惑星系の形成と進化を研究する、フランス在住のアメリカ人天文物理学者のショーン・レイモンド氏は、自身のブログ「PLANETPLANET」において「究極の太陽系を構築する」というシリーズの投稿をしています。シリーズの結論としてレイモンド氏は、「可能な限り居住可能な世界を持つ惑星系を構築した」として、どのような太陽系になるのか示しています。

The Ultimate Engineered Solar System - PLANETPLANET

https://planetplanet.net/2017/05/03/the-ultimate-engineered-solar-system/



Build a better Solar System - PLANETPLANET

https://planetplanet.net/2013/06/11/build-a-better-solar-system/

Building the ultimate Solar System - PLANETPLANET

https://planetplanet.net/2014/05/13/building-the-ultimate-solar-system/

レイモンド氏はまず、「より良い太陽系を構築する」と題した投稿の中で、「太陽系は残念です」と述べています。太陽系には森と海が広がって人が住む惑星は1つしかありません。木星の衛星エウロパとガニメデには液体の水があるとされますが、何メートルもの厚さを持つ氷の下に隠されています。また、土星の衛星であるタイタンには大気と湖がありますが、水ではなく液体のエタンからなっています。火星の表面には液体の水があった痕跡が確認されていますが、現在では不毛の砂漠が広がっています。

そこでレイモンド氏は、「太陽系を入れ替えて、居住可能な世界の数を最大化する」という思考実験を開始しました。その際のルールは、「太陽系に実際に存在するものを、存在する数だけ利用できる」「太陽系の軌道、惑星と小惑星の数、惑星の周りの衛星軌道を保持しなければならず、新たに軌道を引くことは禁止」の2点です。

以下は、太陽系の惑星とそれぞれの衛星をスケールに合わせて整理した画像です。



これらの天体を再配置する上でレイモンド氏が重視したのは、太陽系に生命が生まれる必須条件である「液体の水」です。そのためには、水や氷が存在する天体を水が液体の状態を保つのちょうどいい熱および熱源があるエリア、つまりハビタブルゾーンに置かなくてはなりません。

ハビタブルゾーンに配置することで生命が誕生する可能性のある天体は地球、金星、火星、木星の衛星であるガニメデとエウロパ、カリスト、土星の衛星タイタン、海王星の衛星であるトリトン、およびいくつかの小惑星です。

これらを整理した結果、以下のような図をレイモンド氏は「より優れた太陽系」として示しています。まず、火星を現在の金星の軌道、すなわち緑色で示したハビタブルゾーンの中で最も太陽に近く高温で乾燥した位置に配置しました。地球の位置は変更していませんが、土星と衛星を交換し、土星には月を、地球にはタイタンをつけました。ハビタブルゾーンの最も外側には木星が配置され、木星の衛星としてエウロパとガニメデに加えて、小惑星のエリスと金星が位置しています。これにより、「居住可能な世界が7つ考えられるようになりました」とレイモンド氏は語っています。



太陽系を最適化するのに満足したレイモンド氏は、次に「可能な限り居住可能な世界を持つ、究極の太陽系を構築する」という思考実験に着手しました。最初に設定した「太陽系の天体および軌道をそのまま使う」というルールは排除し、「太陽系のシステム上可能な範囲で、居住可能な天体および軌道を詰め込む」という方法を考えています。重要になるのは、惑星が近づきすぎるとお互いの質量の影響を受けることで、軌道が安定しなくなる点。また、軌道が近すぎると重力の影響が繰り返されて軌道がゆっくりと延長し、やがて軌道が交差して衝突したり星間空間にはじき飛ばされたりすることになります。

天体の周りにおける重力の影響範囲はヒル球と呼ばれており、ヒル球の半径だけ離すことで、惑星軌道が安定すると考えられます。レイモンド氏によると、太陽系の場合で地球のヒル球を考慮すると、ハビタブルゾーンに6つの同心円軌道が収まるとのこと。つまり、6つの地球軌道がハビタブルゾーン内に配置できると考えられますが、「ここで重要なのは6つの軌道に『最大6つの地球』ではなく、『最低6つの地球』を配置できるということです」とレイモンド氏は述べています。



さらに、レイモンド氏は「衝撃を受けた研究」として、スタンフォード大学機械工学科のアンドリュー・スミス氏とアメリカ航空宇宙局の研究センターに勤めるジャック・リザウアー氏が2010年に発表した論文を挙げました。この研究によると、1つの軌道上には最小で7個、最大で42個の地球を配置できるとのこと。

スミス氏らが、実際に地球の軌道に沿って収まる最大の数である42個の地球を配置したシミュレーションを行った結果、何十億年もの間完全に安定していることが判明したほか、この論文を受けてレイモンド氏が実施した独自のシミュレーションでもうまくいったことが確かめられました。

結論として、「6つの軌道上に、42個の地球型惑星、合計252個の居住可能惑星」がハビタブルゾーンに収まって、安定した状態を保つと考えられます。ただし、軌道上に配置できる数は惑星の質量に影響されるため、質量が地球の約10分の1である火星の場合は13の軌道に89個の惑星で合計1157個、地球の約10倍である海王星や天王星だと3つの軌道に19の惑星で合計57個の惑星が配置できることになります。



レイモンド氏は最終的に、「究極の太陽系」として以下のような図を示しています。ここでは、できる限り安定した上で最大数の惑星を配置するために、8つの軌道上にさまざまな種類の天体を配置し、合計416個の惑星系を展開しています。実際の恒星系でこのような配置になることはほぼありえない惑星の数であり、これが実現するとしたら超知的高度文明によって意図的に設計されたものとなるため、レイモンド氏はこのモデルを「究極の人工太陽系」と呼称しています。