W杯予選の戦い方(後編)

 きたるべきW杯2次予選を日本代表はどのようなチームとコンセプトで戦うべきか。長く代表を取材してきたジャーナリスト4人の見解はある意味で一致していた。果たして、森保ジャパンに招集されるメンバーは――。

「欧州組にとって代表活動での消耗は本末転倒」

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

「(コンディション的に)きついですけど、なんとか(日本に)戻ってきた感じです」

 10月の日本代表戦を前に久保建英がそう発言したことにより、にわかに「代表招集の是非」がトピックに上った。

 まず、久保がこうした発言をしたことを、「日の丸を背負う気持ちが入っていない」などと批判するのは言語道断である。過去、この手の発言は表にほぼ出ていない。選手は「呼ばれなくなるかも」「非国民のように扱われる」というネガティブな反応を気にするのだろう。

 しかし今回、三笘薫は代表招集を「辞退」と報じられたが、鎌田大地、堂安律も「コンディション不良で選外」というより、事実上の「辞退」と捉えたほうが筋は通る。なぜなら、3人とも前後の試合には出場しており、力試しになるとは思えない格下との親善試合で日本に帰国する消耗のリスクを避けた、としか考えられないからだ。

 欧州組は、今や80人前後もいる。彼らは「日本サッカー」の看板を背負って最前線で戦っている。代表活動で消耗させるなど本末転倒と言える。

 勝敗を考慮に入れると、"総動員"で呼び戻したいのだろうが......。森保一監督は、この現実をどう受け止めているのか?


スペインリーグ、チャンピオンズリーグで厳しい戦いを続けている久保建英 photo by Sano Miki

 11月に日本は2026年W杯アジア2次予選を戦う。大阪でミャンマー戦(16日)を行ない、その後サウジアラビアのジッダに移動し、中立地でシリア戦(21日)。移動距離だけでなく、同じアジアでも気候や文化はまるで違い、厳しいスケジュールと言える。

 久保、三笘、鎌田、堂安、上田綺世、古橋亨梧、旗手怜央、前田大然、守田英正、遠藤航、冨安健洋など、チャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)の真っ只中にある選手は、その多くが選出を免除されるべきだろう。

【1月のアジアカップでも欧州組は絞って】

 繰り返すが、彼らは欧州で日の丸を背負って戦っている。そこで全力が出せるように配慮すべきだ。

 ミャンマーもシリアも、あるいは北朝鮮も、国の情勢を含め、恐れるような実力の相手ではない。代表招集をどこまで絞るか――。その調整は難しいが、少なくとも久保、三笘、鎌田、堂安を全員呼ぶことはないだろう。アタッカーは、守備的な選手よりも心身の負担が大きい。ひらめきや体の切れが要求されるポジションだけに、疲労がたまるとパフォーマンスが簡単に低下する。そこで無理をするとケガにもつながるのだ。

 では、たとえばリバプールのMF遠藤は呼ぶべきか。主将である彼自身は、「(招集の負担を)なんとも思わない」と、発言しているし、ポジション的にも疲労の影響を受けにくい。守備のフィルターとして、ほとんどの危険を質朴なプレーで回避できるし、チームを落ちつかせられる。チームは彼がいれば大崩れすることなく、攻撃陣に新鋭選手が多くなっても、ある程度、力を出させることができるはずだ。前出のアタッカーたちとは別扱いで招集するという判断は十分、あり得るだろう。

 W杯2次予選、日本のメンバーはJリーグ勢を中心に、欧州の一部とMLS、Kリーグ、カタールリーグなどの選手で十分ではないか?

「負けたらどうする?」という不安は残るが、ここで総動員をかけないと戦えないなら、W杯でベスト8以上など夢のまた夢。森保一監督の手腕こそ、問われるべきだ。

 来年1月にはアジアカップが開催されるが、やはり欧州組はメンバーを絞るべきだろう。遠藤を中心に守りを固め、復活を期するモナコの南野拓実らを抜擢するなどし、いわゆるBチームになっても十分に戦える。むしろワントップのポストワークに関しては、国内にいるヴィッセル神戸の大迫勇也や鹿島アントラーズの鈴木優磨のほうが適性はあるのではないか。

 率直に言って、アジアカップのタイトルよりもCLやELを勝ち抜くほうがブランド価値は高い。森保ジャパンは新たなフェーズに入るべきだ。

【代表でもプレータイムの管理を】

「ステークホルダーは時代の変化に対応を」

中山淳●文 text by Nakayama Atsushi

 W杯予選は何が起こるかわからないので、毎試合ベストなメンバーを編成したい。現場を預かる監督やコーチングスタッフが、そんな気持ちになるのも理解できないわけではない。しかし、それにしてもアジア出場枠が「4.5」から「8.5」にほぼ倍増した今回のW杯アジア予選のレギュレーションを考えれば、従来と同じ考え方でチームを編成することに賛同できないのも事実だ。

 少なくとも、シリア、北朝鮮、ミャンマーと戦うアジア2次予選は、ベストメンバーで挑まなければいけない理由は、ビジネス面以外には見当たらない。

 現在の日本代表は、その9割近くがヨーロッパのクラブでプレーする選手で占められている。とりわけ今シーズンは、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグといったヨーロッパカップ戦に出場する選手も多く、所属クラブの首脳陣は、いかにして過密日程を乗り越えるかを考えながら、選手をやり繰りしながらスタメンを編成している。各選手のプレータイムを徹底的に管理するのが常識になっている。

 そんななか、短期間で長距離移動を強いられる日本代表選手が毎回アジア2次予選に招集されるとなれば、せっかくクラブが管理するプレータイムの意味も薄れてしまう。プレータイムが増えれば、すなわちケガのリスクは確実にアップする。ケガをすれば、その選手のキャリアにとってマイナスでしかなく、場合によっては台なしになるケースも考えられる。

 そもそもヨーロッパでプレーする選手たちにとっても、日本代表にとっても、アジア2次予選で得られるメリットは、「予選突破」という結果以外はほぼ存在しない。ヨーロッパ組の疲労蓄積やケガのリスクを考えれば、招集を強行することは百害あって一利なしと言っても過言ではない。

 そんなリスクを冒すなら、日本国内でプレーする選手たちの国際経験を積ませたほうが、よほど今後の日本代表のプラスになるはずだ。もし国内組だけでは不安ならば、ヨーロッパカップに出場していないヨーロッパ組に限定して招集し、そのうえでしっかりと各選手の代表でのプレータイムを管理して、疲労をできるだけ残さない状態でクラブに戻れるような起用方法を考えるべきだろう。

 現在の日本サッカー全体の戦力を考えれば、国内組だけでチームを編成しても、2次予選で躓くことはもはや考えられない。たとえ11月の2次予選2試合の後の代表活動が来年のアジアカップ本番だとしても、グループステージの戦いのなかで、選手たちはチームのコンビネーションもアジャストできるはずだ。

 時代は明らかに変化した。日本サッカー協会、現場スタッフ、そしてスポンサーなど各ステークホルダーには、その時代の変化に対応することが求められている。