エピックゲームズ(Epic Games)はブランドおよび自身のIPからさらなる収益生成を狙うなか、紛うことなきIPの匠、チャーリー・ウェン氏を新チーフクリエイティブオフィサーとして雇用し、退社したドナルド・マスタード氏の後釜に据えた。エピックゲームズは「フォートナイト(Fortnite)」や「ロケットリーグ(Rocket League)」といった人気タイトルをメインストリームブランドおよび自身のIPの遊び場に変容したいと考えている。同社はすでに、コカ・コーラ(Coca-Cola)やラルフローレン(Ralph Lauren)といったブランドを、そしてマーベル(Marvel)からドラゴンボールZ(Dragon Ball Z)に至るまで、さまざまな人気IPを擁する、成長を続けるエコシステムを構築している。......のだが、9月第2週、チーフクリエイティブオフィサーだったマスタード氏が退社したことで、それまで同社が維持していた微妙なバランスが崩れる恐れも出てきた。とどのつまり、マスタード氏はエピックゲームズのIPマッシュアップや他のゲーム内ブランドインテグレーション推進を構築した、主要アーキテクトの一人だったからだ。

IPの匠に期待されているもの

「『フォートナイト』の世界観においても、ストーリー全般においても、ドナルドは重要な役を担っていた」と、「フォートナイトクリエイティブ(Fortnite Creative)」スタジオ、ビヨンドクリエイティブ(Beyond Creative)のCEOキャスパー・ウェバー氏は話す。「それだけに、エピックのジャーニーに彼がもう関わっていないのは……少々残念ではある」。エピックゲームズの新チーフクリエイティブオフィサーは、そんな前任者の後任として重責を担う――わけだが、それに相応しい人物像を同社はチャーリー・ウェン氏の中に見出したのだろう。IPのビデオゲームや他メディア内外への翻訳は、ウェン氏のキャリアにおける主目的の一つだからだ。ソニー(Sony)時代、ウェン氏はビデオゲームそしていまやテレビドラマでもある「ゴッド・オブ・ウォー(God Of War)」のキャラクター、クレイトスをデザインした。マーベル・スタジオ(Marvel Studios)では、『アベンジャーズ(The Avengers)』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(Guardians of the Galaxy)』といった映画のキャラクターおよび世界観をデザインした。そしてライアットゲームズ(Riot Games)では、「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」から派生したストリーミングシリーズ『アーケイン(Arcane)』の成功後、自社IPのアダプテーション準備に助力した。エピックゲームズの広報は、チャーリー・ウェン氏の雇用は認めたが、ウェン氏への取材も、氏からのコメント依頼についても、受けられないとした。
―エピックゲームズの最高クリエイティブ責任者(CCO)として新たな冒険に乗り出したことを共有できることに興奮しています。これまで私と一緒に歩んできたすべての人に深く感謝します。これからの旅は、本当に壮大なものになることが約束されていると確信しています。#EpicGames #fortnite #ue5 #mcu #godofwar #metaverse #videogames

コミュニティと関係者はウェン氏就任を歓迎

いずれにしても、現時点でゲーマーが期待できるのは、「フォートナイト」にせよ、「ロケットリーグ」にせよ、各々のお気に入りのエピックゲームズのタイトルをオンにした途端、ブランド/自社IPの大量のマッシュアップに歓迎される状態だ。となれば、さまざまなキャラクターたちをマッシュさせてフィクションの世界に送り込んできた業界の重鎮、ウェン氏がこの職に打って付けであることは間違いない。なかでも、マーベルのキャラクターたちはいまのところ、「フォートナイト」の世界に翻訳されたなかで最も有名な――そして人気の高い――存在となっている。「『フォートナイト』自体のIPだけでなく、他IPのナラティブへの統合でも、大量のストーリーテリングがある」とウェバー氏。「だから、今回の人事は理に適っていると思う」。「フォートナイト」コミュニティのリーダーたちも、ウェン氏のエピックゲームズ新チーフクリエイティブオフィサー就任を歓迎している模様だ。「ドナルド・マスタード氏の退社には驚いたが、チャーリー・ウェン氏はキャラクターおよび世界観作りにおいて見事なキャリアを築いてきた人物であり、『フォートナイト』の前進を牽引する卓抜なクリエイティブになってくれるに違いない」と、「フォートナイト」のクリエーター、アリ・ハッサン氏(ハンドルネーム:サイファーPK)は話す。「『フォートナイト』のアイコンシリーズの一員として、私はエピックゲームズのクリエイティブチームと直接コラボしたのだが、彼らのクリエイティブカルチャーには常に驚かされている。無論、重責ではある。だが私としては、チャーリーがその手腕を存分に発揮し、『フォートナイト』メタバースに新たなエクスペリエンスをもたらしてくれるのが、いまから楽しみでならない」。

マーベル・スタジオの原動力だったウェン氏

ソニー、ライアットゲームズ、マーベルでの経歴に加えて、ウェン氏は自身のスタジオ、テンスカイ・エンターテインメント(TenSky Entertainment)の発起人、代弁者、共同創業者でもある――注目すべきは、同スタジオがLinkedInで自らをメタバース企業と称している点だ。ウェン氏の元同僚らは氏の経営管理スタイルとクリエイティブビジョンを絶賛し、今回のエピックゲームズの判断に太鼓判を押す。「エピックゲームズは今後、彼が触れる物すべてに対する注目、フォーカス、情熱を得て、なおいっそう頑強になるだろう」と、ウェン氏とノーモン(Gnomon)大学時代の同期で親友、トラヴィス・ボーボウ氏は話す。「アートが得意であれば、この業界での就職に有利だし、人との付き合いが得意であれば、出世に有利だ。そしてその両方を大事にできる人は、才能を惹きつけて止まない場所で一緒に働きたいと、最高の者たちに思わせる。チャーリーはまさに、そういう才能に最高の仕事をさせる類の男だ」。ウェン氏は2000年代後半から2010年前半、マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe/MCU)の拡大期、マーベル・スタジオのまさしく原動力だった。氏は同社のビジュアルデベロップメント部門をライアン・メイナーディング氏と築いて牽引し、氏が担った役割はビジュアルデザインだけでなく、キーフレームおよびコンセプトアートを通じてMCU自体のナラティブ形成にも及んだ。氏はさらに、イラストレーター/デザイナーとしての実力だけでなく、他のクリエイティブを巧みに管理する能力にも秀でたものがあると、元同僚らは話す。「彼は反応がとても早いし、仕事に対するコメントも明瞭で的確」と、ウェン氏とは家族ぐるみの付き合いで、テンスカイ・エンターテインメントのロゴデザインも手伝ったグラフィックデザイナー、シズカ・クサヤナギ氏は評する。テンスカイ・エンターテインメントは2016年の創業以来、いわゆるホワイトラベル仕事を専門に請け負っていたと思われ、同社のプロジェクトはネット上に一切公開されていない。そしていま、ウェン氏のスタジオは見るからに、その扉を閉めようとしている――同氏のLinkedInのページには、テンスカイ・エンターテインメントにおける氏の雇用は2023年9月をもって終了、と記されている。もしもテンスカイ・エンターテインメントが、ウェン氏がエピックゲームズ入社を正式に決意する前にエピックゲームズのために何かしらクリエイティブな仕事をしていたのだとすれば、その仕事も氏と共にエピックゲームズ入りする可能性が高い。

「社会の向上につながるものを創造できる」

メタバース内での陣地構築を狙うエピックゲームズにとって、ウェン氏の雇用は間違いなく、ビデオゲームのキャラクターを変容し、クリエーター、ユーザー、ブランドが物理世界と同様に混合できる本格的ソーシャルプラットフォームにする、という同社の使命に合致している。「彼が創ろうとしているものは、確実に社会の向上に繋がる」とクサヤナギ氏は話す。「それはゲーミングやストーリー、ファンタジー云々だけの話ではない――この先、人々が手にする実際のエクスペリエンスであり、それはきっと、人々の世界に対する見方を良い方に変えてくれるはず」。[原文:Epic Games’ new chief creative is an intellectual property expert - here’s why that matters]Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)