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京セラ創業、KDDI躍進、JAL再建――稀代の名経営者、稲盛和夫は何を考えていたのか?
2つの世界的大企業、京セラとKDDIを創業し、JALを再生に導きますが、稲盛和夫の経営者人生は決して平坦なものではありませんでした。1970年代のオイルショックに始まり、1990年代のバブル崩壊、そして2000年代のリーマンショック。経営者として修羅場に置かれていたとき、稲盛和夫は何を考え、どう行動したのか。この度、1970年代から2010年代に至る膨大な講演から「稲盛経営論」の中核を成すエッセンスを抽出した『経営――稲盛和夫、原点を語る』が発売されます。刊行を記念して、本書の一部を特別に公開します。

過大なインセンティブは、経営者を堕落させる

 経営者が企業のリーダーとして、すばらしい才能をもち、多大な貢献をはたしているならば、その働きにふさわしい処遇を与え、さらに力を発揮してもらう。

 そのようにして企業の業績を伸ばしてもらうことは、従業員にとっても、株主にとっても、さらには社会にとっても良いことです。

 私も、経営者が業績に応じて報酬を受け取る、いわゆるインセンティブの必要性を、全面的に否定するものではありません。しかしそれがあまりに高額であれば、問題となると考えています。

 まず経営者と従業員の収入格差の問題があります。この二〇年で、米国の最高経営責任者(CEO)の報酬は四〇倍以上に増えたものの、一般労働者の報酬は二倍止まりだという報道もあります。そのように収入格差があまりに拡大することは、企業内のモラルを維持するにあたって大きな障害になります。

会社や従業員よりも、お金を優先する経営者

 次に、あまりに高額の報酬やストックオプションは、経営者自身の精神を堕落させてしまうという問題もあります。莫大な報酬やストックオプションの権利が与えられると、たとえ立派な人格をもつ経営者であったとしても、いつの間にか自分の利益を最大化することのほうに関心が向くようになってしまうことでしょう。

 そして、会社や従業員のことよりも、株価をいかに高く維持し、自分の利益を増やすかということに、腐心するようになってしまうのです。事実、エンロンやワールドコムの事件も、株価を高く維持しようとして、経営者が不正会計処理を指揮したと言われています。

 あまりに高額のインセンティブは、経営者の精神を麻薬のようにむしばみ、その倫理観を麻痺させてしまいます。企業を健全に成長発展させる上では、そのような現在の経営システムは見直すべきだと考えています。

リーダーの選任にあたって最も大切なこと

 しかし私は、先進諸国の経済社会が現在直面する、企業の統治の危機を未然に防ぐには、経営システムや経営者の処遇の問題だけではなく、経営者の資質という根本的な問題についても、改めて考えるべきだと思うのです。

 およそ一三〇年前、西郷隆盛という傑出したリーダーが、明治維新という革命を成し遂げ、日本に近代国家への道を切り開きました。西郷は私心のない清廉潔白なリーダーとして、今も多くの日本人の敬愛を集めていますが、リーダーの選任にあたって、最も大切なことは次のようなことだと述べています。

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