プレミアリーグ、ブライトン対フラム戦。ブライトンがヨーロッパリーグ(EL)でアヤックスと対戦したのは現地時間10月26日(木曜日)20時から。10月29日の14時にキックオフされたこの一戦は、つまり中2日に5時間欠ける試合間隔で行なわれたことになる。欧州はこの間に夏時間から冬時間に切り替わり、東京と時差が1時間広がったことも付け加えておこう。

 連投した選手は5人。もちろん三笘薫もそのなかに含まれている。しかし、6試合連続スタメンとなると、比肩するのは主将でセンターバック(CB)のルイス・ダンクひとりになる。今季のスタッツを見ても三笘はダンクとともに全13試合すべてに出場。交代出場1試合を含むものの、平均出場時間は約86分(追加タイム含まず)で、こちらもフルタイム出場のダンクに次ぐチーム2位の成績となる。

 CBの主将ならわかる。フルタイム出場はよくある話だ。しかし左ウイングとなると稀だ。全欧州を見渡しても数えるほどだ。日本人の欧州組では伊東純也もそのひとりだ。1試合あたりの平均出場時間89.5分という驚異的な数字をマークしている。しかし所属のスタッド・ランスは欧州のカップ戦には出場していない。強行日程の度合いではブライトンに劣っている。

 もし三笘がこれで10月の代表戦(カナダ戦、チュニジア戦)のために帰国し、現地と日本を往復する工程を間に挟んでいたら、鉄人を通り越し、超人の域に迫ることになっただろう。

 三笘の息はなぜ最後までもつか。


フラム戦にフル出場した三笘薫(ブライトン)photo by AFLO

 ウインガーと言えばライン際を疾走するイメージがある。それを繰り返せば脚色は時間の経過とともに鈍る。だが、このフラム戦でもそうであったように、三笘はタイムアップが近づいても、立ち上がりと変わらぬ軽快感でドリブル&フェイントに及ぶ。前半より後半のプレーが勝る場合のほうが多いほどだ。

 加えて徹頭徹尾、涼しい顔で飄々とプレーする。語弊を承知で言えば、その理由は全力でプレーしていないからだろう。力感を抱かせないリラックスしたプレースタイルにそれは見て取れる。

【動きに余裕がある理由】

 この日、最も光ったウイングプレーは前半13分に訪れた。

 今季加入した左サイドバック(SB)イゴール・ジュリオから1トップのエバン・ファーガソンに差し込んだ縦パスが、次の瞬間、ライン際で構える三笘の前に回ってきた。非常に立体感のあるパスワークである。こうして三笘は、フラムの右SBティモシー・カスターニュと対峙することになった。

 ベルギー代表歴33回。欧州の上級レベルのSBを向こうに回し、三笘は後ろ足にあたる右足のインサイドでボールを運ぶように縦を突いた。このワンプレーで20〜30メートル前進。相手のゴールラインまで残すは10メートル強という、ここで相手にボールを奪われても、絶対にカウンターを食らわない安全な場所までボールを運んだ。

 懸命に食らいつこうとするカスターニュと三笘。動きに余裕があるのは三笘だった。主導権を握ることができていた。縦に出る瞬間、微妙に相手の逆が取れていたからだ。精神的にも優位に立つことができた理由である。

"逆"が取れれば相手の動きは一瞬、遅れる。先行する三笘と追いすがるSB。この差が見る側を錯覚させる。三笘の動きが実際より速く見える。相手のSBしかり。ヤバいと慌てる。精神的にも劣勢に回る。

 そこで三笘は動きを止めた。カスターニュが追いつくまで待つ、サービス精神を発揮したのか。いや、それは次なる動きへの罠だった。精神的に優位に立つ三笘は相手の呼吸を見計らうように切り返しを図った。低く沈み込むようにクルッと猫のように身体を回し込むと、相手の逆を突いて前に出た。

 俊敏な動きとはこのことである。人間離れしたスピード感に見えるが、三笘の息は上がっていない。相変わらず余裕がある。体力勝負に勝ったわけではないからだ。対応に四苦八苦しているカスターニュを眺める余裕さえあった。次なるフェイントという悪だくみを考案する時間的余裕があった。

 ドリブルでツータッチ前進。ゴールラインが見えたところで、今度は深々と切り返した。このアクションが滅茶苦茶、きれて見えた理由もまた、逆が取れていたからだった。カスターニュの動きが遅れることで、必要以上に速く見える。

【本人はそれほどスピードを使っていない】

 三笘が中央に返したボールは、1トップ下で起用されたアダム・ララーナを経由して守備的MFカルロス・バレーバの下へ。その左足シュートは浮いてしまったため得点にはならなかったが、サッカーの醍醐味が満載された展開だった。

 この一連の三笘の動きで想起したのは、三浦知良のブラジル時代だった。現地で話を聞くなかで、カズはふとこう漏らした。

「こっちの(ブラジルの)人って不思議なんだよ。俺のこと、スピードがあるって言うんだよね。全然、速くないのにさ」

 だが当時のカズは逆を取る天才だった。逆を突く切り返しになにより定評があった。足が決して速くないカズでも、相手の逆を取れば、瞬間、思いきり速く見える。走るスピードがカズより数段速い三笘なら、なおさら速く見えるだろう。

 だが本人はそれほどスピードを使っていない。常時8割の力でプレーしていることが90分間、動きが衰えない理由、疲労が蓄積しにくい理由だろう。

 だがこの試合、ブライトンはフラムに1-1で引き分けてしまう。三笘のプレーも採点するならば6.5になる。ケガ人を多く抱えるチーム事情が災いしたことは間違いない。ペルビス・エストゥピニャン、タリク・ランプティ、ソリー・マーチらの故障により、この日左SBを務めたのは先述のイゴール・ジュリオで、本職はCBだ。実際、彼は左SBと言うよりCB然と構えた。三笘をサポートする動きを見せたのは、フラムに同点とされた後だった。

 ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督は、後半のある時まで4−2−3−1と3−3−3−1の中間型のような布陣で急場を凌ごうとしたが、それがうまくいかなかった結果、引き分けたという印象である。

 三笘は強行軍に対応できても、ケガ人を大量に抱えるチームそのものは胸突き八丁を迎えている。ブライトンファンやクラブ関係者は、11月の代表ウィークに三笘が帰国しないことを願うばかりだろう。