【ついにつかんだGPシリーズ初勝利】

 10月27〜29日に開催されたグランプリ(GP)シリーズ第2戦のスケートカナダ。昨季のGPシリーズで表彰台に上がった三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)と山本草太(中京大)、友野一希(上野芝スケートクラブ)、そして世界選手権2位のチャ・ジュンファン(韓国)が表彰台争いの候補にあがっていた。そのスケートカナダで優勝を手にしたのは山本だった。


スケートカナダでGPシリーズ初優勝を果たした山本草太

 山本のキャリアを振り返れば、シニア移行の2016−2017シーズンは、その前季に負った右足首骨折からの復帰を予定していたが、2016年夏に疲労骨折。手術を経て復帰したものの、再度負傷して出場予定だったGPシリーズのフランス杯、NHK杯を辞退した。

 それから苦境の5年を経てついに復活をとげ、昨2022−2023シーズンは、フランス杯でシニア初表彰台の2位に入ると、NHK杯でも2位になり、GPファイナル進出を果たした。

 そして、ファイナルでは自己最高得点を大幅に更新する274.35点を獲得し、宇野昌磨(トヨタ自動車)に次ぐ2位。世界選手権初出場も実現した。

 今回のスケートカナダは、そんな山本がシニア8シーズン目にしてついにつかんだGPシリーズ初勝利だった。

 今季は、9月のオータムクラシックで4位のスタートだったが、翌週の中部選手権では273.14点で優勝と、調子を上げてきていた。

【優勝候補チャ・ジュンファンがまさかの下位】

 スケートカナダのショートプログラム(SP)で山本は、最初の4回転トーループ+3回転トーループをしっかりと決めたが、次の4回転サルコウは右手をつく着氷。その次のキャメルスピンもレベル3で、わずかに減点される取りこぼしとなった。

 それでも演技後半のトリプルアクセルを落ち着いて決め、シットスピンとステップシークエンスは、GOE(出来ばえ点)加点で4をつけるジャッジもいた。得意とする伸びのある滑りは見せきれなかったが、ミスもあるなか89.92点とねばった。

 続く選手たちはGPシリーズ初優勝を意識してか、かたい滑りになってミスが目立った。優勝候補筆頭だったチャも最初の4回転サルコウ+3回転トーループが4回転+2回転となり、続く4回転トーループは転倒。山本が首位発進となった。

 フリーでは、SPではジャンプにミスがあり4位にとどまっていた三浦が挽回。ミスを中盤のトリプルアクセルの転倒だけに抑え、勢いのある滑りを見せて合計で257.89点を獲得した。

 SP3位の友野は、フリー前半で細かいミスをしてリズムに乗りきれず、合計245.12点。優勝を狙える位置にいたチャは3回の転倒を含めて7本中5本のジャンプでミスをしてしまい、合計216.61点でまさかの下位に沈んでしまった。

 優勝が一気に近づいた緊張感のなか、山本は最初の4回転サルコウから4回転トーループ+3回転トーループ、4回転トーループを着実に決める滑り出し。だが次の3連続ジャンプを予定していたトリプルアクセルがアンダーローテーションになり転倒すると、キャメルスピンを終えたあとのトリプルアクセルもステップアウトになるミスになった。

 それでも、コレオシークエンスのあとに予定していた3回転フリップ+ダブルアクセルを3連続ジャンプに変更してリカバリー。最後の3回転ルッツはエッジ不明瞭の判定でわずかな減点となったが、168.86点を獲得。フリーのみでは3位だったが、合計は258.42点とし、三浦を0.53点抑えて初優勝を決めた。

【イリア・マリニンとの大きな差】

 競り合いを制して手にした今回の優勝の意味は大きい。だが、前週のスケートアメリカでイリア・マリニン(アメリカ)が310.47点で優勝していただけに、少し不満の残る結果でもあった。

 山本の演技の内容を見れば、SPは、ジャンプやスピンのミスはさることながら、自己最高得点の96.49点を出した昨季のNHK杯と比べればまだまだだ。演技構成点では、昨季は常に8.3点台だったスケーティングスキルが今回は7.96点にとどまり、他の2項目も7点台。フリーではすべての項目で8.39点になっていることを考えれば、NHK杯の時より評価は高くなっていて、実力的にはSP100点に近づいているだろうが、その力を出しきれずに終わっている。

 フリーではマリニンとの差はまだまだ大きい。マリニンは4回転が4本あるうえに、後半に4回転の連続ジャンプ、3回転ルッツ+トリプルアクセルという大きな得点源になるジャンプを並べている。さらにマリニンは課題だった演技構成点も、3項目すべてを8点台後半にする進化を見せている。

 そんな状況ではあるが、今回の演技構成点を見れば、山本の評価も高くなっているのは確か。自己最高得点の179.49点だったファイナルではスケーティングスキルは8.36点だったが他は7.46点と7.79点。今回のスケートカナダは、ミスがある演技でありながら、コンポジションで7点台をつけたジャッジはひとりだけで、プレゼンテーションは全員が8点台だった。

 現状の山本の演技は、前半の4回転が続く部分はジャンプを跳ぶための構えが少し長すぎ、流れが少し途絶えてしまう部分がある。その部分を改善してくれば、現在では2〜3点というGOE評価を4点に高め、技術点も伸ばせるだろう。さらに演技の流れをつくれれば、おのずと演技構成点も伸びていくはずだ。

 山本が進化を続けるマリニンに追いつくためには、流れの改善とともにノーミスの演技を続けて自信をつけることも必要だろう。今回の初勝利で得た自信を心の余裕を生み出す糧にして、彼の持ち味である伸びのある滑りを存分に見せてくれることに期待したい。