懐かしいドット絵で復活した『F-ZERO 99』(画像は任天堂公式サイトより)

「F-ZERO」は1990年に発売のソフト

任天堂は2023年9月14日、Nintendo Switchの新作タイトルを発表する番組「Nintendo Direct 2023.9.14」を配信した。

この番組ではさまざまなゲームタイトルが発表されて盛り上がりを見せたわけだが、とくに目立っていた1つがレースゲーム『F-ZERO 99』である。

これは1990年に発売されたスーパーファミコン用ソフト『F-ZERO』が復活したタイトルで、しかも昨今流行りのバトルロイヤル要素を取り込んでいる。なぜ注目を集めるのか、解説していこう。

そもそも「F-ZERO」シリーズはほとんど音沙汰がなかった。スーパーファミコンのタイトルとしては33年ぶりの復活であり、シリーズとしても19年近くのブランクがあったのだ。

任天堂のレースゲームといえば、「マリオカート」シリーズがある。ましてやNintendo Switchの『マリオカート8 デラックス』は5546万本(記事執筆時点)も売れており、まさしく爆発的な人気を誇る。ほかのレースゲームはあまり必要ないというのが実情なのだろう。

懐かしさで楽しめる人もいる

とはいえ、「マリオカート」と「F-ZERO」は別物である。

後者のファンはずっと新作を待ち続けており、ようやく新しい動きがあったと喜んだ。また、33年前のゲームが復活するとなると、単純に懐かしさで楽しめる人たちもいるわけだ。


登場するマシンも当時と変わらない(画像は任天堂公式サイトより)

この溜めに溜めた復活は大きな喜びを生み、元・任天堂のゲームクリエイター今村孝矢氏(「F-ZERO」シリーズなどのアートディレクションを担当)も「THANK YOU! Nintendo!」と感謝のイラストを公開している。

ゲームの歴史は徐々に長くなっており、そのなかで続きが出なくなってしまったシリーズ作品もたくさん存在する。それが復活するというだけで、大きな喜びが生まれるのだ。

とはいえ、復活したところで肝心のゲーム内容がつまらなかったら意味がない。いまいちなゲームであれば、それこそシリーズにトドメを刺してしまうし、ファンも失望するだろう。

その点、『F-ZERO 99』は心配無用だ。確かにレトロなレースゲームが基本とはなっているのだが、きちんと新しいバトルロイヤル要素を取り入れているし、おまけに組み合わせ方もうまいのだ。

本作のルールはシンプル。99人のプレーヤーでレースを行い、1位を目指して争うというものである。ただし、『F-ZERO 99』には原作と同様にプレーヤー同士が妨害しあう要素が存在する。

スピンアタックで相手をはじき飛ばしたり、相手の体力(パワーメーター)を削ってノックアウトさせることが可能。体力はコース端にぶつかる、地雷を踏んでしまうなどでも消費するので、やられずにゴールできるかもポイントとなる。


相手のマシンをノックアウトさせることも可能(画像は任天堂公式サイトより)

「どこで体力を使うか」の駆け引きが熱い

また、「体力=ターボの使用回数」となっているところも重要である。ノックアウトの要素があることで体力を温存したくなるのだが、かといって温存しすぎるとターボで速度を上げることができず、1位を狙うのが難しくなる。

つまり、体力を消費することが上位入賞へのカギとなるのだが、しかし体力を使いすぎるとノックアウトされるリスクも高まるわけだ。この「いつどこで体力を使うかの駆け引き」が非常に熱く、思わずのめり込む体験を生み出している。


単なる懐かしいゲームではない仕上がり(画像は任天堂公式サイトより)

また、ほかのプレーヤーを攻撃することでも体力が回復する、敵を倒すと体力の上限がアップする、下位プレーヤーほど逆転の手段が手に入るというように、より攻防が激しくなるような仕組みも用意している。

レースゲームとバトルロイヤルをうまく組み合わせており、単なる懐かしいゲームではない新しいタイトルに仕上がっているわけだ。

『F-ZERO 99』は任天堂のサブスクリプションサービス「Nintendo Switch Online」に加入していれば、無料でプレーできる。これには古いIPを大事にしつつも挑戦も行う任天堂の姿勢が垣間見える。

古いゲームが再び遊べるのは、それだけでも嬉しいものだ。任天堂も同サービス内でファミリーコンピュータ、スーパーファミコンなどのレトロゲームを遊べるようにしているが、しかしこれでは懐かしいだけである。

テレビゲームは非常に進歩の早い文化である。VRやARなどの例を見ればわかるように、新しい技術はすぐにゲームと結びつく。もちろん、単なるゲーム作品としてもつねに進化を続けており、数年前のゲームを遊ぶと古臭く感じたり、手間に感じる要素が多く見えたりするケースもある。

新作としての風格も兼ね備える

バトルロイヤルも、ここ6年程度で登場し定着したジャンルの1つである。そのアイデアを基に、よりゲームを進歩させていくことが重要なミッションであることは間違いない。

『F-ZERO 99』はまさしくその目標を達成しているといえる。レトロゲームの要素を取り入れつつも、昨今のトレンドを取り入れ、新たなゲームとして仕立てあげる。ただ復活しただけでなく、新作としての風格も兼ね備えているわけだ。

もっとも、完全な新作と言いがたいのも正直なところである。99台のマシンがぶつかりあう様子はおもしろいが、現代の技術で作り直してくれればもっと激しいビジュアルになるだろうし、サウンドの弱さも気になるのが正直なところだ。

とはいえ、まったくといっていいほど音沙汰のなかった『F-ZERO』が復活したことはすばらしいことだし、『F-ZERO 99』が注目すべき作品なのは間違いない。ファンが喜ぶのも当然である。

(渡邉 卓也 : ゲームライター)