JALが導入する予定の新型機「737MAX」。この機は導入まで、紆余曲折を経験したモデルとして知られています。新造機の安全性をプロの目から確認する「領収検査員」から見て、この機はどのように映るのでしょうか。

運航再開後は安全に飛び続けている

 JAL(日本航空)が2026年に、新型旅客機「ボーイング737MAX」のひとつ「737-8」の運航を開始する予定です。この737MAXはJALをはじめ国内航空会社3社が導入を決定していますが、それまでに紆余曲折があったモデルです。JALでは新造機の製造が安全・品質上問題ないかを細かくチェックする業種「領収検査員」を配備していますが、彼らの目から見て、「737MAX」はどのように見えているのでしょうか。


JALのボーイング737-8のイメージ(画像:JAL)。

 ボーイング737MAXは2016年に初飛行した、ロングセラー機737シリーズの最新モデルです。大型で効率の良いエンジンの採用や操縦システムの改修などが加えられており、騒音抑制のためエンジンカバー後部がギザギザになった機構「シェブロンノズル」が外観上の特徴です。JALでは、737MAXの標準タイプである「737-8」を導入予定で、現在同社の小型主力機である737-800の後継機となります。

 その一方で737MAXは、これまで順風満帆に運航を続けてきたモデルとはいえませんでした。

 というのも、2018年にジャカルタで、2019年にエチオピアで連続して墜落事故が発生。これにより、各国の航空当局で1年9か月ものあいだ、運航停止措置がとられていました。

 ボーイング社では、停止期間中に、事故の発端とされた「迎え角センサー」システムの誤作動防止や異常検知機能の追加、迎え角センサーの警告表示の見直し、飛行マニュアルの改定などを実施。2020年12月の運航開始後は安全に運航を継続しています。

 この問題の対策がきちんと練られ、かつそれが実績に現れていることが、JALがこの機を発注した決め手となったと見て間違いないでしょう。

新造機の番人」に聞く、737MAXの強み

 そのようななか今回お話を伺ったのは、ボーイングのお膝元、シアトルでJAL機の領収検査員を務める鈴木正美さんと近藤信之さんとです。


左から鈴木正美さんと近藤信之さん。ボーイング社のレントン工場内で(乗りものニュース編集部撮影)。

 領収検査員は、航空機メーカーが新型機を組み立て、航空会社に引き渡すまでのあいだ、その機の組立状況をチェックするという特殊な業務で、選りすぐりの航空整備士のなかから選ばれる、“新造機の安全の番人”ともいえる存在です。

 2人のJAL領収検査員は、ボーイング737-8の強みを次のように評価します。

「運航時間という意味では、737シリーズは膨大な時間をすでに経験しており、過去の経験を利用して改良した派生型なので、信頼性という意味では非常に高くなっています。また、エンジンの静音性や燃費効率なども、現行である737-800と比べても非常に素晴らしいものになっていると思います」(鈴木さん)

「(同機を)各航空会社が発注されているのは、まったくのブランニューモデルではなく、資格や整備面、過去のものを最大限利用した形で飛行機を作っているため、パイロットやパイロットの資格取得、施設投資などをイチからやり直さずに済む、ところだと思います」(近藤さん)

 また2氏によると、「飛行機は新型になるにつれ、整備性や点検項目が少なくなっている。もちろんそういった観点においても、整備士フレンドリーになっているし、737-800で見られることが多かった不具合についても改善を試みているようで、737-8は評価できる機体だと思う」とコメントします。

 とはいえ、JALむけの737-8の初号機は、2023年10月現在では、まだ製造すら始まっていない状況にあります。しかし、2人の領収検査員は、同型機の導入にむけ、下準備を進めています。

プロの目から見る「737MAXはこんな飛行機」

 鈴木さんは「導入にあたりすでに737-8を使用している航空会社の方にもお話を伺うのですが、不具合が少ない飛行機だそうです」とし、「導入後、気が付かないうちに整備士の業務負荷が減るような、そんな飛行機なのかもしれません。これは(これまで2氏が領収検査を行ってきた)787型でも気づいた点ですが、同じことが737-8導入でも起きるのではないでしょうか」と話します。

 そのような737-8は、更新対象となっている737-800と比較して、領収検査員の目から見ると、どのような印象をもっているのでしょうか。


JALボーイング737-800(乗りものニュース編集部撮影)。

「私が見ている限りは、新型機ではあるものの、これまでの領収検査とそれほど大きな違いは生じないと思います。737-8は現行の737-800と同じく、アルミニウム製の翼・胴体ですから、構造部材に関して注意しなければならないところは、これまでの機種と同じです。最終組み立て地であるボーイングのレントン工場は以前に比べてさまざまな改善がなされていて効率化が図られていますので、そういった点は追加で注意する必要がありますが、我々が見なければならないポイントは大きくは変わらない、といった印象です」(近藤さん)

「むしろ、かつて整備していた747などをはじめとしたアルミ構造の飛行機には数多く関わってきましたので、若い頃の血が騒ぐといった感じです」(鈴木さん)

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