ほら・はやお/1947年生まれ。1971年東京大学法学部卒業、旧運輸省入省。国土交通省航空局長などを歴任。2007年から全日本空輸の常勤顧問や副社長を務める。2018年スカイマーク顧問就任。2020年2月から現職(撮影:今祥雄)

スカイマークが揺れている。

2015年の経営破綻以降、同社の再建に大きな役割を果たしてきたインテグラルが11月14日に保有株式の過半を譲渡した。これによりインテグラルの保有比率は20%から7%となり筆頭株主ではなくなる。

衝撃だったのは株式の譲渡先だ。株式の13%を取得しスカイマークの筆頭株主となったのは、静岡の名門企業・鈴与ホールディングス。同社グループには東海地方を地盤とするフジドリームエアラインズ(FDA)がある。FDAは日本航空(JAL)とコードシェア(共同運航)をしている。

今回の株式譲渡によって筆頭株主は鈴与、2位株主はANAホールディングスとなる。大株主2社が競合という極めて異例の状態に突入する。(詳細は11月9日配信記事:スカイマーク株を電撃取得、大株主「鈴与」の衝撃

そのほかにもスカイマークは、パイロット組合との労使問題や国土交通省OBが社外取締役に就任したことなどでも注目を集めた。今後のスカイマークはどこへ向かうのか。東洋経済は決算会見の直後である11月15日に同社の洞駿(ほら・はやお)社長を独占インタビューした。

「驚いたが、安心もしている」

――鈴与グループが筆頭株主となりました。

初めて聞く名前だったので驚いたが、安心もしている。

鈴与は江戸時代から続く老舗企業で、非常に安定した経営をしていると認識している。そのグループ企業であるFDAは、羽田空港と地方空港を結ぶのではなく、地方と地方を結ぶことで地域活性化につなげるという崇高な理念を掲げている。これはスカイマークと通ずる部分もある。

われわれは安全な運航品質で、フルサービスキャリアと遜色ない簡素だけど心のこもったサービスを身近な運賃で提供している。ANAとJALとは異なるサービスを提供し、これを徹底することで国民の足となる。利益だけを追求しているわけではない姿勢がFDAと通じていると思う。

インテグラルは投資ファンドであるため、いずれイグジットをするのは想定内だった。会社としては、当社の存在意義、ビジネスモデルを理解してくれる株主に売却してほしいという希望を伝えていた。

鈴与側とは(株式譲渡の)リリースが発表されたあとに挨拶があった。彼らも思惑があって当社の株主になったのだろう。具体的な連携などについて話が出てくれば是々非々で議論をして、ウィンウィンの関係を作っていきたい。


レジャー需要を追い風に10月は9割近い搭乗率を達成した(撮影:尾形文繁)

「経営の腕の見せどころだ」

――航空事業者2社が大株主になります。どのように独立性を維持していきますか。

大株主にANAHDと、JALとコードシェアをしているFDAがいる。一見、相反する関係の株主が当社に名前を連ねているのは、外から見たら面白い構図だと思う。

だが、独立を維持していくのは難しいことではない。われわれ経営陣は株主の理解を得つつ、独自の方向を堅持していく必要がある。そこは経営の腕の見せどころだと思う。

――FDAやANAとコードシェアなど連携を深める可能性はありますか。

コードシェアをする予定はない。FDAはJALとコードシェアをしているため、当社とコードシェアをするのは難しいだろう。

そもそもスカイマークは(以前から大株主である)ANAとコードシェアをしていない。いまの当社は座席が足りない路線ばかり(編集部注:スカイマークの10月の座席利用率は88.8%と業界でも高水準)で、コードシェアをする必要がない。

一方で非競争分野では協調できるものはしている。ANAとは、機材や部品を融通している。


静岡空港や県営名古屋空港を地盤とするフジドリームエアラインズ(撮影:尾形文繁)

FDAと路線では競争していないが、仙台空港(宮城県)でグランドハンドリング業務を鈴与グループに委託しており、今後も下地島空港(沖縄県)でお願いをする(編集部注: 12月1日からグランドハンドリング業務を委託予定)などお付き合いがある。こうした分野でシナジーを拡大していくことについて鈴与グループは期待しているかもしれない。

経営破綻後、社員の意識改革が進んだ

――インテグラルが筆頭株主から外れますが、改めてインテグラルが果たした役割について教えてください。

ANAらとともに民事再生からの速やかな復興に当たって、旗振り役をしてもらった。感謝をしないといけない。

経営破綻後の大きな変化としては社員の意識改革がある。経営破綻前は定時制、顧客満足度ともに低かった(編集部注:2014年の定時制は10企業中9位、顧客満足度は12企業中8位)が、現在ではどちらもナンバーワンだ。

例えば手荷物の返却ではできるだけ短時間で行うようにしている。空港に到着して手荷物受取場に行くと、もう手荷物がコンベヤーの上を回っている。これらは現場の社員が考えてやったことだが、その現場力を引き出したのはインテグラルをはじめとした大株主だ。

――今年6月、洞社長と同じ出身母体である国交省の佐藤善信元航空局長が社外取締役に就任しました。空港施設の国交省人事介入問題があったこともあり、注目を集めました。

国交省の人事介入と同じ問題として取り上げられるきらいがあったが、それとはまったく違う。非常に迷惑だった。優秀な人材を発掘して引っ張ってくるのは当たり前。私が佐藤氏にオファーをした。

佐藤氏は、航空分野はもちろん観光分野の事情にも精通している。ANAやJALの人も彼の元に相談に行くぐらい頼りになる極めて優秀な有識者だ。もともと当社の社外取締役は法律家、会計士、学者で、航空の専門家はいなかった。彼を迎えたことで取締役会は活発化している。

人材不足はスカイマークの大きな課題

スカイマークは歴史が浅く、いろいろな出来事があり人が辞める。プロパー社員も育ちつつあるが、歴史の長いANAやJALと比べると人材不足は当社の大きな課題だ。スカイマークの成長のために資することであるならばどんどんやっていく。

――今年3月に結成された「乗員(パイロット)組合」と一時対立しましたが、現在の労使関係はどうなっていますか。(詳細は6月5日配信記事:スカイマーク「組合軽視」が招いた一触即発の事態)

非常に友好的な関係となっている。最初は認識の違いがあり、混乱した。それが解けたいまは緊密な意見交換をしている。乗務組合と会社は同じ方向を向いている。

2023年6月には労務室を立ち上げ、コミュニケーションの仕組みやルールを作った。ANAから労務担当社員などを派遣してもらう必要性は感じていない。

――2025年に羽田発着枠が再配分されます。枠獲得の自信はありますか。

羽田の発着枠再配分については、どういう方法で実施するかなど、当局はまだ明らかにしていない。だから今の段階では自信があるかないかについては何とも言えない。

ただ従来の評価項目は、運賃低減にどれくらい努めたか、羽田発着枠の有効活用、安全の確保などだ。それらで配点をするのであれば当社はそれなりの点数をもらえると思う。羽田以外では、当社が就航している神戸空港と福岡空港は発着枠が増えるから、当社の発着枠が増える可能性はある。

「今後の成長のために国際線は不可避だ」


国交省時代は航空局長以外にも、国土交通審議官や自動車交通局長など主要ポストを歴任した洞社長(撮影:今祥雄)

――国内線のみでは成長の余地は限定的です。国際線就航の可能性はありますか。

国内線は発着枠の増加に加えて機材の大型化の予定がある。また新規路線を就航すれば潜在需要などを掘り起こすこともできる。今まで以上に顧客を獲得する余地はある。

2027年度までの中期経営計画の間では国際線の再開は決めていない。しかし、今後の成長のために国際線は不可避だと思っている。どこへ飛ぶかは白紙だが、準備は始めていきたい。

(星出 遼平 : 東洋経済 記者)