久保建英は、チャンピオンズリーグのベンフィカ戦でMVPを獲得。続く週末のラージョ・バジェカーノ戦でもPKを誘発と、活躍が続いている。そうしたなかビッグクラブへの移籍の噂があがっているが、番記者はどう見ているのだろうか。地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」のイケル・カスターニョ・カベージョ氏に、見解を述べてもらった。

【久保建英の勢いが止まらない】

 9月のラ・リーガ月間MVPに選ばれたあとも久保の勢いは止まらず、相変わらず多くの試合で違いを生み出し続けている。好調を維持しながら、さらに向上させたプレーでハイパフォーマンスを発揮するこの日本人選手の貢献なしに、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)の成功は語れない。


久保建英はビッグクラブへ行くべきか。地元番記者の見解は? photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 スタメン復帰したチャンピオンズリーグ(CL)のベンフィカ戦では何度もディエゴ・マラドーナのようなプレーを見せ、目の前に現れるすべての選手を圧倒した。しかし今回はフィニッシュワークに苦戦したようだ。

 2本のシュートがポストをかすめ、1本が枠、1本が相手DFの手に阻まれ、最後のシュートはクロスバー直撃......。とはいえ、敵地リスボンの難しいピッチでの勝利に貢献し、MVPに選ばれたことは賞賛に値する。

 一方、日曜日のラージョ・バジェカーノ戦では、いつものようなキレが感じられなかった。ボールを受けてスピードに乗り、攻撃的なプレーからチャンスを作り出そうとしたが、相手左サイドバックのアルフォンソ・エスピーノにうまく抑えられ、1対1を突破させてもらえない。

 そんななか、右サイドから入れたクロスがエスピーノの手に当たりPKの笛が吹かれた。

 久保にとっては満足いくできではなかっただろうが、チームでは再び目立つ選手のひとりとなった。11月1日の国王杯はおそらく休養し、今週土曜日のバルセロナ戦には万全の状態で臨めるだろう。

【番記者たちは移籍すると思っていない】

 移籍市場の再開が2カ月後に迫るなか、ラ・レアルはここまで公式戦14試合を消化し、ラ・リーガで5位につけ、CLグループリーグ首位に立っている。久保はダビド・シルバが去ったラ・レアルに欠かせない存在となり、すべての大会で実力を存分に発揮し、チームに大きく貢献している。

 そうした状況で、久保があまりにも好調であるため、「ヨーロッパのビッグクラブに移籍するのではないか?」という意見もあるが、地元サポーターは誰もそのことを懸念していない。

 なぜなら久保は昨季の終わりに、レアル・ソシエダに居心地の良さを感じていると明言しており、2027年まで契約を結び、再びサッカー選手としての自信を取り戻す扉を開いてくれたクラブで、重要なことを成し遂げたいと思っているからだ。

 将来的にはわからないが、現時点では私を含めた皆が、彼がチュリウルディン(レアル・ソシエダの愛称)のユニフォームを纏い、多くの試合に出場し続けると思っている。

 ゆえに私たちラ・レアルの番記者は誰ひとりとして、「もしどこかのクラブが契約解除金を支払ってくれる場合、移籍する可能性はあるか?」と久保に改めて質問をしたことは一度もない。

 イマノル・アルグアシル監督のシステムにすぐさま適応した久保は今、サポーターから毎試合スタンディングオベーションが贈られ、名前を叫ばれており、自分の居場所を見つけている。それはカルロ・アンチェロッティやジネディーヌ・ジダンの下では全く成し遂げられなかったことだ。

 久保にとって、ラ・レアルのようなクラブでラ・リーガ、国王杯、CLに出場し、CLでは強豪相手にヨーロッパ最高レベルの戦いを繰り広げ、自分の能力を伸ばし続けられる以上にいいことなどあるだろうか?

 この22歳の日本人がヨーロッパの偉大なスターのひとりとなるために最適なクラブは、やはりラ・レアルであると考えられる。またサン・セバスティアンで覚醒したことにより久保は、市場価値が上昇し、加入当時の750万ユーロ(約12億円)から今や5000万ユーロ(約80億円)となっている。

【レアル・マドリードのスタメンは非常に難しい】

 このように日々価値の上がる久保の契約条件は明確だ。彼を獲得したいクラブは、契約解除金として設定されている6000万ユーロ(約96億円)を支払う必要がある。一方、レアル・マドリードは久保が将来移籍を決断した時に、もし買い戻したいと思うのならば、約3000万ユーロ(約48億円)を支払うだけでいい。

 久保は昨季からの活躍により、ナポリやマンチェスター・ユナイテッドといった複数のチームに興味を持たれており、欧州強豪クラブのスカウトが彼の進化を注視している。

 レアル・マドリードももちろん、大きな可能性を秘めたこの若手選手を忘れておらず、目覚ましい成長に目を光らせている。しかし仮に久保がレアル・マドリードに戻ったとしても、スタメンの座を得ることは非常に難しいだろう。

 私個人の見解として、レアル・マドリードの今のプレースタイルに久保は合っていない。その理由は、フィジカル面に優れた選手たちが中盤を支配し、より純粋なFWを2人前線に起用しているからだ。

 またポジション争いのライバルのひとりと考えられるロドリゴは、開幕から調子が上がらず数字的な結果を出せてはいない。しかしゴール前で効果的な選手として認められており、大きな成功を収めてきた経験があるため、現在のレアル・マドリードのスタメンにおいて久保をリードしている、というのが私の考えだ。

 久保は起爆剤としての役割を果たせるかもしれないが、それでも私はレアル・マドリードにうまくフィットするとは思えない。

 今冬の移籍市場では動きはないだろうが、来季、仮に現レバークーゼン監督のシャビ・アロンソ(元レアル・ソシエダ)がレアル・マドリードの指揮を執った場合、来夏の移籍市場で久保を求める可能性もあるだろう。

 しかしひとつだけハッキリしているのは、契約解除金を支払うクラブはあっても、最後の決断を下すのは久保本人だということだ。

 私の予想では今季はもちろん、ほぼ間違いなく来季も彼は残留する。その後は彼が環境の変化を望んだり、現在の調子を維持できるか次第になるが、今のところ彼はラ・レアルを去る気はないはずだ。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)