完全アウェー、DHなしの戦いを制したオリックス チームを救った若月健矢と頓宮裕真の「キャッチャーならでは」の読みと気遣い
超満員の観客で包まれた甲子園球場のレフトスタンド上段の一角を除き、9割5分程度を阪神ファンが埋め尽くした日本シリーズ第3戦は、オリックスにとって完全アウェーの戦いとなった。
「でも、うちのレフトスタンドも負けてなかったんじゃないかなと思います。あの人数で、大きい声を出してくれていましたからね」
試合後に若月健矢がそう振り返れば、4回に同点ホームランを放った4番・頓宮裕真も同様に感じていた。
「(敵地で)1点先行されたけど、別に何も感じていなかったです。ベンチの雰囲気もめっちゃよかったですし。球場の雰囲気に飲まれるようなチームではないので。いつも明るくやっています」
オリックス1点ビハインドの4回表に同点本塁打を放った頓宮裕真 photo by Sankei Visual
超アウェーの甲子園で2回に1点を先行されたなか、同点に戻したのは頓宮の一撃だった。4回二死、2ボールから阪神の先発・伊藤将司が外角に続けた130キロ台中盤のツーシームをいずれも空振りしたあと、5球目は外角低めに143キロのストレートが投じられると、頓宮はバックスクリーン左に美しい放物線の当たりをたたき込んだ。
「どの球を待っていたということはなく、タイミングだけしっかり合わせていきました」
初回の1打席目は大きなセンターフライを強く弾き返しており、2打席目で見事に仕留めた格好だ。さすが今季のパ・リーグ首位打者、というバッティングだった。
4番抜擢を問われて「とくにないです」と答えた頓宮だが、オリックスにとって大きな一打だった。クライマックスシリーズのファイナルステージで好調だった杉本裕太郎が左足首を負傷し、日本シリーズ2戦目まで欠場するなか、クリーンナップをどう組むかがポイントのひとつになったからだ。
とくにセ・リーグの本拠地では指名打者が使えないこともあり、2戦目まで5番DHだった頓宮を第3戦では4番に昇格させ、9月中旬に左足薬指を骨折してから初めてファーストを守らせた。
さらに、今季ブレイクした先発・東晃平と若月にバッテリーを組ませるため、捕手が本職の森友哉をライトに配置。この起用が吉と出たのが、1対1で迎えた5回の攻撃だった。
先頭打者の6番・紅林弘太郎がライトに技ありのヒットで出塁すると、打席に若月が向かう。
「シーズン中なら、基本的にバントの場面だと思います。(打っていったのは次の打順が)8、9番というところだと思います」
強行策に出ると2ボールになり、中嶋聡監督が選択したのはヒットエンドランだった。
「僕の調子があまりよくなかったので、うれしかったですね。何でもやれるので。そういうのを(監督が)気を利かせて出してくれたのかなと思います」
若月は「センターラインだけは外して打ち返そう」と狙ったら、打球は二遊間を抜くセンター前安打で一、三塁とチャンスが拡大された。つづく8番・廣岡大志のショートへの併殺崩れの間に1点を勝ち越すと、相手のバント処理のエラーをはさみ、このシリーズで無安打だった2番・宗佑磨が右中間にタイムリー二塁打を放ってさらに2点を加えた。
【9回のピンチを凌ぎ僅差の勝利】4対1とした直後の5回裏には、ファーストに入った頓宮の"キャッチャー"ならではの気遣いも見られた。一死から阪神の8番・木浪聖也がライト前安打で出塁すると、つづく代打・渡邉諒に対して東が2ボールとカウントを悪くするや、ファーストの頓宮が声をかけにマウンドへ向かった。
「東が前の攻撃で(バントエラーで出塁し、宗のタイムリーで)一塁からホームまで走っていましたからね。走者が出たので、間をとりました。5回裏だから次のイニング間はグラウンド整備に入るし、しっかり切っていこうと話しました」
捕手出身の頓宮だからこそ、絶妙な間の取り方だった。東は渡邉を打ちとったあと、1番・近本光司に四球を与えるも、2番・中野拓夢を抑えて5回を投げきった。
そして6回表、先頭打者の頓宮がレフト前安打で出塁すると、四球やバントなどで一死二、三塁とし、7番・若月がレフトに犠牲フライを放って1点を追加した。
「内野もちょっと前に来ていましたし、詰まってでも内野の頭は越そうと。ゴロだけはダメという感じでしたね」
終わってみれば、この1点が勝負を分けることになった。
7回裏には阪神の3番・森下翔太の2点タイムリーなどで1点差に迫られたが、8回からの登板を目安に体を動かしていた宇田川優希を二死一塁で投入して相手打線の反撃を断ちきる。甲子園のボルテージは最高潮に達していたが、宇田川はまるで動じていなかった。
「すごく盛り上がっているなと思ったんですけど、逆にどんどんアドレナリンが出てくるので、楽しいという気持ちになりました」
8回を宇田川がイニングまたぎで抑えると、9回は守護神・平野佳寿が二死一、二塁のピンチをつくりながらも逃げきり。オリックスにとって肝を冷やす展開だったが、最後は経験豊富なバッテリーが上回った。若月が振り返る。
「平野さんとは常日頃から配球の話だったり、こう思っているという話をしたりして、意思疎通ができているのでよかったのかなと思います。(最後の球に選択したスプリットは迷いなく?)平野さんも『ナイス』って感じでした。(配球については)あまり言えないんですけど(笑)」
大差のついた2戦目までとは打って変わり、5対4で終わった3戦目はわずかな差が勝負を分けた。完全アウェーの甲子園で指名打者が使えないなか、オリックスは打った手が次々とはまり、大きな1勝を手にした。