W杯初戦で隣のカメラマンと顔を見合わせた瞬間 松田力也が蹴り出したキックに見た日本の意志【フォトコラム】
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
ラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会が8日(日本時間9日)に開幕。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回は9日(同10日)に行われた日本―チリ戦から。
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え、なんで狙わないの?
ピッチサイドの撮影エリアで隣のフォトグラファーと顔を見合わせた。日本のW杯初戦となるチリ戦、前半、キックでゴールが狙える好位置でのペナルティー。ポストではなくコーナーを、流大は指差した。
俺たちはトライを奪う。
BRAVE BLOSSOMS(ブレイブ・ブロッサムズ=日本代表の愛称)で言えば、「同じ絵を見る」ということか。松田力也がキックでボールを蹴り出すと、ピッチ上の誰もが強い意志に導かれるようにラインアウトへと歩んでいく。
チームはW杯の初戦を迎えるまで国内5戦で1勝4敗、怪我やレッドカードにも苦しんだ。もがき、悩み、重圧に耐えた先に出した答えはシンプル。トライを奪うことだけ。選手たちの目線はただそれだけにフォーカスしているようだった。
視界良好な選手たちが次々にゴールへと迫ってくる。突進するアマト・ファカタバ、激走する松島幸太郎、下川甲嗣の鋭いタックルがチリに突き刺さる。キックの不調が続いていた松田力也、ボールをセットし、ゴールポストを見つめてゆっくりと蹴り出す一連の動きの中によどみはなかった。誰もが迷いなく戦っている。長く日本代表チームを見ていながら、選手を信じていなかった自分を恥じた。
W杯では4本のトライを奪うことでボーナスポイントが追加される。イングランド、サモア、アルゼンチン、これからの激戦を考えればひとつでも多く勝ち点を欲する気持ちはわかる。ただ、それが真の目的ではない気がした。
自分を、仲間を、これまでのすべてを信じる力を取り戻すためにトライにこだわった気がした。
試合後の選手たちの表情は久しぶりに晴れやかだった。トゥールーズの青空に喜びの声が響いていた。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモトアキト / Akito Iwamoto)