記事のポイント

識者は過去の判例から、Googleの解体命令が出る可能性は低いと予想。一部の事業が別会社化され、アルファベット傘下となる可能性はあるという。

デバイスメーカーとのデフォルト検索エンジン契約に関しては裁判所が禁止判決を下す可能性は高く、消費者は複数の検索エンジンから選択可能に。

市場の定義が重要で、検索広告のみなら司法省有利、広告市場全体ならGoogle有利。過去のIBM、マイクロソフト訴訟の例も言及。


米司法省がアルファベット(Alphabet)傘下の検索エンジン最大手、Googleを反トラスト法違反の疑いで提訴した裁判の審理が始まって約1カ月。証人の証言により、Googleとテック企業や広告主との取引関係が明らかになりつつある。アミット・P・メータ氏が裁判長を務めるこの法廷闘争はまだまだ続くが、もし原告の勝訴という判決が下ったとしたら、その後どうなるだろうか。

Googleが敗訴した場合の広告市場への影響については、反トラスト法専門のエリック・ポズナー弁護士が、10月10日からニューヨークで行われたアドマーケットプレイス(adMarketplace)主催のIMPACT 2023で登壇し、法的助言ではないが、今後の展開に関する自らの見解を述べた。

ちなみに、もと司法省所属のポズナー氏は同省反トラスト局長付きの法律顧問を2022年から2023年まで務めたが、今回の訴訟事案には直接関わっていなかった。

この訴訟は二段階に分けた手続き進行となり、Googleが自社の行為に対し法的責任を問われるか否かの判決が下るのは2024年初旬とみられる。Google/アルファベットがAppleなどデバイスメーカーと締結した契約が競争の排除行為に相当すると司法省が証明できれば、裁判所は弊害の是正に必要な措置を講じるよう求めるだろう。

Google解体の可能性は低い



ポズナー氏によれば、第一段階ではGoogleによる商慣行のどの部分が合法または違法行為に当たるかの司法判断が下され、それにしたがって第二段階で是正措置命令が出る見通しだ。

判決の帰結として、Googleの解体・資産売却(反トラスト法でいう「構造的救済」)を予想する者もいる。しかしポズナー氏は、過去の判例から、裁判所が被告側企業の解体を命じる可能性は低いとする。

「そういった措置命令について憶測するには時期尚早だ。Googleの資産売却による解体は現実味が薄いと思う」とポズナー氏は語る。ただし、Googleの事業の一部が分割され、分割後の会社が親会社アルファベットの傘下にとどまるというシナリオも考えられるという。

「各事業体の価値をそこなわない形での事業分割ならありえるかもしれない。関連の法的主張の正当性を裁判所が認めた場合に限ってだが」とポズナー氏はいう。

端的にいえば、原告である司法省がGoogleの解体を求めるなら、「同社による違法な独占的慣行の現実的な解決策は解体のみである」と法廷で証明しなければならない。

広告主が損害賠償訴訟を起こす?



Googleが敗訴した場合、同社の行為の被害者が「衡平法上の救済」を求めて行動を起こすことも十分考えられると、ポズナー氏は指摘する。ここでいう被害者とは一般人以外も含まれる。

メディアバイヤーが一堂に会したIMPACT 2023の講演でポズナー氏は、「Googleの反競争的行為により被害をこうむった者による損害賠償請求など、民事訴訟が提起される可能性は高い」と語った。

ポズナー氏は、1998年に司法省がマイクロソフト(Microsoft)を相手取って起こした反トラスト法違反訴訟(マイクロソフトがPCの基本ソフトとウェブブラウザ市場における独占的立場を悪用して競合の競争力を削ぎ、消費者の利益を侵害したと司法省が主張)を例に挙げ、これが今後の展開予想の参考になるだろうと述べた。

「1998年の訴訟についていえば、司法省が勝ち取った実質的な是正措置は、マイクロソフトに対し、WindowsとInternet Explorerの抱き合わせ販売中止を求めた命令だったが、この命令はマイクロソフトにとって、いら立ちの種となったに違いない」とポズナー氏は振り返る。

「しかし、続いて提起された多くの損害賠償民事訴訟の結果、マイクロソフトは巨額の賠償金を支払うはめになり、これこそ相当な痛手だったはずだ。おそらくGoogle/アルファベットに対する訴訟も長期に及び、同社は高い代償を支払わされるのではないか」。

デフォルト検索エンジン契約は禁止されるのか?



司法省は裁判所に提出した訴状において、Googleがデバイスメーカーや通信会社との取引を通じて自社の検索エンジンをブラウザや携帯電話などのデフォルト設定としてインストールさせ、「インターネットの独占的門番」のような支配的地位を維持していると申し立てた。

この申し立てに対する反論としてGoogleは、自社サービスの品質維持と向上にはデフォルト検索エンジン契約が欠かせないと主張するとポズナー氏は予想し、この種の契約には反トラスト法の介入の余地があると述べた。

「たとえば仮に、Googleが自社の検索エンジンをSafariブラウザのデフォルト設定とする目的でAppleと締結した契約が違法であるとの司法判断が下れば、裁判所は当該の取引を禁止する判決を出すかもしれない」。

「これが何を意味するかというと、Appleは複数の検索エンジンのメニューを明白な形で示し、消費者がその選択肢から選んでデフォルトとして設定できるようにしなくてはならない。つまり、デフォルト検索エンジン契約は無効となり、当事者間で別の取り決めを交わす必要がある」。

こうした措置は、前述の「構造的救済」に対し「行動的救済」と呼ばれるが、そのほうがGoogleの大規模な事業分割より現実的なシナリオだとするポズナー氏は、IMPACT 2023の講演で「この種の事案では、行動的救済措置命令が出されると思われる」と述べた。

「市場」の定義



Googleに対する今回の訴訟の日程は現時点で3カ月先までしか決まっていないが、控訴に発展する可能性などを考えると長い法廷闘争になるかもしれない。IBMとマイクロソフトがそれぞれ訴えられた事案がまさに長期戦で、初期の判決から数年が経過してテクノロジーが進化し、訴訟の法的根拠が希薄になるという結果に終わった。現在のAIブームや、デジタル広告市場における変化の影響で、Googleに対する訴訟も似たような経緯をたどりそうだ。

今回の訴訟の行方を占う要素としては、対象市場の定義が鍵となる。裁判長が検索広告市場のみを審理の対象とするなら、Googleの検索エンジンのシェアが約90%を占めているため、状況は司法省にとって有利に働くだろう。しかし、ディスプレイ広告やソーシャルメディア広告など、オンライン広告市場全体を対象とするならGoogleにとって有利であり、司法省の主張の根拠が弱まる可能性がある。

反トラスト法においては、「市場」という用語の解釈の範囲が「非常に限定的」だとポズナー氏は指摘する。審理の対象となる市場が検索広告市場のみを指す場合、支配的立場にあるGoogleによって広告料金が引き上げられれば、広告主にとっては選択肢が限られ、市場競争が制限される。一方、ディスプレイ広告やソーシャルメディア広告など、検索広告以外も含めた市場を対象とするなら、Googleの地位は支配的とはいえず、市場競争が存在する。

裁判の帰結がどうであれ、法廷で明らかになった事実や証言は、Googleに対し提起された別件の広告関連の反トラスト法違反訴訟で証拠として認定される可能性があり、これは同社にとって「重大な懸念」になりうるとポズナー氏はいう。たとえば、「Googleの幹部が広告事業の収益目標を達成するために広告料金を引き上げた」という証言がその一例だ。

しかしポズナー氏によれば、重要なのは、法廷に提出された証拠が当該の訴訟事案と直接の「関連性」があるか否かだという。「外部の視点からは法律違反に見える行為でも、訴えが起こされた事案とは関連がない場合もある。もしGoogleがある市場で反競争的行為に関与した疑いがあったとしても、その行為が別の訴訟や別の状況においても反競争的とみなされるとはかぎらない」。

「もしある企業がある市場においてなんの支障もなく料金の引き上げができる立場なら、市場支配力を有していることになる。この情報は、原告側が当該企業の独占的立場を証明するうえで関連性があるといえるが、あくまで前述の市場に限った関連情報であって、競争が存在するほかの市場とはかならずしも関連性がない」。

[原文:What if… Google loses its antitrust battle with the DOJ over its search market dominance?]

Ronan Shields and Marty Swant (翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)