「JGC修行」事実上の”終了” JALグローバルクラブ刷新で見えてきた真の狙いとは【コラム】
日本航空(JAL)は、JALマイレージバンクの上級会員組織である「JALグローバルクラブ(JGC)」を刷新し、上級会員の囲い込み戦略を大きく転換する。
筆者は昨年12月に刷新がアナウンスされた際に分析したが、概ね予想通りの結果になったと言えるだろう。
今回の記事ではこの新プログラムとJALグローバルクラブ刷新の真の狙いを探っていく。
新プログラム「JAL Life Status プログラム」とは?
2024年1月から新たな生涯実績プログラム「JAL Life Status プログラム」を開始する。このプログラムはJALの搭乗実績や、JALカード、JAL Mallなどの利用実績を生涯にわたり「Life Status ポイント」として蓄積する。そしてそのポイントをもとに、JALや提携社がさまざまな特典を提供する。
入会すると、搭乗時のラウンジ利用や手荷物の優先返却、マイルボーナスなどの上級会員としての特典がうけられる会員組織「JALグローバルクラブ」の制度は、この「JAL Life Status プログラム」に取り込まれる形になる。
「JAL Life Status プログラム」が開始しても、JALグローバルクラブの既存会員の資格や、ラウンジアクセスなど航空機搭乗時の特典は原則維持される。一方、大きく変わるのが、JALグローバルクラブの入会基準だ。今までは1年間の実績をもとに、JALグローバルクラブの入会基準が判定されていた。JALグローバルクラブの入会基準が、生涯にわたるポイントの蓄積で判定されることになる。
「JGC修行」が事実上”終了”
JALグローバルクラブの入会基準の判定期間が1年間から生涯に変わることにより、この入会基準を満たすために航空機に搭乗するという、いわゆる「JGC修行」も大きく変わる。
「JGC修行」とは、JALグローバルクラブの入会基準を満たすために、集中的に航空機に搭乗することを指す。日本地区のJALマイレージバンク会員で、必要なクレジットカードをもっている場合、ざっくりいえば、50回搭乗するか50,000 FLY ON ポイント(FOP)の獲得が必要だ。この入会基準をみたすために「回数修行」または「FOP修行」を行うというのが「JGC修行」であった。
従来できた「JGC修行」は、1年間(1月から12月)の搭乗実績でJALグローバルクラブの入会基準が判定されるので、それを満たすように飛行機に乗れば、仮にそれまでJALに乗ったことがなかったとしても、今まではJALグローバルクラブに入会できたというわけだ。
だが、2024年からは先述の通りJALグローバルクラブへの入会基準が変わる。JALグローバルクラブに入会するには、生涯に渡って貯まる「Life Status ポイント」を1,500ポイント獲得する必要がある。
現在公表されているサービスごとの獲得ポイント数は、JAL国内線1搭乗で5ポイント、JAL国際線1,000区間マイル(搭乗)で5ポイント、JALカード2,000マイル獲得で5ポイントなどとなっている。
新しいJALグローバルクラブの入会基準であるに1,500ポイントを獲得するには、仮に国内線だけを利用するなら300回、国際線では合計30万マイルを搭乗する必要がある。東京〜ニューヨークが約6,000マイルだから、国内線、国際線ともに今までの50回搭乗または50,000 FLY ON ポイントの「JGC修行」よりはるかに難易度が高いことがわかる。
つまり、JALグローバルクラブに入会するための、飛行機に短期間で集中的に乗る「JGC修行」は終わったと言っても過言ではない。
「修行しなくても上級会員になれる」ミドル層取り込み
ここからはJALがこの変更を通してどのようなことを狙ったのか、探っていきたい。
入会基準が「Life Status ポイント」に変更になり、2023年までの搭乗実績がJAL国内線1搭乗で5ポイント、JAL国際線1,000区間マイル(搭乗)で5ポイントで算入される。これにより、今までJALグローバルクラブに入会できなかった人も、搭乗実績によりJALグローバルクラブに入会できるチャンスが発生する。例えば、25年間毎月1回(国内線1往復)のみJALに乗っていたいわゆる「出張族」の人の場合、今まではJALグローバルクラブの入会基準を満たせなかったが、国内線の搭乗実績により、JALグローバルクラブの入会基準を満たす。
上記はあくまで一例だが、国内線・国際線ともに利用してきたが、毎年JALグローバルクラブに入会できるほどではなかったという「ミドル層」のJALグローバルクラブへの入会チャンスがぐっと近づく。
JALグローバルクラブは、所定のカード年会費が必要になるが、ラウンジや手荷物の優先返却、マイルボーナスなどのベネフィットがあるから、JALにある程度乗ってきたユーザーには年会費の元を取れるほどのベネフィットがあるだろう。
JALグローバルクラブへの入会は、JALにとってもメリットだ。JALを選んで乗っていた利用者との接点が増加し、さらにJALに乗ってもらうことが容易になる。競合他社と同じ条件の場合、JALを選んでもらえる確率がぐっと上がる。
「ミドル層」の取り込みにおいて、今回の「JAL Life Status プログラム」は大きな役割を果たすだろう。
「FLY ON ポイント」のキャンペーンが増え、「ダイヤモンド」会員になりやすくなる?
今回の刷新で、筆者が注目しているのは「FLY ON ポイント」についてだ。「FLY ON ポイント」は上記の通り、JALグローバルクラブの入会基準として使用されているほか、JALグループ便・ワンワールド アライアンス加盟航空会社便の搭乗が多いJALマイレージバンク会員向けのサービスステイタス(ラウンジ、手荷物優先返却、マイルボーナスなど)提供のための、1年単位の判定基準としても利用されている。
今回の刷新で、「FLY ON ポイント」はJALグローバルクラブの入会基準としては使用されなくなる一方、今まで通り、サービスステイタスの基準としては継続使用される。
筆者は、「FLY ON ポイント」がJALグローバルクラブの入会基準から切り離されることで、JALグローバルクラブの会員数の増加など累年的な影響を考慮する必要がなくなり、柔軟に倍付けなどのキャンペーンを行うことができるのではないかと考えている。
JALグローバルクラブの入会基準を切り離したことにより、「利用低調な特定の路線に搭乗すると、FOPが5倍もらえる」、「10回搭乗すると10,000ボーナスポイント付与」などキャンペーンができれば、利用者は「JMBダイヤモンド」「JGCプレミア」を目指しやすくなり、利用者も最上級ラウンジ(JALファーストクラスラウンジ、ダイヤモンド・プレミア ラウンジ)へのチャンスが広がる。JALとしても利用促進につなげることができ、Win-Winだ。
ワンワールドは他の航空連合(ANAが加盟するスターアライアンスやスカイチーム)と異なり、加盟航空会社の上級会員用ラウンジが利用できる「サファイア」の上に、最上級会員用ラウンジが利用できる「エメラルド」ステイタスがあり、ロンドンやニューヨークなど主要都市では、利用できるラウンジが各ステイタスで異なっている(別にファーストクラス利用者向けなどのラウンジが設定されている場合もある)。
このため、JALグローバルクラブを取得して半永久的に上級ラウンジが利用できるようになったとしても、最上級の「エメラルド」ステイタスを取得すれば、さらに上のランクのラウンジが利用できるなどのベネフィットが受けられる、他航空連合と差別化できる大きなメリットが存在する。
筆者はここに注目し、なるべくJALやワンワールド加盟航空会社を利用するようにしている。いわゆる修行をせずに上級会員(現在JMBダイヤモンド)になってしまっているが、それでも今後も最上級ラウンジが使えるようにできたらよいと考えており、そのためにフライトでどのくらい「FLY ON ポイント」が貯まるかを気にしている。
「FLY ON ポイント」の柔軟なキャンペーンで、筆者のような利用者層を含めさまざまな利用者を取り込めるようになるのではと期待している。
「修行」“終了”でJALグローバルクラブの入会基準が健全化 今後の戦略に期待
いままでは、JALに1回も乗ったことがない人でも、比較的短い期間で「修行」すれば入会基準を達成でき、「上級会員」として優遇されるというちぐはぐな状況であった。これが今回のプログラム刷新で、半永久的な会員組織であるJALグローバルクラブの入会基準が、生涯にわたるJALグループのの利用実績により判定されるという極めて理想的な状況になった。
生涯の利用実績によって「上級会員」として優遇されるようになったこの刷新は、真の「お得意様」を優遇するための重要な転換だろう。JALは「お得意様」にとって魅力的な航空会社としてあり続けられるのだろうか。今後の戦略から目が離せなさそうだ。