2年後に「女子フットサルW杯創設」決定。日本が世界と戦うために必要なこととは?現場で聞いてみた

写真拡大 (全5枚)

先日FIFAが創設を発表した新しい2つの大会。

一つは「女子クラブワールドカップ」。そしてもう一つが「女子フットサルワールドカップ」である。

前者についてはまだ今のところ細かいことは決定されていないが、女子フットサルワールドカップは2025年に16チームで開催されることが発表されている。

これは世界中の女子フットサル、そしてそれをプレーする選手にとって非常に大きなターニング・ポイントとなる。日本ももちろん例外ではない。

ということで、日本の女子フットサルが初代女王となるため、世界と戦うために何が必要なのか、今国内リーグがどのような状況なのかを確かめるため、10月21日に福井県営体育館で行われたファイナルシーズンの上位リーグ第1節に直撃してみた。

国内リーグはどんな形式で行われているのか

日本女子フットサルリーグは2016年に設立され、同年に6チームの参加でプレ大会を行った後、2017-18からレギュラーシーズンがスタートした。

今季はそれから7シーズン目にあたり、参加クラブ数も徐々に増加して11チーム体制で行われている。

試合は男子のFリーグと同じセントラル方式で行われており、一つのクラブの本拠地に複数チームが集まって試合が開催される。2〜3日に渡って1〜3つの会場で試合が行われるシステムだ。

レギュラーシーズンは全11節でそれぞれ1回戦総当たりとなり、各チーム10試合を戦う。そしてそれが終わるとファイナルシーズンがスタートし、上位6チームが上位リーグ、下位5チームが下位リーグへと進む。

さらにそこで1回戦総当たりの試合が行われ、上位リーグのチームは全15試合、下位リーグのチームは全14試合を戦って順位が決められる。

そして、今季はその上位リーグ全5試合のうち、10月21日、22日、12月3日の3試合が福井丸岡RUCKの本拠地である福井県営体育館で開催されることになっている。ホーム&アウェイや中立地開催がより重んじられるサッカーではあまり考えられないレギュレーションである。

リーグの力関係は?

2016年にプレ大会を優勝したのは福井丸岡RUCKであったが、その後の3シーズンはアルコイリス神戸が3連覇を達成し、圧倒的な力を見せた。

しかし、その後は男子Fリーグを戦っているバルドラール浦安の女子チーム「バルドラール浦安ラス・ボニータス」が台頭。

2020-21シーズンから日本女子フットサルリーグを3連覇し、今季も首位をひた走るなど圧倒的な力を見せているほか、代表チームにも多くの選手を送り込んでいる。

またリーグだけでなく全日本女子フットサル選手権でも4年連続で決勝に進んでおり、そのうち3回で優勝している。

現在は「バルドラール浦安ラス・ボニータスの一強、それに数チームがなんとか対抗して僅かなチャンスを狙っている」というパワーバランスだといえる。

今回取材した10月21日のファイナルシーズン第1節の段階でも、すでにバルドラール浦安ラス・ボニータスと2位SWHレディース西宮のポイント差は5まで開いていた。

その中で行われた21日、福井県営体育館でのファイナルシーズン第1節の結果は以下のようになった。

バルドラール浦安ラス・ボニータス 4−2 アニージャ湘南アルコ神戸 3−1 立川アスレティックFCレディースSWHレディース西宮 4−4 福井丸岡RUCK

その試合の取材動画はこちら。

メインイベントとなったSWHレディース西宮と福井丸岡RUCKの試合後には記者会見が行われ、そこに出席した。

日本女子フットサルリーグに必要なもの、そしてW杯に向けての課題

まず先に行われたのはSWHレディース西宮の会見。出席したのはキャプテンの尾川奈緒選手と、上久保仁貴監督だ。

日本代表選手としてもプレーする尾川奈緒選手は、今の女子フットサルリーグとW杯の創設をどう思っているのか。ワールドカップ創設による影響を伺ってみた。

SWHレディース西宮の尾川奈緒選手
尾川奈緒

「フットサルをしている選手であれば、誰でも目指しているところは日本代表です。その競争はもっと高めるべきだと思います。

それをアピールするのがリーグの試合になると思うので、選手としてはそこで力を証明していきたいです」

上久保監督は、福井で3試合が行われるという一種不思議なレギュレーションやこれから求められることについて以下のように話していた。

一強状態を変化させたいという希望を明かした上久保仁貴監督
上久保仁貴

「我々としては関東に行くよりも福井に行くほうが近いですし、車でのアクセスもいいですし、福井丸岡RUCK出身の高尾選手もいますので、あまりアウェイ感はないですね。

そういう意味では我々にとってとてもポジティブですね。あまり関東ばかり行きたくはないので(笑)

リーグは正直「一強」で、ここ数年は常に浦安がチャンピオンになっている状況です。我々も含めてですが、そこにもっと色々なチームが絡んでいかなければいけない。

どこのチームが優勝してもおかしくないという環境づくりは必要なのかなと。リーグ全体のレベルが上っていかなければいけない。

日本代表のメンバーを見ても、どうしても(浦安に)偏っている部分がある。もっといろんな色を持った選手が集まれば、日本の強さをより出せる。各チームがもっとレベルアップする必要がありますね。自分たちも含めて」

以前はアルコイリス神戸、そして現在はバルドラール浦安ラス・ボニータス。一強の状態になりがちなリーグになっているため、よりほかのチームとの競争や緊張感を高める必要があると感じているそうだ。

「このリーグシステムでは、日本は世界で勝てない」田中監督の危機感とは

そしてその次は福井丸岡RUCKの記者会見。キャプテンの日本代表FP池内天紀選手と監督の田中悦博氏が出席した。

先日は日本代表としてNSDF Futsal Championship 2023を制覇した福井丸岡RUCK池内天紀選手
池内天紀

「今日は雨だったんですけど、沢山の方々に見に来て頂いて、試合もすごく楽しくプレーできました。

(最後に追いつけたときは?)自分たちのセットが最後にプレーしていたので、点が入ったときにはとても嬉しかったです。

ここで負けたら…と思っていたので、追いつけて本当に良かったです。ベンチの雰囲気はわかりませんでしたけど…。(監督「ベンチは大喜びでしたよ」)

プレーする側から言えば、福井で5試合中3試合をやれるというレギュレーションはとても良いことだと思っています。知っている方々が見に来てくれますし、いつも以上のお客さんが入ってくれることで、一人ひとりがより力を出せます。

私は運営の方々も見てきているので、色々言われていますけど…(この試合で)フットサルのことだけではなく福井県のことを知ってもらえればいいなと思いますし、フットサルの楽しさをより伝えられるように頑張りたいです。

(ワールドカップに向けては?)去年よりも上位や下位が関係なく、結果が予想できない試合は増えたと思います。

それは個々のレベルアップにも繋がると思いますし、リーグ全体のレベルも上がっていると感じています。世界でもより上のレベルで戦えると思います」

現在のリーグの運営やレベル、そして国際舞台に出ていくときの戦いにもポジティブな感覚を持っているという池内選手。

一方、創設時から日本女子フットサルリーグに関わり、福井丸岡RUCKの監督を務めてきた田中悦博さんは、以下のような課題を口にしていた。

福井丸岡RUCK創設者でもある田中悦博監督
田中悦博

「池内の話に付け足すと、今は試合数が少ないのでアルバイトを雇ったりはできないんです。ですので選手の保護者の方々に迷惑をかけながらやっているんですね。

早くホーム&アウェイのレギュレーションにしてほしいです。みんな何を誤解しているのかなと思っているんですけど(笑)、自分たちの1試合だけならもっと楽なんです。

私は、このままだと(日本の女子フットサルは)世界で勝てないと思っているんです。

今日、たまたまFacebookを開いたら5年前のユースオリンピックのことが出ていました。この子たちは5年前に銀メダルを獲りました。スペインに勝って準優勝したんです。

ただ、そのスペインは今ヨーロッパでU-18の大会を開いていて、リーグ戦も年間26試合やっています。国際試合も多い。世界に飛び出しているんです。

私は小倉さん(小倉純二フットサル連盟会長)と『世界で戦えるリーグにしよう』と言ってこのリーグを立ち上げたのに、今のやり方では勝てないと思います。

だからもっと選手たちが声を上げて、きちんと年間20試合はやろう、ホーム&アウェイで試合をしよう、そういう主張をしていかなければいけないかなと。

我々は年末からローマへ遠征に行くんです。そこにはイタリア、ポルトガル、スペインも来ると思うんですけど、きちんと世界と戦って、その経験をどんどん発信していきたい」

【関連記事】日本人フォトグラファーが見た女子CL。目撃した「歴史的瞬間と多様性」、そして「あの日本人選手」

ワールドカップ創設が2年後に迫る女子フットサル。その中でまだまだ世界と戦うためのシステムが未整備の状況にあるというが、ある意味では「伸びしろが大きい状況」であるともいえる。

特別な「初代ワールドカップ女王」になるため、そして女子フットサルを盛り上げるため、ここからの2年でどんな改革が行われるのか注目していきたい。