残念ながら「愛犬の約半数」は太りすぎ…健康寿命を延ばすために知っておくべき「犬のBMI」の測り方
※本稿は、長谷川拓哉『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■愛犬の約半数は「過体重」
肥満のワンちゃんにはどうすればいいのでしょうか。
愛犬の約半数は過体重というデータがあります(米国ペット肥満予防協会の調査研究より)。
経験上、飼い主さんの9割が愛犬の肥満に気づいていません。
人間の場合、メタボは生活習慣病のリスクにもなります。犬の場合も肥満は糖尿病などの病気のリスクになるといわれています。
ただ、肥満だからといってすぐ病気になるわけではないケースも、獣医師として数多く経験しています。
ものすごく太っているのに、血液検査の結果は健康そのものという子もいました。
過去に1頭だけ肥満による多臓器不全で亡くなった子もいましたが。
ただ、太っていると関節炎になりやすいため、歩きづらくなるワンちゃんは多いです。
■人間のBMIにあたる「BCS」
犬にも理想的な体重があります。
人間の「適性体重」の目安として「BMI(ボディマス指数)」がありますが、犬の場合は「BCS(ボディコンディションスコア)」といいます。
「BCS」には5つの段階があり、「BCS1」は「やせ」、「BCS3」が「理想的」、「BCS5」は「肥満」となります。
適度に脂肪がついていて、肋骨(ろっこつ)にさわることができ、腰のくびれが見られるのが理想体型です。
上からさわっても肋骨には容易にふれられず、腰のくびれがほとんど見られないようなら、太りすぎと考えていいでしょう。
体重ではなく体格で判断するので、飼い主さんにもわかりやすいと思います。
■体重計で量らなくてもいい
そういう意味でも、犬の健康管理に「体重計」は必要ありません。
体重を量るよりも、毎日のふれあいの中で気づくことのほうが多いからです。
肋骨と腰のくびれのほか、私が特に意識してみているのは「太もも」です。
太ももをさわってみてしっかりしていると、よく運動をしているな、代謝がいいなという判断になります。
少ない頻度で診ている獣医よりも、毎日一緒にいる飼い主さんだからこそわかることも多いのです。
たとえば病院で「少し太り気味ですね」などと言われます。
肥満だから運動をすればいいのではないかと思うかもしれませんが、太っている犬は動くのもしんどいのです。
■運動量を増やすだけではやせない
肥満のメカニズムは単純です。
カロリーの摂取量よりも消費量のほうが少ないという状態が長く続くことによって起こります。
だから運動して消費カロリーを増やせばやせると思う飼い主さんは多いかもしれません。
でも、動いてやせるのはとても難しいものです。カロリー制限をすれば減量できますが、運動量を増やすだけではなかなか減量できません。
だから食事を変えましょう、ということになります。
■「ダイエットフード」で体重は落ちない
動物病院で「この食事をあげてください」と、ダイエットフードを紹介されることもあると思います。
病院で出しているダイエットフードは、満腹感を与えるために、胃の中に止まる時間が長くなるように設計されています。いわゆる食事療法食です。
カロリーも抑えめで、必要なビタミン、ミネラルも入っていて、腹持ちがよくなるように食物繊維も多めに入っていることが多いようです。
確かに食物繊維はコレステロールを増やさないのですが、それだけで体重が落ちるわけではありません。
「この食事に変えて、定期的に体重を測っていきましょう。これを食べれば適正体重に近づきます」
と言われて、飼い主さんは、太っている子にダイエットフードを与え続けます。
ところが、1カ月、2カ月たってもやせる気配がない。
飼い主さんは「このフードを食べさせているから大丈夫」「でもなかなかやせないのはどうしてだろう」と思います。
「おやつもやめましょう」と言われて、おやつもやめているのに……。
■やせない理由は「水分不足」
なぜやせないのかというと、多くの場合、水分不足で代謝が悪いことが考えられます。
私の経験上も、水分を多めにとったことで、体重が適正になったワンちゃんがいます。
「食事をダイエットフードに変えたのにやせない」というご相談があり、手作り食をおすすめしました。すると食事を水分多めのおじやにしただけで、それまでなかなか落ちなかった体重が、ストンと落ちたのです。
おそらく、そのワンちゃんは水分量が圧倒的に足りなかったのだと思われます。
尿の量や飲水量にもよりますが、この症例を経験して、水分をとることで代謝のいい体に変えることの大切さを実感しました。
■病気対策の「療法食」には注意
「病気対策の食事で病気になってしまうことがある」と言ったら驚かれるでしょうか。
病気対策で、「療法食」というものがあります。
獣医がペットの疾病の治療などを行う際に、栄養学的なサポートが必要な場合があります。
療法食とは、「治療の内容に合わせて、フード中の栄養成分の量や比率が調節され、治療を補助する目的で提供されるペットフード」のことです。
療法食には「必ず獣医師の指導のもとで与えてください」などといった注意書きが記載されています。
“治療の補助”なので、一時的なものと考えることができます。
■栄養が偏る危険性
ところが飼い主さんは「ずっと食べなければいけないもの」と思っている人が多いのです。
そういう私も、実はずっと食べるもの、食べなければいけないものだと思っていました。
療法食は、あくまでも治療の補助なので、その開始、継続、変更は獣医によって判断されます。
「ずっとこれを食べ続けなくてはいけない」とは、だれも言っていません。
でも、この認識を持っているのは一部の獣医師だけです。
療法食は、総合栄養食とは違います。各メーカーが、それぞれに研究を重ね、これなら犬の栄養要求量を満たしているとしたものです。
つまり、よく見る「AAFCO(アフコ)」、「FEDIAF(フェディアフ)」といった、ペットフードの栄養基準を満たしているわけではないのです。
療法食が病気に特化しているのはいいと思いますが、栄養が偏る可能性があるということを知っておきましょう。
療法食を食べ続けると、予期せぬ影響が出る可能性もゼロではありません。
病気を治すには、いろいろと臨機応変に変えていかなければいけないのです。
もし何か疾患があり、療法食をすすめられたら、獣医に療法食のメリットやデメリットを聞き、食材や栄養素の観点でどんなものを食べさせたらいいのか聞きましょう。
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長谷川 拓哉(はせがわ・たくや)
獣医師
北里大学獣医学科卒業後、埼玉・新潟の動物病院で11年勤務。手術件数年間800件以上の病院で高度医療にも携わるが、薬や手術が当たり前の西洋医学に疑問を感じ、東洋医学を研究。その後、新潟県でペットクリニックZero/ペットスキンケアサロンZeroをトリマーの妻と開業。食事療法や体のエネルギー改善を治療の柱とし、免疫力や自然治癒力を高めて動物たちを元気にすることを目指している。著書に『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)。
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(獣医師 長谷川 拓哉)