある」。

無難な領域から出ることをいとわないマーケターのほうが成功しやすい



一方でマーケターおよびブランド幹部らによれば、ブランドIPの利用法はひとつではなく、必ずしも映画やシリーズものに限らないという。

「IP所有者との提携について考える際には、そのパートナーシップをできるだけ興味深いものにし、『普通はこうする』という枠からはみ出すのを恐れないことが肝心だ」と、クリエイティブショップであるジャイアントスプーン(Giant Spoon)の創業者マーク・シモンズ氏は話す。「たとえ予算が限られていたとしても既存の型を積極的に壊す姿勢こそが、そうした会話の出発点であるべきだ」。

無論、型の破り方はブランドによって異なるだろう。必ずしもバービーのような巨大なものである必要はない。ただいずれにせよ、然るべき投資をし、無難な領域の外に出ることをいとわないマーケターのほうが成功しやすいのは間違いない。

「ブランドIPに関して確実に言えるのは、ひとつの決まった型に固執すべきでない、ということだ」と、ロサンゼルスのエージェンシーであるマザー(Mother)でストラテジー部門トップを務めるジェシー・アンガー氏は話す。「然るべきアプローチには、コラボレーションの力が、ファンダムの力が欠かせないと私は信じて疑わない。『このブランドと我々のブランドには興味深い繋がりがあると思う』というだけでまずは十分であり、そこからコラボの構築に何が必要かを考えていく」と話し、次のように続ける。

「ファンダムを巻き込んでもいいだろう。というのも、ブランドがファンダムを招き、ファンダムがそれに応えた瞬間、そのブランドが発信あるいは販売するものが何であれ、ファンたちはそこにはるかに深く入り込んでくれるからだ」。

[原文:What marketers need to learn from breakthrough brand IP like Barbie, Nike, Super Mario Bros. for 2024]

Kristina Monllos (翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)