日本代表はW杯2次予選をどう戦うべきか「ベストメンバーを崩して戦うべき」識者4人が提案する
W杯予選の戦い方(前編)
11月16日のミャンマー戦を皮切りにスタートする日本代表のW杯アジア2次予選。だが、今回のW杯予選には前回までと異なる点がふたつある。ひとつはW杯出場国が32カ国から48カ国に増え、アジアの出場枠も「8カ国+大陸間プレーオフ出場1カ国」に増えたこと。もうひとつは現在の代表チームがほぼ、欧州でプレーする選手で占められていることだ。こうした事態に日本代表はどのようなコンセプトで臨むべきなのか。長らく日本代表を取材してきた4人のジャーナリストが出した答えとは――。
「日本代表がW杯出場を逃す可能性は皆無である」
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
優先順位の高い選手から順に招集していく方法は、いまの日本の事情にそぐわない。現状でベストな23人を選ぶことは、むしろ代表強化の足枷になる。枠が8.5に拡大されたW杯アジア予選で日本が本大会出場を逃す可能性は皆無。来年1月に行なわれるアジアカップにしても、日本のレベルは大会のレベルを大きく上回っており、好勝負になるのは準決勝と決勝ぐらいに限られる。それは日本に手を抜く余裕があることを意味する。森保ジャパンに問われているのはその方法だ。
アジアカップは決勝戦が2月11日で、欧州カップ戦(チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ)が再開されるのは2月13・14日だ。少なくともそこに出場する選手はアジアカップのメンバーから外すべきである。日本代表の一員としてアジアカップを戦うより、個人として欧州カップ戦の終盤の戦いに臨んだほうが、2026年W杯本大会を考えたとき日本代表の将来にとって有益だ。
プレミアリーグ、ヨーロッパリーグで長時間出場を続ける三笘薫 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
今季、欧州のカップ戦に出場している遠藤航(リバプール)、冨安健洋(アーセナル)、鎌田大地(ラツィオ)、久保建英(レアル・ソシエダ)、古橋亨梧、前田大然、旗手怜央(セルティック)、上田綺世(フェイエノールト)、三笘薫(ブライトン)、守田英正(スポルティング)、堂安律(フライブルク)、町田浩樹(サン・ジロワーズ)のなかで、決勝トーナメント進出を決めたチームの選手は、招集外でいい。
【出来上がった代表の状態は2年半も続かない】
とすれば、従来、控えが多かった選手がスタメンを飾ることになる。選ばれたり選ばれなかったりしているボーダーラインの選手、さらには呼びたくても席が埋まっているために呼べなかった選手がメンバーに入る。
カタールW杯の三笘がそうであったように、これから本番まで2年半の間に新たに代表入りしそうな選手はかなり高い確率で複数、存在する。そうした可能性を感じる選手に出場機会を与えることもできる。
W杯後、日本は8戦して6勝1分1敗だ。チームは早くも8、9割方、出来上がった状態にある。しかし過去の例に従えば、この状態は2年半も続かない。ジーコジャパン、岡田ジャパン(第2期)、ザックジャパン、ハリルジャパンともに、競馬でたとえるなら第4コーナーを回ったあたりで失速した。同じ轍を踏まないためにも、ステイタスがけっして高くないアジアカップ、弱者と戦うW杯の2次予選は、現状のベストメンバーを崩して戦うべきだ。
アジアカップはU−22(五輪代表チーム)で臨んでもいいくらいだが、森保一監督は先日、「FIFAの規定にしたがい......」と、語っている。A代表で臨む構えだ。問題はその中身になる。W杯アジア2次予選のホームゲームは国内組主体で十分だ。海外組を呼びたいなら、実力がありながら、まだ選ばれていない選手を加えたい。欧州カップ戦に出場している上記の12人は、2回に1回とか、ローテーションで呼ぶ。
冒頭で、W杯出場を逃す確率は皆無と述べたが、究極の話、このやり方でまさに万が一、出場を逃しても、W杯でベスト8、ベスト4、優勝を狙う過程での事故だと割りきるしかない。協会は「2050年までには優勝」と言っている。時間はそれほどない。選手のクオリティーを信じ、現在よりもっと効率的な強化方法を探らないと成長率は鈍る。
もっとも、そうした日本代表の中長期的なスタンスを決めるのは本来、時の代表監督の仕事ではない。ナショナルチームダイレクター(山本昌邦氏)であり、技術委員長(反町康治氏)、もっと言えば、「優勝」を打ち出した田嶋幸三会長の仕事である。「FIFAの規定にしたがい......」は、組織を代表する彼らが述べるべき台詞。役割がおかしい、とは率直な印象である。
【ホームゲームは国内組中心で】
「試合の開催地により招集メンバーの変更を」
浅田真樹●文 text by Asada Masaki
日本がワールドカップアジア2次予選で対戦するのは、ミャンマー、シリア、北朝鮮の3か国。2次予選全9グループのなかでは、日本が入ったグループBは比較的ハイレベルな国が揃ったと言えるのかもしれない。
とはいえ、実力的に見て日本が抜けた存在であるのは明らか。しかも、次の3次予選に進めるのは4カ国のうち上位2カ国なのだから、万が一、1、2試合取りこぼすことがあったとしても、敗退を心配する事態にまで陥るとは考えにくい。
だとすれば、このラウンドにおいてベストメンバーの招集にこだわるのは、あまりにも愚策である。柔軟なチーム編成を考えたい。
特にチャンピオンズリーグをはじめとするUEFAの大会に出場している選手には、できるだけ日本代表活動の負担を減らしてあげるべきであり、所属クラブの活動に集中しやすい環境を整えてあげるべきだ。
現在のカレンダーを見ると、今年9、10月がそうであったように、FIFAが定める国際試合開催期間の前後の週にUEFAの大会が組まれているケースが多い。必然、当該クラブに所属する選手は過密日程を強いられることになる。そのあたりも踏まえて、招集の判断はなされなければならない。
具体的に言えば、試合の開催地によって区別するのはひとつの手だろう。
たとえば、日本のホームゲームに関しては、対戦相手にかかわらず国内組を中心に戦う。
同じくミャンマー、北朝鮮とのアウェーゲームについても、(中立地での開催でないとすれば)入国方法にはそれなりの制限が課される可能性が強く、ヨーロッパ組がそれぞれの試合日程に応じてバラバラに現地入りするのは難しいはず。だとすれば、この2試合についても国内組中心で戦ってもいい。
昨年のE−1選手権優勝を見ても明らかなように、今の日本代表はヨーロッパ組を数多く揃えなければアジアで戦えないというわけではない。むしろ国内組の新戦力を試す好機ととらえたいところだ。
一方で、サウジアラビアでの開催が決まっているシリアとのアウェーゲームは、比較的ヨーロッパからの移動時間が短く、時差も小さいのだから、ヨーロッパ組中心にチームを編成するチャンスとなる。ミャンマー、北朝鮮とのアウェーゲームが中東開催になるならば、それもまた同様だ。
つまり、11月の2試合(16日・ミャンマー戦/日本、21日・シリア戦/サウジアラビア)に関して言えば、ターンオーバーの2チーム制で臨むことも考慮すべきであり、大量のヨーロッパ組を日本に集めてコンディションが整わないまま試合をさせ、その後サウジアラビアへ向かわせる、などという強行軍は避けるべきだ。
誤解を恐れず言えば、特定の選手に負担をかけることなく、多くの選手をうまく活用して6試合をやり過ごす。その結果として、新戦力発掘につながれば言うことなし。
ワールドカップ本番までの限られた実戦機会であることは承知の上で、それが2次予選で目指すべき現実的な戦い方ではないだろうか。
(つづく)